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互いに視線をはずせないまま、見つめ合っていたら、無意識のままにどちらからともなく、唇が近づいた。
射し込む月灯りに、彼の顔がほのかに薄白んで映る。
「……。……ミクル」
名前を呼ばれ、寸前まで近づいた唇の先で、
「何…カイ……?」
少しだけ心もとない想いに駆られ、そう呼び返した。
「……キス…してもいいか…?」
まっすぐに瞳を向けられ、
「して……カイ…」
もう拒む理由はない気がした。彼の唇が触れると、微かに吸っていたタバコのフレーバーが香った……。
唇を重ねて、求め合うと、そのキスは、どこかもどかしくもあって、
歌っている時の彼の、あの妖艶で色っぽい姿からすると、小さなギャップがあった。
「ねぇ…カイ、……私が、リードしてもいい?」
ふとそんな大胆なセリフが口をつく。彼をもっと欲しい気持ちが、抑えられなくなっていた。
「んっ……いい」
喉の奥から漏れ出る彼の甘くかすれた声に、思わず唇を押しあてて、
「……ん、くっ…」
小さく喘ぐように声を漏らすその体を、石の壁に押し付けるようにして、
「うっ…ん…」
奥深くへと舌を差し入れて絡めた。
「ヤバいな…あんたのキス…」
離れた唇を、再び追いかけて、触れ合うと、
「ふぅっ……」
カイが吐息ともつかないような声を小さく上げた。
「……救ってあげたいの、あなたを……」
唇を触れたままで、思いのたけを話すと、
「俺を……?」
と、カイが潤むような眼差しでつぶさに私を見返した。
「うん…救いたい……そこから、あなたを……」
長身の彼の顔を上目に見上げる。
「……よけいなことすんな。……そんなことをしたら、あんたもあいつに何されるか……」
カイが私の身体を突き放そうとする。
「……あんたまで、あいつに何かされたりしたら、俺は……」
言葉を詰まらせるカイに、
「大丈夫……大丈夫だから……」
背中をさすりながら、なだめるようにくり返した。
「救い出してあげる…きっと、そこから……あなたを……」
彼の頬をつたい落ちた涙を指先で拭って、
薄紅く、艶やかに濡れた彼の唇に、誓いを立てるようにも、もう一度口づけた──。