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――息が、続かない。
肺が焼けるように痛い。
足はとうに限界を越えている。
それでも、
オリバーは走り続けていた。
背後から迫る、
複数の足音。
ひとつではない。
クレア。
エドワードだったもの。
ジップだったもの。
邪の気配が、
まるで鎖のように絡みついてくる。
「……っ、はぁ……はぁ……」
頭の中に、
過去が何度も蘇る。
笑った顔。
見下した言葉。
追い詰めた瞬間。
――自分がやったことだ。
逃げてきた。
見ないふりをしてきた。
でも今、
全部が追いついてきている。
「……俺の、せいだ……」
オリバーは、
無意識にそう呟いた。
その横で、
チップが必死に走っている。
小さな体。
震える肩。
ジップが、
命を賭して守った存在。
(……違う)
(こいつまで、
巻き込むわけにはいかない)
オリバーは、
急に立ち止まった。
「……え?」
チップが振り返る。
背後には、
もう――
逃げ場がない距離まで迫った影。
オリバーは、
ゆっくりと深呼吸をした。
恐怖は、消えない。
だが、その奥に、
別の感情が浮かぶ。
――覚悟。
「チップ君」
声は、
意外なほど落ち着いていた。
「俺が、時間を稼ぐ」
チップの目が、
大きく見開かれる。
「……え?」
オリバーは、
チップの肩に手を置いた。
「金髪で、小柄で、
青い服を着てて、
剣を持った男子生徒がいる」
リンクの姿。
あのとき、
ほんの一瞬だけ見た、
“逃げない目”。
「その人を探すんだ」
「で、でも……!」
オリバーの背後で、
邪の気配が膨れ上がる。
もう、
振り返る必要はなかった。
――すぐそこだ。
オリバーは、
チップを強く突き出すようにして、
叫んだ。
「走れ!!!!」
チップは、
涙をこぼしながらも、
走り出した。
足音が、
遠ざかっていく。
オリバーは、
それを確認してから、
ようやく振り返った。
クレアがいた。
その奥に、
自分が作り出した“結果”たち。
「……ごめん」
誰に向けた言葉かは、
分からない。
オリバーは、
目を閉じた。
逃げるためじゃない。
守るためでも、
英雄になるためでもない。
ただ――
過去を、終わらせるために。
邪が、
一気に押し寄せる。
恐怖。
後悔。
自己嫌悪。
すべてが、
胸の奥に流れ込んでくる。
オリバーは、
抵抗しなかった。
(……これで、いい)
覚悟と共に、
彼の意識は、
邪の中へ沈んでいった。
彼は自身の罪から逃げ切れ無かった。単なる死では、恐らくその過去を償いきれない。
――だが。
彼の選択は、
確かに誰かを前へ進ませた。