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疲れた
もう走れない
自分がやりたいようにやってるつもりでも
自分を消費されているような感覚
冗談じゃない
もう
無理だ
このままでは、自分と世界との乖離が止まらないと恐れた俺は、バンドの活動休止を決めた。
怒涛のように流れていた時間は、スケジュールと共に動きを止めた。
*******************
「涼ちゃんと若井さぁ、ぶっちゃけあんま仲良く無いよね。」
打ち合わせの為に、ある会議室に集まっていた時、俺は不意に言った。
2人とも目を丸くして俺の顔を見た後、気不味そうにお互いをちらと見る。
「ん?んん〜…まぁでも悪くは無い、よ、ね?」
若井が確認するように涼ちゃんに問いかける。
「え?あはぁまぁ、あの〜まぁメンバーだし、出会いも友達からってわけじゃ無いから、仲良いとか仲悪いとか考えてこなかったけど…うん、でも、ね?悪くは無いと思うよ?」
涼ちゃんは若井に気を遣って言葉を選びながら曖昧に返事をする。
「あのさ。これからはさぁ、生半可じゃダメなんだって。3人でやってくんだから。」
俺はつい語気を強めてしまった。2人の顔が曇る。
そう、俺が活動休止を決めた後、5人のうち2人のメンバーが脱退を申し入れてきた。
俺は自分を責めた。
ごめん、ごめんな。俺のせいだ。俺が休みたいって言ったから。言わなきゃ良かった、休みたいなんて。止めなきゃ良かった。
俺は柄にもなく涙でぐしゃぐしゃになりながら後悔を口にし続けた。
2人とも、絶対に元貴のせいじゃ無い。自分たちの道と、ミセスのこの先辿る道が分かれただけだって、俺と同じく涙を流して話してくれた。
ただ、もう本当に彼らとの道は続かないんだと、俺は絶望した。
それから、若井と涼ちゃんとも話し合って、3人でも続けて行く意思を確認したばかりだった。
「だから、これはマネージャーとも相談した事なんだけどさ。…2人とも一緒に住んでくんないかな。ルームシェアすんの。2人で。」
「…マジ?」
若井の顔が歪む。驚きなのか、拒絶なのか。
「え…元貴は?一緒?じゃないの?」
涼ちゃんが縋るような目で聞いてくる。
「2人でだよ。俺がいたら間に入っちゃって意味ないじゃん。2人の仲を深めて欲しいっつってんのに。」
わざとイラついたような、突き放すような、そんな言い方になってしまった。
そっか…そうだよね…と涼ちゃんは下を向く。
若井も下を向いて黙っている。その表情は硬いままだ。
重い空気が時間を長く感じさせる。さして間は空いていないはずなのに、随分とみんな黙っていた気がしてしまう。
口火を切ったのは、やはり年長者の涼ちゃんだった。
「…俺さ、割とズボラで、若井にとってストレスになっちゃう事も絶対あると思うけど、ちゃんと気をつけるから、なんでも言ってね。」
表に出ない時、涼ちゃんはよく「俺」と言う。話し方も落ち着いていて、若井を安心させる為にわざと年上感を出したのだろうか。
若井は両手を額に付けて少し顔を隠すように俯いたまま、小さく唸った。
「う〜〜〜…想像つかね〜、けど…んあぁ〜!」
ひとしきり悶えた後、パッと右手を涼ちゃんに差し出す。
「もう、よろしくっ!!!」
涼ちゃんはホッとした顔で、若井の手を取り握手した。
俺は、その光景を酷くドロドロとしたものを腹の底に抱えたまま、表面だけは微笑んで見つめていた。