テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
26-1◆王の尋問、そして観測者の仮面◆
高島に案内され、俺がたどり着いたのは新校舎の屋上だった。
フェンスに囲まれただけの殺風景なコンクリート。
そこには五人ほどの男たちがいた。
その中心で給水タンクに腰掛けている男。
轟木剛造。
夕日を背にしたそのシルエットは、王の風格を漂わせていた。
俺のスカウターが、警告を発する。
【Target: 轟木 剛造】
【腕力レベル:測定不能(MAX)】
【戦闘シミュレーション:勝利確率0.1%】
(喧嘩しても、絶対に勝てない)
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
轟木は、静かに俺を見ている。
そして意外なことに、彼の口から出たのは感謝の言葉だった。
「音無 奏。長峯の件は聞いた。あいつを助けてくれたそうだな。礼を言う」
その声は、低く穏やかだった。
しかしその直後。
彼の隣に立つNO2坂元要介が、氷のような視線を俺に向けた。
空気が一変する。
「ところで、音無」
坂元が尋問を始める。
「お前は三好と同じクラスだよな。なぜあのとき、一年の渡り廊下にいたんだ?お前に用はないはずだ」
「たまたまです。忘れ物を取りに行く途中でした」
俺は用意していた答えを返す。
しかし坂元は鼻で笑った。
「偶然か。ひとつ教えてやる。三好が長峯に因縁をつけたきっかけは一枚のメモだったそうだ」
心臓が跳ねる。
「長峯に因縁をつけたのも、二年四組の人間。そして長峯を救ったのも二年四組の人間」
「何だか違和感を感じるな。知っているなら真実を説明しろ」
(まずい。こいつら、俺がメモを書いたと疑っているのか?)
(不良のくせに馬鹿じゃない。腐っても超名門、洛北祥雲学園の生徒なんだ。頭は切れる)
(これは、絶対に認めるわけにはいかない)
「何のことだか、わかりません。ただの偶然では?」
坂元は俺の正面に移動し、ゆっくりと俺の目を見つめる。
俺が黙り込んでいると、今度は轟木本人が口を開いた。
その瞳は、俺の全てを見透かすように鋭い。
「なあ音無。単刀直入に聞く」
「長峯の奨学金のこと、知っていたのはお前じゃないのか?」
「そして三好の机に、メモを入れたのもお前じゃないのか?」
俺は動揺を完璧に隠し、無表情の仮面を被る。
「さあ、何のことだか分かりませんね」
轟木と坂元は、しばらく無言で俺を見ていた。
重い沈黙が続く。
やがて轟木がため息をついた。
「要介。もういい。今日のところはこいつを帰せ」
「こいつが長峯を助けたのは事実だ。不義理はできねえ」
「だが音無 奏。お前のことはマークしておく。次に何かおかしな動きをしてみろ。その時は容赦しねえ」
坂元も口を開く
「俺らは、徹底的に調査する。自分の口から話したほうが賢明だぞ」
俺は何も言わず、一礼するとその場を立ち去った。
屋上のドアを閉めるまで、決して背中の緊張は解かなかった。
そして一人になった瞬間。
俺の体は、壁に崩れ落ちた。
心臓は破裂しそうに脈打ち、全身は冷たい汗で濡れていた。
(助かった)
何何とか無事に、屋上を出ることができた。
内心は恐怖で完全にびびっていたが。俺は安堵の息を漏らした。
26-2◆観測者の凱旋そして次なる戦場◆
恐怖の屋上から俺は二年四組の教室へと戻った。
ほとんどの生徒はもう帰宅している。
がらんとした教室。その中でただ一人。
山中駿平が俺の席で、落ち着かない様子で待っていた。
俺の姿を認めた瞬間、彼は駆け寄ってくる。
その顔には、畏怖と好奇心が混じっていた。
「音無!大丈夫か!?お前生きてたのか!」
「轟木一派に呼び出されるなんて、前代未聞だぞ!」
「一体、何をされたんだ?何の話だったんだよ!?」
山中は、質問を矢継ぎ早に浴びせてくる。
俺は、彼のその心配に感謝しつつも、答える気はなかった。
「別に。何でもない」
俺はただ短く答える。
「ただの人違いだったみたいだ」
「人違いだあ?んなわけあるかよ!」
食い下がる山中
だが、彼は俺の鉄の無表情を見ると、それ以上何も言えなくなった。
そして何かを思い出したように話題を変える。
「まあいいけどよ。それより、お前すげえじゃん!」
「三好から長峯を助けたんだってな!お前の仲裁、マジで神だったって、噂になってるぞ!」
山中の瞳が、再び興奮に輝き始める。
俺の株が上がっていくのを俺はただ冷静に、観測していた。
そして俺は「正義の味方」という最高の隠れ蓑を手に入れた。
全ては脚本通りだ。山中はさらに続ける。
「はあ。まあ色々ありすぎだろ。この数日間。ああそうだ。それよりヤバいぜ。再来週から中間試験だってよ」
(中間試験か)
その言葉に、俺の思考は轟木剛造から教室リーグへと引き戻される。
山中は自分の成績を嘆いている。
「俺なんかマジやばいよ 下から数えたほうが早いよ。成績・・・」
山中のその何気ない一言。
それが俺の脳内で新しい回路を繋げた。
俺の口元に冷たい笑みが浮かぶ。
(中間試験。次のゲームの舞台になるかもな)
俺は新しい戦場の匂いを、確かに嗅ぎ取っていた。
#異能