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るる太📱⚡🐼
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「元宮さん。週末お疲れ会です。少し飲みましょ?」
シャワーを浴びてリビングに戻ると、テーブルで待っていた蜷川にそう声をかけられた。
なんや、先に寝室へ行ってくれてたら、この心臓の高鳴りも少しは落ち着かせられたのに……。
「……おう、もちろん。付き合うわ」
平静を装って冷蔵庫を開け、ビール缶とおつまみを取り出す。
お酒を飲むとなると、さすがにさっきみたいに子供たちのベッドに潜り込むわけにはいかんな。酔った勢いで小さな二人を潰してしもたら洒落にならんしな。
「お疲れ様でした」
カチン、と軽い音を立ててビールで乾杯する。
それにしても、こないだ「新先生はいらないですよね?」なんて牽制するようなことを言っていた蜷川が、なぜ今日、新を家に呼ぶことを提案したのか、それがちょっと不思議やった。
「……新とは、仲良くなれたみたいやな?」
俺がそう振ると、蜷川はビール缶を持ったまま、少し口を尖らせた。
「……それ、ちょっと気に食わないです」
「へ?」
なんや、俺、こんな一言で蜷川を拗ねさせるようなこと言うたか?
「俺の方が先に元宮さんと知り合ってるのに。なんで、新先生が先に呼び捨てされてるんですか?」
「いや、それは……そういうきっかけがなかっただけやと思うねんけどな」
そもそも、プライベートでこんなに関わるようになるまでは、社内でたまにすれ違って軽く話をするだけの先輩と後輩やったわけやし。
「じゃあ、新先生とはどういうきっかけで呼び捨てになったんですか?」
身を乗り出して詰め寄ってくる。まぁ、新は俺のことを「元宮さん」と呼んでいるのに、俺だけが偉そうに「新」と呼び捨てにしているのが気になるのは分からんでもない。
「……早く仲良くなりたいから、タメ口で、呼び捨てにして欲しいって。新の方からお願いされてん」
そう答えた瞬間、蜷川があからさまに機嫌が悪くなっている。さっきまでリビングであんなに新と楽しそうに笑い合っていたのに、あれ、嘘やったん?
「……じゃあ、俺のことも空って呼んでください」
「いや、さすがに会社内でそれはまずいやろ」
突然の下の名前呼びの要求に、俺は慌ててビール缶を置いた。
「新先生だって、幼稚園でそれはまずいでしょ?」
「いや、幼稚園で呼ぶ時はちゃんと新先生って呼んでるで?」
「じゃあ、俺も会社では『蜷川』、それ以外は『空』って呼んでください」
鋭い視線で真っ直ぐに見つめられ、言葉に詰まる。
そんな怒ったように真剣なお願いをされても、俺はどうしていいか分からん。
新のときは、まだよかった。お互いに子供をきっかけに、戦友や友達のような感覚からスタートしたから、呼び捨てにもすんなり移行できた。
でも、蜷川はちゃうねん。
俺は蜷川を一人の人間として、ちょっと……いや、かなり意識してしまっている。そんな相手を、まるで恋人同士みたいに下の名前で呼ぶなんて、そんな簡単な事じゃない。
「はい!Everybody say! そ~ら!」
「……なんでコール&レスポンス方式なん?」
「Say! そ~ら!」
「……そ~ら」
「声ちっちゃい! Say! そ~ら!」
「そ~ら!」
「そ~ら!」
「そ~ら!!」
「Excellent!!」
「いや、無駄に発音ネイティブやな」
空が満足げにパンパンと手を叩いている。ほんま、ふざけすぎてええ加減にせんと、子供らが起きてくるで。
「蜷川、もう結構酔うてんな?」
「は? 酔ってへんし。……って、空!!」
「ふふっ、ごめん。空、やな」
少し照れながら名前を呼ぶと、さっきまで勢いづいていた空も急に恥ずかしそうに顔を赤くして、缶に残っていたビールを一気に飲み干した。
「……あ、元宮さん!明日、写真撮りません?」
「え?」
急な提案に、ビールを置く手が止まる。空が指差したのは、リビングの壁にあるコルクボードだった。新がいた時に話したけど、今年撮ってないのなんで知ってんの?
「これ、結構前の写真ですよね? 奥さんがいるし、洸くんなんてほんま赤ちゃんじゃないですか」
「……そうやな。それは二年前ので、去年のやつはいつの間にか無くなっててん」
「……押しピンの穴が一つしかないってことは、今年はまだ撮ってないんでしょ?」
なんなんその探偵みたいな言い方。思わず吹き出してしもたやん。
「ご名答。すごいな、空の推理力」
「……でしょ?」
ん? 空、ちょっと耳まで赤くなってないか。大分お酒も回ってきたみたいやな。一週間の仕事の疲れもあるやろうし、明日もきっと朝から子供たちに振り回される。はよ寝てもらわんとな。
「……俺、今ちょっと髪伸びてきてるし、薄目で見たら八割方お母さんですよ」
「ふふっ、わかった。じゃあ、ピンチヒッター空くんでお願いしよかな?」
「はい! もちろんです! やったー!!」
「ふふっ、やっぱ空はかわいいなぁ」
ニヤつきながらビールを喉に流し込んだ瞬間、ハッと心臓が冷たくなった。
……俺、今、口に出してなんて言うた!?
あかんやん! 今まで散々心の中で留めて、言うのを我慢してきたのに。お酒の力ってほんまに怖すぎる。
「ごめん! 今のはその、子供たちと同じ感じのかわいいやから! そんな下心とかあるやつじゃないからな? 変な感情とかないから!!」
慌てて手を振って弁解する俺を見て、空は一瞬目を丸くしたあと、ふっと柔らかく微笑んだ。
「……大丈夫です、わかってますよ。……義理の長男として、ですよね?」
そう言いながらも、空もどこか耳の赤さが引かないまま、二人してアタフタと視線を泳がせている。もう、ほんま俺、いつまでも情けない先輩のままやわ。
「えっと……! 俺、今日は下のソファで寝るから。空は二階のベッド使い!」
「はい! あ……明日、写真撮るのと、あと『伝説の剣』を探すのも忘れないでくださいね!」
さっきまでの気恥ずかしい空気をガラリと変えるように、空が茶目っ気たっぷりに笑って二階へと上がっていく。
そうや、伝説の剣。さっき二人の部屋に入った時も気づかんかったし、俺の寝室にも無かったよな。
まぁ、隠し場所は明日の楽しみにしとこか。
トクトクと、まだ少しうるさい胸の音を聞きながら、俺は静かになったリビングの電気を消した。