東英大のキャンパス。
6月の湿気を少しうっとおしく感じる。
僕は、光平と学内の図書館で勉強していた。
真剣に頑張らないと、本当にマズイ。
そう感じていた。
こっちの心の状態なんて……お構いなしだ。
本棚の前、探してる本が見当たらないな……
誰かに借りられてる?
「希良君~はい、これ」
「亜美」
「探してたのこれでしょ?」
確かに僕が探してた本だ。
「あ、ああ。ありがとう」
「ねえ、今、ちょっといい?」
「え……光平と勉強中だから」
「大丈夫。光平には言ってきたから。希良君と話があるからって」
「何?」
正直、今は女子とは話したくなかった。
勉強に集中したかったのに。
「行こっ」
勝手に僕の手を掴んで歩き出す。
「ちょっ、何だよ……」
「いいから、こっち来て」
周りの目を気にすることもなく、手を繋いだまま亜美は図書館を出た。
「希良君。図書館の裏って……ちょっとドキドキしない?」
こんなとこで何を言うつもりだ。
「そっか? 別にしないけど」
友達に対して素っ気ない態度だとはわかってた。
だけど、東英大1番人気の亜美が目の前にいても、僕はドキドキなんてしなかった。
「希良君、いい加減に素直にならない?」
素直?
「最近暗いよ。大学生なんだから、もっと恋とかして青春しない?」
「ほっといてほしいんだけど」
本当に、それが素直な気持ちだった。
「そんな言い方しないで。希良君はいつだって元気が取り柄なのに、そんな暗いの何か嫌だよ」
「青春なんか……関係ないから」
そう、僕には「青春」なんかない。
雫さんとドキドキした恋愛は、もうできないんだから。
どんなに思ったって、あの人とは一緒にいられないんだ。
「関係なくなんかないよ!」
そう言って亜美は、突然、僕に抱きついた。
「私、やっぱり希良君が好き。大好きなんだもん」
周りからみたら、今の僕達がしてること、これが青春みたいに見えるのか?
「やめろよ。悪いけど、誰のことも好きになれないから」
「本当にどうしちゃったの?」
「僕は、いつもニコニコ笑えるわけじゃないよ。亜美や光平、みんなといると楽しい。前はそう思ってたし、そんな毎日が続くと思ってた。でも……」
「希良君……」
「恋をしてしまったんだ」
「恋を……した?」
亜美の顔がひきつる。
「年上の女性。すごく綺麗で優しい人。一緒にいたいって思ってたけど……フラれた」
「そんな……その人が希良君から笑顔を奪ったの? こんなに素敵な人をフルなんて」
「僕なんかたいした男じゃない。フラれたくらいでこんなにウジウジして」
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