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次の日、『杏』に出勤した時、榊社長の会社に配達に行くように、あんこさんから改めて言われた。
榊社長にそれを伝えると、月曜日の昼だけは社長室にいるからと……
「本当に自分が配達に行ってもいいのか?」という複雑な気持ちはまだ残ってるけど、とにかく毎週月曜日、11時半に焼き立てのパンを届けることになった。
「こんにちは」
「あ、君は……」
「すみません。来ちゃいました」
この笑顔……イチゴの彼だ。
「来てくれたんだ。この前はありがとう。渡辺君が拾ってくれたイチゴのおかげで、すごく美味いイチゴジャムができたよ」
私は、笑顔でお礼を言った。
「名前覚えてくれて有難いですけど、僕のこと渡辺って呼ぶ人いないんで。希良でお願いします」
ニコッと笑う顔、何という眩しさ。
「あっ、うん。じゃあ、希良君」
案外、サラッと呼べた。
今風のカッコいい名前だから?
それとも、希良君のキャラクターのせいかな。
「僕も名前聞いていいですか?」
「あっ、言ってなかったよね。私は……」
「美山 雫で~す。25歳、独身です。よろしくね」
私の後ろから突然出てきて果穂ちゃんが言った。
すごく可愛い声と笑顔で。
「ちょっ、ちょっと果穂ちゃん。独身は余計だから」
「いいじゃないですか~本当のことなんですから。それより、この可愛いイケメン君は誰ですか?」
目をパッチリ開けて首を傾げる。
「僕はイケメンじゃないですけど、渡辺 希良です。雫さんに会いにきました」
雫さんって……
希良君まで、名前で呼んでくれるの?
嬉しいけど、やっぱり男性に名前で呼ばれることに慣れてなくて、どうしても照れてしまう。
「雫さん? 2人はどういうお知り合い?」
果穂ちゃんの質問攻撃が始まった。
ちょっと怖い。
「雫さんとはいろいろあって。会いたいなって……」
えっ? その言い方、変に意味深だよ。
「あ、あのね、この前ね。私が落としたイチゴを拾ってくれたの。それで、またパンを食べにきてって誘ったの」
慌てて言い訳してる私。
「なんだぁ~いろいろって言うから、雫さんの彼氏なのかと思いました~イチゴ拾ってくれただけですか? つまんないですね。でも、ここから恋が始まるかも知れないですから! 雫さん頑張って」
「か、果穂ちゃん!? へ、変なこと言わないでよ。ごめんね、希良君」
果穂ちゃんは、笑いながらカフェの方に行ってしまった。
言いたいことだけ言って……
いきなり私の彼氏にされて、希良君だって迷惑だよ。
「あっ、何かパンをご馳走するから食べていってね。好きなのを取ってもらって、レジで飲み物を注文してね」
「はい。ありがとうございます」
希良君は、遠慮がちに2個だけトレーにのせて持ってきた。
「メロンパンと塩パン? これだけでいいの?」
「大丈夫です。じゃあ、あとカフェオレ下さい」
「はい。そのままテーブルで待ってて。すぐにカフェオレ持っていくから」
「わかりました」
私は、レジを他の店員に変わってもらって、カフェオレを作った。
「お待たせしました」
希良君の前にグラスを置くと、
「ありがとうございます。あの……さっき、あの人が言ったこと……雫さんにとっては変なことですか?」
って、真剣な表情で言った。