テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
おんりーとおら子の旅は、想像以上に過酷なものだった。グラウンドの奥地は、アストラルでは失われたといわれる巨大な植物があり、太古の魔獣が闊歩する危険な領域だった。おんりーは消耗した身体に鞭打ち、正確な知識と研ぎ澄まされた洞察力で道を切り開く。おら子は、彼の指示に従いながらも、その生まれ持ったグラウンドへの親和性で、食糧を見つけたり、危険な植物を無害なものへと変えたりと、時におんりーを驚かせながら旅を支えた。
過酷な旅の中、おんりーとおら子は焚き火を囲みながら、彼はアストラルでの生活や、自身の「禁忌の血」について、断片的に語り始めた。感情を抑え、完璧なエリートであろうと努力してきた過去。そして、おら子は、そんなおんりーの言葉の一つ一つに、真剣に耳を傾けた。彼女の存在は、おんりーが長年押し殺してきた感情に、暖かな光を灯し初めていた。
そして数週間後、二人はついに、古代の地図が示す「生命の聖域」へと辿り着いた。それは、巨大な樹木の根が絡み合い、天を貫くかのような神秘的な遺跡だった。内部へと足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を撫で、壁一面に描かれた古代の壁画が、悠久の時を物語っていた。
遺跡の最奥部、巨大なクリスタルの祭壇が光を放っていた。おんりーがクリスタルに触れると、彼の脳裏に、太古の映像が流れ込んできた。
かつて、グラウンドとアストラルは一つの世界だった。グラウンドの民は、「創生術」という生命を操る根源の力で大地を豊かにし、アストラルへと至る民は、その創生術から派生した「調律魔法」で秩序を築いた。そして、おんりーの「禁忌の血」は、両者の力を繋ぎ、調和を保つためのバランサーとして、生命によって生み出された特異な血統だった。
しかし、アストラルが自らの力を過信し、グラウンドの創生術を「混沌」として排除しようとしたとき、世界の均衝は崩れ、二つの世界に分かれてしまったのだ。おんりーの血は、その失われた調和を取り戻すための、最後の希望。そして、おら子の根源的な創生術こそが、その調和を再び織りなす「鍵」だった。
「そうか……俺の血は……、そしておら子の力は……」
おんりーは、深い納得と共に、絶望に似た真実を理解した。アストラルが恐れ、隠蔽してきたものは、彼らが最も必要としていた「調和」の力だったのだ。
その時、聖域の入り口から、冷たい魔力の波動が押し寄せた。
「ようやく見つけましたわ、オンリー。そして、忌まわしいグラウンドの根源の力」
現れたのは藻舞美、そして彼女を護衛するように、最高評議会直属の「絶対調律者」ゼオンだった。ゼオンの全身からは、空間を凍らせるような絶対的な魔力が放たれており、彼の周りだけ、世界の色彩が失われたかのように見えた。
「ゼオン……!」
おんりーは苦しげに呟いた。ゼオンは、おんりーと同じ血筋を持つ、アストラル最高の存在。しかし、その力は純粋な「調律」に特化されており、感情も個性も持たない、まさに「システム」そのものだった。
「貴様らの力は、世界の秩序を乱す。ここに、絶対の調律を施す」
ゼオンが無感情に杖を構える。彼の放つ魔法は、おんりーの「禁忌解放」すら瞬時に鎮圧しかねない、圧倒的なものだった。藻舞美は、おんりーの隣に立つおら子を見て、憎悪に満ちた笑みを浮かべた。
「これで終わりよ、汚れた娘。オンリーは、アストラルの秩序のために、私と共に生きるべき存在なのよ!!」
ゼオンの放った絶対調律の光が、二人に迫る。おんりーは、その全てを読み取り、おら子を庇うように身構えた。
「おら子!怯むな!君の力は、調律を超える!」
おんりーは叫び、残された全魔力を振り絞って、ゼオンの絶対調律に対抗する、壁を形成した。彼の身体に黒い稲妻が駆け巡り、瞳が真紅に染まっていく。しかし、彼の身体は限界に達しており、壁は瞬く間にひび割れていく。
「おんりー!」
おら子は、おんりーの苦しむ顔を見た。そして、彼が守ろうとしているもの、彼が信じている真実を理解した。
彼女の心に、暖かい光が灯る。
「私の力は…生命…」
おら子は、恐れることなく、おんりーの隣に立った。彼女の身体から、祭壇のクリスタルが放つ光にも似た、穏やかで、しかし力強い光が溢れ出す。
それは、全ての生命を祝福し、育むような、純粋な「創生」の魔力だった。
「おんりー!私の力……使って!」
おら子はおんりーの手を取った。彼女の温かい手が、おんりーの冷え切った指に触れる。その瞬間、おんりーの体内で荒れ狂っていた「禁忌の血」が、おら子の「創生」の力と共鳴し、奇跡のような調和を生み出した。
おんりーの身体から、黒い稲妻の魔力と、おら子の放つ白い光が混じり合い、螺旋状に天空へと伸びていく。それは、混沌と創造、秩序と生命が融合した、新たな「調和」の輝きだった。
ゼオンの絶対調律魔法は、その光に触れると、まるで霧のようにかき消されていく。彼のシステムが、理解不能な力を目の当たりにして、エラーを起こしたのだ。
「ありえない……!この力は…!調律不能……!」
ゼオンの声に、初めて動揺の色が混じった。おんりーとおら子の合わさった力は、生命の根源を揺さぶる。それは、ただの破壊でも、制御でもない。万物を生み出し、調和へと導く、真の「創生」の力だった。
その光景を目の当たりにした藻舞美は、恐怖に顔を歪ませた。彼女の傲慢なアストラル人のプライドは、この二人の前で、完全に打ち砕かれた。
藻舞美に何回もプライドを粉々にしてしまって申し訳ないと思ってきた
次回最終話です!!