【sk】
照が俺にだけ向ける笑顔。
それが可愛くてどうしようもなくって、それを引き出せるのが俺だけって事実も好きに拍車をかけていた。
今日は友達とご飯に行くと伝えたら、少し拗ねた声で家で待ってると言われた。
帰ってすぐに照に会えるなんて幸せすぎる。
デザートのケーキが美味しかったから、照の分をテイクアウトしてうきうきしながら家路に着く。
驚かせたくてそっと中に入ると、テレビも着けずにソファの端できゅっと小さくなって座っている照がいた。
「ただいま」
後ろからぎゅっと抱き締めて顔を覗き込むと、分かりやすくむすっとしている照に睨まれてしまった。
そんな顔も、怖いよりも可愛いって思っちゃう。
「…おかえり」
覗き込んだ先にあったスマホの画面が目に入る。
俺と友達が一緒に写っている写真。
帰る前に俺がSNSに投稿したものだった。
「これ、距離近くない?」
「いつもと変わんなくない?」
眉間の皺が更に深くなる。
やば、と思った時にはもう遅くて、目を伏せてそっぽを向かれてしまった。
慌てて照の正面に回り込む。
「ひかるー、ごめんね?」
下から覗き込んで見上げると、ちらっと視線を向けたがすぐ逸らされてしまう。
これが照じゃなかったら面倒くさいと思うのに、拗ねてるところさえ可愛い。
「ぎゅってしていい?」
尋ねると、返事の代わりに丸めていた膝を下ろしてくれた。
たくさん抱きしめて甘やかしたい。
ぎゅーっと思いっきり抱きしめると、おずおずと俺の背中に手が回された。
「やっぱり共通の趣味がある人といる方が楽しい?」
消え入りそうな声で照が聞いてくる。
確かに俺と照の共通の趣味は少ないし、俺たちのことをよく知らない人からすると相性はよくないように見えるのかもしれない。
でも、それが俺の趣味じゃなくても照と一緒にやることならなんだって楽しいし、照もきっとそう思ってくれてる。
「友達といるのも楽しいけど、照といる時が1番幸せだよ」
よしよしと頭を撫でてあげる。
どうかな?機嫌治ったかな?と様子を窺ってみるが反応はない。
「でも帰ってくるのも遅かった…」
今日はいつもより重めの拗ね拗ねひーちゃんらしい。
どうやって甘やかしてあげようかなと思考を巡らせる。
「今日さ、お店で食べたケーキがすっごく美味しかったんだ」
他の人との思い出話なんか聞きたくないとでも言うように、ぐりぐりと頭を押し付けてくる。
可愛い抵抗に緩んでしまう頬をなんとか堪えて言葉を続けた。
「これ照が食べたら幸せそうな顔するんだろうなーって」
他の人といる時でも照のこと考えてたよ、と耳元で囁くと照の耳がぴくりと動いた。
あとひと押しかな。
「照のケーキ買ってきたから、これ食べたらたくさんいちゃいちゃしよ?」
おまけに髪にキスをすると、しばらく間を置いた後、俺の胸の中でこくりと頷いてくれた。
一度照から離れて、ソファの後ろに置いておいたケーキを取りに行く。
俺が動いているのをずっと目で追っているのが可愛い。
フォークと飲み物を用意して、テーブルに照を誘う。
無言のままだけど、少し弾んだ歩き方。
椅子を引いてあげると大人しくそこに座って、ケーキの箱をじっと見つめていた。
開けていい?と訴えてくる目にどうぞ、と答える。
大きすぎる手に不釣り合いな小さな箱が開けられると、ピタッと照の動きが止まる。
「これ…」
中に入っていたのは小さなチョコケーキ。
その上には俺の気持ちを込めたおまけ付き。
「だいすき…」
「うん、お店の人に頼んで書いてもらっちゃった」
丸いチョコプレートに書かれた『だいすき♡』の文字。
照なら喜んでくれるかなって帰り道もずっとわくわくしていた。
「もー…何してんの」
両手で口を隠して照が笑う。
さっきまでの拗ねてたひーちゃんは一瞬でどこかへ行ってしまったみたい。
今日も嬉しそうな笑顔が見れた。
俺しか知らない、ふにゃふにゃに蕩けた笑顔。
「これの返事、後でベッドで聞かせてね」
口を手で覆ったまま、熱のこもった両目がじっと俺を見つめてくる。
この視線も俺だけのもの。
「…ケーキ1回冷蔵庫にしまってもいい?」
あははっと今度は俺が笑う。
「待ちきれないですか?」
「待ちきれないです」
拗ねたり照れたりいつも遠回りしちゃうけど、俺たちはそうやって心を重ね合わせるのがきっと正解なんだと思う。
通じ合える度に絆が深まって、この人になら全部を曝け出しても大丈夫って思える。
「いいよ、いこっか」
手を差し出すと、ぐいっと引っ張られて抱きくるめられる。
さっきまでの可愛い自分を掻き消そうとしてるかのような豹変っぷり。
何をしたって愛しいことに変わりはないのに。
寂しい思いをさせないのが1番だけど、照はすぐに寂しくなっちゃうから俺じゃないと駄目なんだよね。
どんなにむくれてても、俺なら笑顔にしてあげられる。
明日も、この先もずっと、この笑顔が俺だけものでありますようにと、きつく抱きしめてくる照に負けないようにぎゅっとしがみついた。
inspired by 素敵な君/RAZZ MA TAZZ
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