暗幕によって窓がすべて閉じられた、旧校舎の理科室は、全てに埃が被っていて、煙たかった。
ガチャ。
理科室のカギが開く音が旧校舎の廊下に響き渡る。
男が中に入ると、そのまま理科準備室に入ると、部屋の奥にある、棚に置いてある紙の傍にある鉛筆を手に取り、紙に名前を書いた。
筆記体でfolieと。
彼はネクタイを外すと、黒い帽子をかぶり、そのまま理科室を出た。
そして隣の空き部屋に入ると、女が一人いた。
「フロワ。久しぶりですね」
「久しぶり。元気だった?フォリー」
彼は帽子を取ると、胸の前に当てた。
「いえ、ベルに結構やられましたよ。サジェスの方の目くらましは完了しました。皆僕が死んでると思ってます」
「ふーん。やっぱり私の言ったとおりだったね。サジェスの足取りがつかめたようで良かったよ」
「ええまあ。しかし……サジェスの方に厄介なのが一人増えて」
「誰?」
「情報屋です。名前は夏田海」
「コードネームは?」
「コードネームは不明です」
「ふーん」
ジリリリリリリリリリリリリリリリリ。
ガチャ。
「もしもし?ああ、カルム。どうしたの?」
「……」
「ああ、ラトレイアーの情報屋に接触したと。分かったわ。彼もターゲットに入れておく。ただ、今回は少し待っててもらえない?フォリーが致命傷で動けないの。ベル、リュゼ、サージュを殺してからでの依頼になるけどいい?分かった。じゃそう言う事で」
「あの。僕、ボスに呼ばれてきたんですが」
「おお。じゃあ、奥にエレベーターがあるから。どうぞ」
「それでは」
彼は帽子を頭に被り、奥の扉を開けた。
一分ほど経ってから、チーンと、ドアが開いた。
「久しぶりだな。フォリー」
部屋の奥からは低い声が聞こえてきたが、姿が見えない。
「ええ。久しぶりですね。で、何の用ですか」
「君はベルに致命傷を与えられて、しばらく仕事ができないだろう」
「まあ、そりゃ致命傷は与えられましたけど、一週間で治る傷です」
「そうだな。しかし一週間も、君が殺しの仕事をしないのは、こっちとしては不利益だ。だからね、致命傷が治る一週間の間、君には別の仕事を頼みたくてな」
「なんですか」
「君には、サジェスのメンバーのリストを作ってほしい。そして、彼らを君が直接手をかけなくてもいいように、我々が支配下に置いている、ヤクザとマフィアに連絡してくれ」
「分かりました。カルムが言っていた情報屋も、ですか?」
「ああ。彼は不思議でさ。彼のコードネームは、フランス語で静かという意味のカルム。俺にさえ、素顔を見せたことはない。彼が一度も、ぼろを出すことは無いと、俺は信じてるがな」
「……それで、その情報屋のコードネームは何ですか?」
「そうだな。彼のコードネームは――」
――プラティーク。
「歩美。カルムの事調べるって、どうやって?」
事務所を出てから海が歩美に聞いた。
「うーん。今藤に聞けばわかるかもだから聞いてみるよ」
歩美はそう言っていた。が、海には心配でしかなかった。
数日前。
「は?情報屋?」
「そうだ。サジェスに新しくメンバーが増えたから。お前と同じ学年だよ。もうすぐ来るから挨拶しろ」
「情報屋なんてなくても、うちには、エスピオンがいるじゃねえか。あ、まさか管理官、またボス言われて……」
「仕方無いだろ。俺だっていやだけど、ボスがやれって言ったんだからさ~」
「……それで?奴のコードネームは?」
「ああ。そうだったな。彼のコードネームは――」
ガチャ。
「失礼します」
「へ⁉」
「おお、プラ。来てくれたな」
「こんにちは。同じクラスの秋原雪だよな」
「え、ああ。お前、名前は?」
「俺はプラティーク。本名は夏田海。宜しくな」
「よ、よろしく」
「そうそう、リュゼ。こいつの履歴書今から渡すから」
「管理官。なんでこいつを……」
「しょうがないさ。こいつはボスが選んだんだから。あ、ちなみに、そいつ、結構安い金額で情報を売ってくれるからさ。なんかほしい情報があるなら、そいつに頼め」
「……じゃあ。聞きたいことあるんだけど、良いか?」
「何?」
「ラトレイアーにいるカルム、というコードネームの男について調べてくれ」
「あー。分かったよ。でも、奴ら、カルムの関わった事件は全て隠蔽している。高くつくけど、それでもいいか?」
「ああ。もちろん」
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