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──キリトをなんとか助けたいと考えた私は、編集長の高岡に相談を持ちかけた。
業界にいる年数も長く、それなりの人脈を持っている編集長なら、何か策をひねり出してくれるんじゃないかと思ってのことだった。
私の話を聞いた高岡編集長は、
「……そうか、そんなことになってるのか、あのバンドは……」
と、ため息混じりに口にした。
「だが、あのバンドは、今が一番売れている時期だからな……。事務所が、簡単にはヴォーカルの彼を手放したりはしないだろうな……」
「それは、わかっています……だけど、今のままでは、彼がかわいそうで……」
やっぱりそう容易に解決できることではなくてと思う。
「うん……おまえの話は、よくわかった。……事務所は手放さないだろうが、幸いあそこの事務所はあまり大きくはないからな……。……俺の方で、他の大手に手を回してみることぐらいは、できるかもしれない……」
「本当ですか? どうかよろしくお願いします、編集長」
頭を下げて頼むと、「ああ、わかった。少し動いてみる」と、高岡編集長は請け負ってくれた。
ところが相談からしばらくして後に、私は、高岡編集長に呼び出されることになった。
編集部内の会議室で、
「叶…あの話は、けっこう根が深いかもしれない」
渋い顔でそう切り出されて、
「根が深いと言うのは……」
不穏な感じがよぎり、少し声を落として尋ね返した。
「……あのバンド、ギターのシュウとかいうのが、他の事務所に既に手を回している……」
編集長が言い、眉間に深いしわを刻んだ。
「えっ、シュウが、ですか……?」
「ああ…その男が、他事務所の誰かしらと繋がっていて、脱退ができないように阻んでいる…」
「そんな……。そこまでするなんて……」
かつてのバーでのシュウの姿が思い浮かんで、喉元を苦い気もちが込み上がった。
「……だから、あんまり表立っては、俺も動けない。……ヴォーカルのカイを、ソロでも欲しいところは、いくらでもいるようなんだがな…」
「どうにもならないんですか……」
あきらめ切れない思いで食い下がる私に、
「うん…表向きは無理だが、水面下でなら少しは……」
と、編集長は言葉を濁して、
「すぐには答えを出せないかもしれないが、ちょっと待ってろ…」
それだけを言い、話を締めくくった──。