コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「グルルゥ……!」
シーニャが戦っていた時、ウルフ族は一切敵意を表さなかった。術者も同様だったが、彼女を退《ひ》かせた代わりにおれが近づくと状況が一変する。
攻撃命令を下していなかったウルフ族に対し、連中は明らかな命令を下したのだ。妙な手の動きだけではなく、意味不明な呟きも聞こえてくる。
『生命力をそぎ落とせ……、弱き種《しゅ》は直ちに絶命せよ……』
五人ほどいる術者のうち、二人一組で強力な呟きを同時に唱えている。
ここに至るまで赤い竜が立ち塞がり、町の外門までは及ぶことが無かったようだが呪術に似た呟きを唱えているということは、意地でも町へ入れたくないらしい。
そして呟きを終えた途端、敵意むき出しのウルフ族がおれを取り囲みだした。てっきり獣人タイプかと思っていたが、おれに対し四足の獣状態で狩るつもりらしい。
毒あるいは麻痺が含まれていそうな色濃い爪が前後左右から一斉に振り上げられた。取り囲まれて逃げ場のない攻撃を喰らえば、さすがに無傷というわけにはいかない。
そんなウルフ族に対し、シーニャは正当な攻撃で倒していた。おれも彼女のようにやるべきだろうが、全く状況が異なるので手っ取り早く消し去ることにする。
「……ふぅ。悪く思うなよ?」
取り囲みのウルフ族に対し、無属性魔法を発動。燃やすでもなく凍らすでもないが、この魔法は連中の口を開かせるのには十分だった。
「バ、バカな……!? 今のは無属性魔法?」
「たかが冒険者のはずなのに……」
「どうする? どうするの? やっぱり僕らじゃ……!」
――と、予想もしていなかった展開に灰色の連中は慌てふためきながらも、別の術を試みるつもりがあるようだ。
だが、
「無駄だ。無属性魔法のディナイアル《否定》を使った。悪いが、妙な術を出すことは不可能だ」
おれが近づいていたことに気付かずに焦っていたようで、間髪入れずに親切にも宣告をしてあげた。
すると、
連中のリーダーっぽい男がおれの前に出てきた。
「お、お前は滅ぼしに来た者なのか?」
「いや、違う」
「グライスエンドのことを知って来たんじゃないのか!?」
「それが町の名なら初めて知った。この町が何だっていうんだ?」
大層な名前だし聞いたことも無い。
「……ま、待てっ! 仲間と相談したい!」
「その前に、お前たちはネクロマンサーで合っているか?」
「まだ完全じゃない……。とにかく俺たちは話をする! お前はここで待て!」
完全じゃないとか一体何を言っている?
しかしどうやら五人パーティーで動いているようで、彼らはおれを気にしながら話し合いを始めた。
どうやら予想よりも強い敵とみなされたようで、こっちをチラチラと見ている。だが、そんな連中から何か別の攻撃をしてくる様子は感じられない。
ルティたちもおれのことが気になっているようで、おれの言葉を黙って待っている。町への侵入を阻んでいるということは、同時に町を守っているとも取れるがどうだろうか。
◇◇
話し合いが済んだのか、さっきの男だけ姿を見せる。他の連中の姿はすでに無く、町へと引っ込んでしまったようだ。
さっきの男はおれと距離を置き、その場で声を張り上げた。
『お前と後ろのドワーフと獣人、それと妙な剣! そいつらも仲間か?』
「そうだ! どうするつもりで聞いた?」
『お、俺たちは撤退する。外門はランクが低いパーティーが守る役目! 不完全な俺たちをどかしてもグライスエンドは簡単には許さない! それでも入るというのなら門を開く!』
「ランクだと? お前たちはどの程度なんだ?」
『Aだ。町の中には相当上のランクがいるぞ! それでも来るつもりがあるなら――』
Aランク程度だったとはいえ、シーニャが戦って疲れたのは終わりのない敵だ。出遭ったことのない術者だとランクは意味を持たないということになる。
「それなら遠慮なく進ませてもらう!」
『くっ、いい気になるなよ? 俺たちは不完全なんだからな!!』
――強く念押しをした後、男は町の中へと引っ込んでしまった。ネクロマンサーたちと戦えると思っていたが、拍子抜けだったな。
あっさり術を使えなくしたのが効いたようだが、町の中での戦いは果たしてどうなることやら。
「シーニャ、ルティ、フィーサ! その場から動いていいぞ! これからグライスエンドに入るぞ~!!」
注意深く進むか、それとも?
「はいっっ!!」
「ウニャッ!」
「……グライスエンド? やっぱりそうなのかも……」