テラーノベル
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激しい魔力の衝突が終わり、調律者たちが退却した後の集落には、静寂と、奇妙な高揚感がただよっていた。人々は、自分たちが絶望的な危機を脱したことに安堵し、おんりーとおら子を称えるように見つめた。しかし、英雄視されるおんりーの顔色には、生気がなかった。
「おんりー!」
おら子が駆け寄ると、おんりーの身体が大きく傾いた。彼を支えようとしたおら子の腕に、ずしりと体重がかかる。おんりーの制服は血に滲み、彼の唇は蒼白で、額には冷や汗が滲んでいた。禁忌の力を解放した代償は、想像以上に大きかったのだ。
「大丈夫……このくらい……」
彼はそう呟いたが、その声はか弱く、普段の彼からは考えられないほど弱々しかった。おら子は慌てて、集落の長老に助けを求めた。長老たちは、彼らの持つ薬草や治療魔法でおんりーの手当を行ったが、禁忌の血がもたらす反動は、グラウンドの原始的な療法では完全に癒えるものではなかった。
数日後、おんりーの身体はなんとか動けるようになったものの、その魔力は底をつき、顔色も優れなかった。集落の人々は彼らに心から感謝し、温かく見守ってくれたが、このままここに留まることはできない、とおんりーは理解していた。アストラルがこの程度で諦めるはずがない。
「感謝する。だが、我々はここを離れないといけない」
おんりーは、心配そうに見守る長老に告げた。長老は、悲しげな目をしながらも頷いた。
「わかっておる。君のもつ力は、この地にはあまりにも大きすぎる。そして、あの娘の力も……。アストラルは、必ずまたくるでしょう。その時は、おそらく、この集落も無事では済まない」
長老の言葉に、おんりーは無言で頷いた。彼の身体には、まだ禁忌の力が解放されたことによる軋みが残っている。だが、今は休んでいる暇はない。彼はおら子の能力について、そして彼自身の禁忌の血について、もっと深く知る必要があった。この力を完全に制御し、アストラルに対抗できる術を見つけなければ、全てが終わる。
「おんりー、どこに行くの?」
隣にいたおら子が、不安げにおんりーを見上げた。おんりーは、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「君の能力のルーツ、そして俺の血の源流を辿る。グラウンドの奥深くには、古代文明の遺産が眠っていると聞く。そこに、アストラルに対抗する鍵があるかもしれない」
おんりーの言葉に、おら子は真剣な表情で頷いた。
「分かった!私も一緒に行く!おんりーを1人にはしない!」
おら子は、普段からとは想像できないほどこ強い意志を見せた。あの戦闘で、おんりーが自分を庇って傷ついた姿が、彼女の中で何かを決定的に変えたのだ。彼女はもう、ただ守られるだけの存在ではなかった。
おんりーは、そんなおら子の成長を認めつつも、いつもの塩対応で言った。
「勝手にしろ…ただし、足手まといになるなよ」
だが、その言葉の裏には、どこか安堵と、かすかな信頼の色が滲んでいた。二人の間には、言葉以上の絆が確かに芽生えていた。
一方、アストラル最高評議会では、藻舞美の報告が深刻な議題として扱われていた。調律者の部隊を退けさせたおんりーの禁忌の力、そして覚醒したおら子の創生術の片鱗。これらは、アストラルが数千年かけて築き上げてきた秩序を根底から揺るがしかねないものであった。
「即刻、最終手段を発動せよ。『絶対調律者』、ゼオンを投入する」
最高評議会議長が、重々しい声で命じた。ゼオン______それは、アストラル最強と謳われる、感情を完全に排除した「調律」の権化。彼が出れば、どんな力も、どんな生命も、その絶対的な調律の前では無効化される。そして、彼は、おんりーの「禁忌の血」の存在を、誰よりも深く知る存在であった。
グラウンドの奥深くへと足を踏み入れたおんりーとおら子は、未知の森、険しい山々、そして忘れ去られた古代遺跡を目指し、旅を始めた。彼らの行く先には、アストラルからの追手、グラウンドの過酷な自然、そして、彼ら自身の秘められた力がもたらす、数々の試練が待ち構えていた。
ゼオンという名前はてきとーに付けました‼︎(もぶおにしようかと迷いましたが、藻舞美と藻舞男で紛らわしいのでやめました)
次回お楽しみに!
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