テラーノベル
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図書館での調査から三日。
残念ながら新しい成果はなかった。
「行き詰まったな……」
街の広場。
噴水の縁に腰掛けながら玲司は呟いた。
魔法消失。
五十年前。
切り取られた記録。
分かったことは増えた。
だが肝心の真相には全く近付いている気がしない。
「もう少し調べれば何か見つかるかもしれないわ」
隣に座るルナリアが言う。
「その『もう少し』で何日かかるんだよ」
「諦めるの?」
「諦めない」
即答だった。
ルナリアが少し驚く。
「意外」
「金になる可能性があるからな」
「やっぱりそれなのね」
「当然だろ」
玲司は胸を張った。
半分本音。
半分は違う。
だがその違いを説明するつもりはなかった。
その時だった。
「あの……」
二人の前に小さな影が立つ。
見上げると、十歳くらいの少女だった。
茶色の髪を揺らしながら不安そうな顔をしている。
「どうした?」
玲司が尋ねる。
少女はおずおずと口を開いた。
「お兄ちゃんたち、暇?」
「失礼なガキだな」
「暇じゃないの?」
「暇だけど」
「暇なんだ」
「ぐっ……」
反論できなかった。
ルナリアが吹き出す。
「何か困り事?」
優しく尋ねる。
少女は何度か頷いた。
「うちのおじいちゃんがね」
「うん」
「森から帰ってこないの」
空気が少し変わる。
ルナリアの表情が真剣になる。
「いつから?」
「昨日から……」
「大人には言ったの?」
「言った」
少女は俯く。
「でも村の人たち忙しいから後でって……」
玲司は頭を掻いた。
正直面倒だった。
魔法消失とは関係ない。
報酬も期待できない。
断る理由なら山ほどある。
「カミシロ」
ルナリアが見る。
玲司は視線を逸らした。
「嫌な予感しかしねぇ」
「困ってるみたいよ?」
「分かってる」
「じゃあ」
「分かってるって」
玲司は立ち上がった。
大きなため息を吐く。
「探しに行けばいいんだろ」
少女の顔が明るくなる。
「本当!?」
「勘違いするなよ?」
玲司は指を立てる。
「別に助けたいわけじゃない」
「うん!」
「暇だからだ」
「うん!」
「あと運動不足解消」
「うん!」
「話聞いてるか?」
全く聞いていなかった。
少女は嬉しそうに飛び跳ねている。
玲司は頭を抱えた。
「なんでこうなるんだ……」
「ふふっ」
ルナリアが笑う。
「何だよ」
「優しいなと思って」
「違う」
「そういうことにしておくわ」
納得していない顔だった。
◇
森は街から少し離れた場所にあった。
木々が生い茂り、昼間でも薄暗い。
「本当にここで大丈夫なのか?」
「大丈夫よ」
少女が先導する。
「おじいちゃん、よくここで薬草採るから」
三人は森の奥へ進む。
しばらく歩いた頃だった。
「おーい!」
玲司が声を上げる。
「誰かいるかー!」
返事はない。
風の音だけが聞こえる。
「見つからないな」
「もう少し探してみましょう」
ルナリアが周囲を見渡す。
すると。
「……あれ?」
少女が足を止めた。
前方を指差す。
草むらの向こう。
一人の老人が倒れていた。
「おじいちゃん!」
少女が駆け出す。
玲司とルナリアも後を追った。
「生きてる!」
少女の声に二人は安堵する。
老人は気を失っているだけだった。
怪我もない。
「よかった……」
ルナリアが胸を撫で下ろす。
玲司も小さく息を吐いた。
その時。
老人の手元に何かが落ちていることに気付く。
「ん?」
拾い上げる。
それは古びた石板だった。
手のひらほどの大きさ。
表面には見たことのない文字が刻まれている。
「何それ?」
ルナリアが覗き込む。
「知らん」
玲司は首を傾げる。
妙な石だった。
どこか不気味で。
どこか懐かしい。
そんな違和感を覚える。
だが次の瞬間。
「カミシロ」
「ん?」
「それ」
ルナリアの表情が少しだけ曇っていた。
「どうかしたか?」
「……ううん」
彼女はすぐに笑顔を作る。
「気のせいだった」
玲司は首を傾げた。
だがそれ以上は聞かなかった。
今は老人を街へ連れて帰る方が先だ。
そのため。
誰も気付かなかった。
老人の手から離れたその石板が。
一瞬だけ淡く光ったことに。
そして。
そこに刻まれた文字を見た瞬間。
ルナリアの瞳がわずかに揺れていたことに。
#未熟者が作った物語
未熟者が作った物語
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コメント
1件
読み終わりました!今回も面白かったです。 「暇だから」「運動不足解消」って言いながら結局助けに行く玲司、全面拒否できないあたりがもう完全に良い人ですね(笑)。ルナリアに「優しい」って言われて照れてるふうでもないのに否定するところも、彼らしいなと。 そして何より、石板の文字を見たときのルナリアの一瞬の動揺。「気のせい」と笑顔でごまかしたけど、あれ絶対何か知ってますよね……? 魔法消失の真相と繋がる鍵なのか、それとも彼女自身の過去に関わるものなのか。続きが気になります! あと、森の中の薄暗い描写と、風の音だけが聞こえる静けさが、ほんのり不気味で良い雰囲気でした。老人が見つかって安堵した直後に石板が出てくる構成も、リズムが良かったです。 次話も楽しみにしています!