テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
私のしてきたことなんて無意味だ。
小さな復讐は、社長が小さな痛みを感じてこそ意味がある。娘だなんて気付かれてもいなかったんだとしたら、私は空回りしてるだけだ。
「……っ」
もっと言い返してやりたいって思っているのに、言葉は形にならなかった。
喉が熱くて、歯を食いしばってないと涙がこみ上げてきそうだ。
何やっているのよ、これからこの人の会社に行くんでしょう?
こんな半泣きみたいな顔でいけないわよ。
はあ、とため息が聞こえる。
深山さんもきっと呆れているのだろう。こんな何でもできそうな人には、私がやっている自己満足の復讐なんてなんて馬鹿げて思えるに違いない。
シュッと音がした。
私のシートベルトが、彼の手によって外されたと気づいたときには、頭を掴まれ、深山さんの固い胸に押し付けられる。
一体何が、と考える余裕なんてなくて、スーツ独特の香りに混じった彼の体臭に頭がいっぱいになる。
驚きすぎて悲鳴さえ出せずにいたら、いつもよりは優しいトーンの深山さんの声が落ちてきた。
「回りくどいんだよ、君がやってることは。聞きたいことは、本人に聞けばいいだろう。君がすっきりできないのは、勝手にこうだろうと結果づけて、確かめようとしないからだ。自己完結は自己満足しか生まないぞ。……ああ、自己満足さえ生まれてないか」
いったい彼はどういうつもりなのだろう。
励ましたいのか貶したいのかもわからない口調、小さなため息は、呆れられているようにも思える。
だけど、声は優しくて、抱き寄せられた手の力は弱かったから、ただ、私の涙が見えないように隠してくれたのかなと思えた。
それで、私はようやく声を出せた。
「だ、だって。相手は社長だもの。どうやったって近づけない。あっちから近づいてきてくれない限りは」
「だから受付だったのか?」
重役出勤してくる社長なら、例えを声をかけずとも、受付にいる人間の顔を見るだろう。
気付いてほしいと、小さな念を込めて私は毎日彼を見つめた。
復讐心と思慕。
両方を抱え持っているのは苦しくて。そこから身動きが取れなくなった。
ねぇ、お母さん。
あの人は本当にお父さんなの?
どうして私に何も教えてくれなかったの。
写真のは母は何も答えない。白々しいほどの笑顔だけを向けてくるだけだ。
私はどうして生きている間に自分の父のことを聞かなかったのだろう。そんな後悔をしても、もう遅すぎた。
そして私はお門違いだと分かっていても、母を少しだけ恨んだ。
臣桜
50,557
鷹槻れん

34,256
#年の差
水無月 京
84
#大人の恋
月詠 涼
1,024
コメント
1件
ああ、もう…深山さんのあの「自己完結は自己満足しか生まない」って台詞、グサッときましたね。設定としても、主人公の「復讐心と思慕」という相反する感情を両方抱えながら動けなくなってる構図が、読んでいて苦しいほど伝わってきました。受付にいる理由が「社長に見つけてほしいから」っていうのが、復讐なのか承認欲求なのか境界が曖昧で、人間の複雑さを感じさせる描写だなと。 シートベルト外して胸に押し付ける深山さんの行動——あれ、優しさと厳しさの使い分けが絶妙ですよね。続きでこの関係性がどう動くのか、すごく気になります。