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いつも5人でいたわけじゃない、たまにこの3人だけで話す場面だって今までにもあった。
そんな時に、ふと若井が
「ちょ待って、こんなん中学ん時もなかった?ほらあの…」
「あー、あれでしょ?」
と、俺と若井にしかわからない学生時代の話を出すことがあった。
「あそーなんだ〜」
涼ちゃんは笑って相槌を打ってくれる。
俺は少し気にしてはいた。自分が知らない話で他が盛り上がるのってホントはつまんねーし、しんどいよな〜って。
でも、脱退するメンバーに改めて言われたんだ。
「涼ちゃんを1人にしないでやって」って。
「元貴と若井の想い出話で盛り上がる時、ちょっと寂しそうに笑うから」って。
ガツンと頭を殴られたような衝撃がした。
去り行く仲間にまで心配をかけてしまう、今の自分たち。
こんなんじゃダメだ。今のままじゃ、ミセスがなくなる。
そうしたらきっとーーーーー
数日後、マネージャーと事務所スタッフが、2人の新居をいくつか見繕って資料を渡してきた。
机の上に広げられた間取りの紙をいくつか手に取り、それらに目を通して行く若井と涼ちゃん。
あらかた目を通したであろう若井が、軽く息を吐く。
涼ちゃんはまだ紙の上に視線を落としている。
「なんかいいのあった?」
「うんー…。」
若井の問いかけに、目線を外さず応える涼ちゃん。
「若井は?気に入るのあった?なんかこだわりとかある?」
「俺はねー、お風呂かな〜。」
「お風呂?バストイレ別とか?」
「いやそれ大前提じゃね?ていうか無かったでしょユニットバスなんか」
若井が机の上の紙を指差し笑う。
「あはそっか、ごめんごめん。お風呂がなに?」
「湯船が広いのがいいかな〜、脚伸ばしたいから。伸ばしたくない?脚。」
「あー、若井背高いもんね、脚も長いし。」
「あんま変わらんやん!」
「え、そお?」
2人が顔を見合わせ笑いながら話す。2人と机を挟んで、スタッフと他の事について打ち合わせをしていた俺は、その様子を見て密かにホッと胸を撫で下ろしていた。
数日前の、あの重い空気のまま、部屋を決めることになったらどうしようかと、少し不安だったのだ。
俺の打ち合わせが終わる頃には、部屋の候補が3つに絞られていた。
マネージャーと2人は、後日内見に行くらしい相談をしていた。
「元貴くんどうする?一緒に行く?」
マネージャーがこちらに問いかけ、その後ろからは2人の伺うような視線を感じた。
「ん、いや俺はいーや、ちょっとやる事あるし。」
そう、とマネージャーは2人を振り返り、内見の日取りを決め始める。
涼ちゃんからは、まだ視線を向けられている気がした。
「んじゃ、おつかれぃ〜。」
打ち合わせが終わり、解散の時間となった。
荷物をまとめながら、俺はみんなに声をかける。
「おつかれ〜。」
「おっつ〜ん。」
荷物をまとめたり、スマホに目をやったりしながら、涼ちゃんと若井が口々に言う。
「涼ちゃん。」
「ん?なに?」
俺が声をかけると、涼ちゃんは荷物を触る手を止め、パッと顔を上げた。
「あのさ、部屋が決まっても俺には言わないでね。」
「え、なんで?」
不安の色が彼の顔に広がった。若井もスマホから目を離しこちらを伺う。
「だって、新居パーティーでお披露目した方が楽しいじゃん。 」
「「新居パーティー?」」
涼ちゃんと若井の声が重なる。
「うん、パーティー。するでしょ。え?するでしょ?」
「え?パ、パーティーするの?」
「知らん知らん!」
3人で吹き出して笑う。
ここ数日のなんとも言えない空気が、少し解けた気がした。
窓の外は、すでに橙に染まりはじめていた。