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#ワンナイトラブ
篠原愛紀
その日、結局リリアンナは一日をランディリックの寝室で過ごした。
身体の痛みもあったけれど、それ以上に、自室へ戻る勇気が出なかったのだ。
あの乱れた寝台を。
血の滲んだシーツを。
ナディエルたちが片付けたのだと思うと、羞恥で顔から火が出そうで……。
ナディエルの、扉越しの「お嬢様……」という呼び掛けにでさえまともに応じることが出来なかった。
結局、ランディリックはそんなリリアンナを無理に外へ連れ出そうとはせず、他の侍従たちからも当然のように遠ざけてくれた。
食事の手配や朝の身支度の手伝いでさえ、ランディリックが手ずから行ってくれて、リリアンナの心が落ち着くのを待つみたいにずっと傍へついていた。
書類へ目を通しながら、ときおり紅茶を飲ませてくれたり、菓子を手配してくれたり……。
「今日は一日、なにも気にせず身体を休めておいで」
そう言って、ベッド上のリリアンナの髪を優しく撫でた。
その甘やかさが、逆にリリアンナを混乱させた。
もっと、ランディリックの妻としての心構えを――、女主人としてどうあるべきか……を説かれるかと思っていた。
いつまでも引きこもっていても仕方ないのだから、恥ずかしがらずに皆の前へ出るように、と申し付けられることも覚悟していた。
あるいは、リリアンナの貞操を奪った者の傲慢さで、黙って僕に従えと命じられるかもしれない、とも――。
貴族男性の中には、そういうタイプの人間が少なからずいるというのを、先のデビュタントでほかの御令嬢方が話しているのを小耳に挟んでいたリリアンナは、ランディリックが変貌することを恐れていた。
けれどランディリックは、今までと変わらず――いや、ともするとそれ以上大切に……〝愛しい妻を扱うように〟彼女へ接してくれた。
なんとなくの肌感覚。ランディリックはリリアンナが引きこもっていたいと望む限り、いつまででも〝そうさせてくれる〟気がして――。
「ランディ、私……」
リリアンナは自分を鼓舞して、ランディリックに〝今まで通りの生活〟に戻る旨を告げた。
「無理してないか?」
そう聞かれたのは言うまでもない。
リリアンナはゆるゆると首を横に振ると、「大丈夫」と微笑んで、翌日からは自らの意志で自室へ戻った。
専属侍女ナディエルも、侍女頭のブリジットも、執事のセドリックも、そんなリリアンナに〝今まで通り〟に接してくれて……。
リリアンナはやっと、肩の力を抜くことが出来た。
そうして夜――。
今まで通りの延長を過ごせると思っていたリリアンナは、それが間違いだったことを思い知らされる。
あの、初めての日の翌日、自室へ戻ったリリアンナは、こちら側からできるようになっていた内扉の施錠が、外されていることに気が付いた。
(え、うそ……)
それはおそらくランディリックの部屋で一日を過ごした間になされたことだったのだろう。
そうしてその意図を裏付けるみたいに、
「おやすみ、リリー」
そう言ってランディリックから額へ口づけを落とされ、自室の寝台へ入っても、朝、目を覚ますのは決まってランディリックの腕の中――。
それが、当たり前になってしまっていた。
あの日以降、無理に身体を開かれるような無体なことはされていない。
でも――。
ランディリックの腕に包まれ、柔らかな抱擁を受けているうちに、〝そういうこと〟になることが多くなって……。
(……私……どうしちゃったの?)
最初の数日は、本気で混乱した。
夜中のうちに運ばれているのか。
それとも、自分から向かってしまっているのか。
怖くて聞けなかった。
ただ分かるのは、ランディリックがそれを当然のように受け入れていることだけ――。
「眠っているうちに僕を探していたよ」
ある朝、穏やかにそう告げられて、リリアンナは羞恥で真っ赤になる。
「う、嘘です……っ」
「本当だ」
くすりと笑いながら髪を撫でられて、リリアンナは布団へ顔を埋めた。
そんな毎日が、少しずつ続いていく。
日中、リリアンナはなるべく平静を装って過ごした。
ナディエルと話し、クラリーチェと本を読み、時には庭へ出て三人でお茶会をする。
そんな日々の中、リリアンナさえ気づかないくらいの些細さで、使用人たちの態度が少しずつ変わっていた――。
コメント
2件
ランディーとリリアンナちゃんが一緒になってくれてよかった〜。 リリアンナちゃんが寝てからランディーが運んでるのは間違い無いと思うんだけどな😊
ひゃ〜〜〜〜!!!219話お疲れ様です!!😭💕💕 もうね、この回しんどすぎて尊すぎて無理!!初夜の次の日、ランディリックがずっとそばにいてくれて髪撫でながら「気にせず休んでおいで」って…は?そんなん言われたら一生推せるんだが??💘 で、リリアンナが自分から「戻ります」って言ったところめっちゃ偉いし可愛い…!けどその後の内扉の施錠外し&毎朝ランディリックの腕の中って展開がエモすぎて鼻血出るかと思った(笑)「眠ってるうちに僕を探してたよ」←こんなんずるすぎる!!!言われたら赤面不可避すぎ🥺🌸 しかも使用人の態度が変わってきてる伏線も気になる〜!続きも絶対読む!!作者様天才すぎん??✨