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スクランブル交差点付近。
一人一人の姿を確認しながら、歩く。ぶつかりそう、というのもあるが私は別の理由で注意して歩いていた。
──今日は時間が同じだったみたいだ。
「まふゆはもう学校終わりかぁ」
「絵名、丁度いいところに」
「ん、どうしたの?」
まふゆは鞄から何かを取り出して、差し出してきた。
「はい」
「何これ……」
私は受け取らず、その中身を見る。小さなチャック付きポリ袋に入れられた黒い三角形の石のようなもの。
どこかで見たことがあるような……。
「あ、朝顔の種?」
「小学生から貰った」
「何でそんなもの貰うのよ」
「いらないからって、下校中の小学生に」
犬受けは悪いけど、子供受けはいいんだ。
そんなことは言えるはずもない。それにしても朝比奈まふゆ、何故私に種を見せたのだろうか。
「それで、私もいらないからあげるよ」
「いや、いらないわよ。いるって言うと思ったの?」
「自撮りに使っていいよ。小学生から貰ったって」
「使わないわよ! 映えないし!」
全く、まふゆは私を何だと思ってるんだ。
でも確かに、文面を考えてみたらいつもより多くいいねがもらえるかもしれない。小学生からもらっちゃったって。でも私がもらったわけでもないし……。そもそも朝顔の種が映える訳では……。自然に優しいというキャラ付け……?
迷惑そうにもらった朝顔の種を見つめるまふゆ。小学生に可哀想だけど、押し付けた小学生がこんな扱いをされていると聞いたところで、同意しかしないのだろう。
「あ、でも育ったら映えそうだし、それなら撮ってもいいわよ。今育つ?」
「流石に今すぐは無理だよ。例え植えて時間をかけたところで種になってるくらいだし、今年はもう無理なんじゃないかな」
今。その言葉の意のままに受け取り、不思議そうな顔でこちらを見てきた。やめてほしい。正確には今の時期、だ。
「んーじゃあ、来年一緒に育てよっか」
「……え?」
「え?」
瞬きを何度かしてこちらに訴えてくる。
いやだって貰ったのまふゆだし。育てないとなんか悪い気がするし。あと、自撮りの為に私一人で育てたくないし。というか朝顔って本当に映えるのか。育て方次第か。
「育てるのは好きにしたらいいけど、どうやって二人で育てるの」
「確かに。セカイとか?」
「日光は?」
「……まあ来年になってから考えればいいんじゃない?」
まだ一年も時間があるし。ってこれじゃ問題の先送りだけど。
「そうだね。覚えておくよ」
「うん」
しかしまふゆは納得したのか、朝顔の種を鞄にしまった。そして、軽く手を上げた。
「それじゃあまた、ナイトコードで」
「うん、また」
歩き出したまふゆ。
来年、まふゆのことだからこんな口約束も絶対に覚えてるんだろう。
朝顔を二人で育てる、か。
「やっぱ水やりとか面倒くさいなぁ。まふゆがいるから大丈夫だろうけど」
言い出したのは絵名でしょって、怒るまふゆの姿が想像できる。
しかし、なぜこんな事を言ってしまったのか。私は既に、勢い任せに行ったことを後悔していた。