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26-1◆王の尋問、そして観測者の仮面◆
高島に案内され、俺がたどり着いたのは新校舎の屋上だった。
フェンスに囲まれただけの殺風景なコンクリート。
そこには五人ほどの男たちがいた。
その中心で給水タンクに腰掛けている男。
轟木剛造。
夕日を背にしたそのシルエットは、王の風格を漂わせていた。
俺のスカウターが、警告を発する。
【Target: 轟木 剛造】
【腕力レベル:測定不能(MAX)】
【戦闘シミュレーション:勝利確率0.1%】
(喧嘩しても、絶対に勝てない)
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
轟木は、静かに俺を見ている。
そして意外なことに、彼の口から出たのは感謝の言葉だった。
「音無 奏。長峯の件は聞いた。あいつを助けてくれたそうだな。礼を言う」
その声は、低く穏やかだった。
しかしその直後。
彼の隣に立つNO2坂元要介が、氷のような視線を俺に向けた。
空気が一変する。
「ところで、音無」
坂元が尋問を始める。
「お前は三好と同じクラスだよな。なぜあのとき、一年の渡り廊下にいたんだ?お前に用はないはずだ」
「たまたまです。忘れ物を取りに行く途中でした」
俺は用意していた答えを返す。
しかし坂元は鼻で笑った。
「偶然か。ひとつ教えてやる。三好が長峯に因縁をつけたきっかけは一枚のメモだったそうだ」
心臓が跳ねる。
「長峯に因縁をつけたのも、二年四組の人間。そして長峯を救ったのも二年四組の人間」
「何だか違和感を感じるな。知っているなら真実を説明しろ」
(まずい。こいつら、俺がメモを書いたと疑っているのか?)
(不良のくせに馬鹿じゃない。腐っても超名門、洛北祥雲学園の生徒なんだ。頭は切れる)
(これは、絶対に認めるわけにはいかない)
「何のことだか、わかりません。ただの偶然では?」
坂元は俺の正面に移動し、ゆっくりと俺の目を見つめる。
俺が黙り込んでいると、今度は轟木本人が口を開いた。
その瞳は、俺の全てを見透かすように鋭い。
「なあ音無。単刀直入に聞く」
「長峯の奨学金のこと、知っていたのはお前じゃないのか?」
「そして三好の机に、メモを入れたのもお前じゃないのか?」
俺は動揺を完璧に隠し、無表情の仮面を被る。
「さあ、何のことだか分かりませんね」
轟木と坂元は、しばらく無言で俺を見ていた。
重い沈黙が続く。
やがて轟木がため息をついた。
「要介。もういい。今日のところはこいつを帰せ」
「こいつが長峯を助けたのは事実だ。不義理はできねえ」
「だが音無 奏。お前のことはマークしておく。次に何かおかしな動きをしてみろ。その時は容赦しねえ」
坂元も口を開く
「俺らは、徹底的に調査する。自分の口から話したほうが賢明だぞ」
俺は何も言わず、一礼するとその場を立ち去った。
屋上のドアを閉めるまで、決して背中の緊張は解かなかった。
そして一人になった瞬間。
俺の体は、壁に崩れ落ちた。
心臓は破裂しそうに脈打ち、全身は冷たい汗で濡れていた。
(助かった)
何何とか無事に、屋上を出ることができた。
内心は恐怖で完全にびびっていたが。俺は安堵の息を漏らした。
26-2◆観測者の凱旋そして次なる戦場◆
恐怖の屋上から俺は二年四組の教室へと戻った。
#学園
大正
5,254
#糸師凛
りー
242
#ギャグ
梨本和広
6,021
桜咲かな
284
ほとんどの生徒はもう帰宅している。
がらんとした教室。その中でただ一人。
山中駿平が俺の席で、落ち着かない様子で待っていた。
俺の姿を認めた瞬間、彼は駆け寄ってくる。
その顔には、畏怖と好奇心が混じっていた。
「音無!大丈夫か!?お前生きてたのか!」
「轟木一派に呼び出されるなんて、前代未聞だぞ!」
「一体、何をされたんだ?何の話だったんだよ!?」
山中は、質問を矢継ぎ早に浴びせてくる。
俺は、彼のその心配に感謝しつつも、答える気はなかった。
「別に。何でもない」
俺はただ短く答える。
「ただの人違いだったみたいだ」
「人違いだあ?んなわけあるかよ!」
食い下がる山中
だが、彼は俺の鉄の無表情を見ると、それ以上何も言えなくなった。
そして何かを思い出したように話題を変える。
「まあいいけどよ。それより、お前すげえじゃん!」
「三好から長峯を助けたんだってな!お前の仲裁、マジで神だったって、噂になってるぞ!」
山中の瞳が、再び興奮に輝き始める。
俺の株が上がっていくのを俺はただ冷静に、観測していた。
そして俺は「正義の味方」という最高の隠れ蓑を手に入れた。
全ては脚本通りだ。山中はさらに続ける。
「はあ。まあ色々ありすぎだろ。この数日間。ああそうだ。それよりヤバいぜ。再来週から中間試験だってよ」
(中間試験か)
その言葉に、俺の思考は轟木剛造から教室リーグへと引き戻される。
山中は自分の成績を嘆いている。
「俺なんかマジやばいよ 下から数えたほうが早いよ。成績・・・」
山中のその何気ない一言。
それが俺の脳内で新しい回路を繋げた。
俺の口元に冷たい笑みが浮かぶ。
(中間試験。次のゲームの舞台になるかもな)
俺は新しい戦場の匂いを、確かに嗅ぎ取っていた。