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若井の住むマンションへ向かう道すがら、空は容赦なく雨を降らせていた。
土砂降り。
傘も役に立たず、2人はもう最初から諦めたように笑いあった。
「うわ、先生!ずぶ濡れですよ!」
「お前こそ……風邪ひくぞ」
「いいですよ……先生と一緒なら」
弾けるような笑顔でそう言った元貴の手を、若井は無意識に強く握った。
雨水で冷たいはずのその手は、不思議と熱を帯びていた。
「……走るぞ」
「うん!」
2人はびしょ濡れのまま、声をあげて駆け出した。
水たまりを蹴り上げ、髪を貼り付かせ、息を切らして笑った。
街灯に照らされる雨粒が、2人の熱を隠しきれないほど煌めいた。
マンションの自動ドアが開いた瞬間、2人はほとんど駆け込むようにして中へ入った。
誰もいないロビー。
すぐにエレベーターを呼ぶボタンを押す若井。
2人の息が荒い。
「……はぁ、は……先生……」
「元貴、こっち来い」
濡れたシャツが肌に張り付き、輪郭を際立たせる。
やがて「ピン」という音と共に開くドア。
エレベーターが開いた瞬間、若井は元貴を引き込むように乗せた。
ドアが閉まると同時に、抑えていた衝動が爆発する。
「……っ、若井、せ——」
若井の瞳が猛獣のように光った。
次の瞬間、背中を壁に押し付けられる。
「……先生、まだ濡れて……」
「……知るか」
水滴が頬を伝うのも気にせず、若井は唇を奪った。
甘い水音が、無機質なエレベーターの空間に響く。
「ん……っ、ふ……っ」
雨に濡れた唇が熱を帯びる。
息を奪うような深いキス。
舌先が滑り、濡れた前髪越しに視線を絡める。
噛むように深く口づけ、喘ぎが混ざった。
逃げ場のない狭さが、2人の熱を増幅させた。
「……せん、せい……」
「……元貴、濡れた顔……エロすぎる」
「やだ……言わないで」
それでも、耳まで赤い。
若井は笑って、さらに追い詰めるようにもう一度キスを落とした。
水が滴り落ち、シャツの裾が重く張り付く。
「……もう、待てない」
低く、押し殺したような声が耳元に落ちた。
元貴の腰が震える。
吐息が荒く、熱く、唇から零れる。
「……っ、あ、先生……」
若井の指が頬から顎へ、喉元へと這う。
指先が触れるだけで、敏感に跳ねる。
「……感じてんのか」
「やだ……っ、だめ……」
「だめじゃねえだろ」
「……先生のせい……っ」
背中を押しつけられたまま、元貴は首を振る。
若井は苛立つようにもう一度唇を奪った。
エレベーターの壁が震えるほど身体を預ける。
「……っ、は……ぁ……」
熱が溢れる。
音を立てるキス。
吸い付いて離さない口づけに、2人の呼吸が乱れた。
「早く……早く……」
元貴が息を震わせて乞う。
若井も同じように荒く息を吐きながら、ボタンを睨みつけた。
カウントが上がるエレベーター内で、湿った音が響いた。
息が乱れ、溶け合う吐息。
額を押し付けて視線を絡める。
ようやく到着音が鳴る。
「行くぞ」
「……うん」
でも、唇は離れない。
互いの熱を貪るようにキスを重ねたまま、廊下を歩く。
雨で濡れた靴がぎゅっと音を立てる。
シャツから滴る雫が床に落ちる。
「……っ、ん……先生……」
「元貴……」
息を奪い合いながら、なんとか玄関前にたどり着く。
若井は元貴をドアに押し付けた。
「……っ、先生……!」
「黙れ」
唇がまた奪われる。
首筋に吸い付く。
水と汗と息が絡む。
跡を残すように噛みつき、元貴の脚が震えた。
「や……先生、見える……」
「見せろ。全部」
跡を残すように執拗にキスを落とす。
元貴の手が若井の背中を掴む。
「……あ、っ…ん……」
「……っ、可愛い声出すな」
片手は腰を引き寄せ、もう片方で鍵を探る。
舌を絡め、唇を噛みながら、鍵を差し込む手が震える。
「……開いた」
ドアが押し開かれ、2人は乱暴に中へと転がり込む。
バンッ!
荒々しく閉まる音。
次の瞬間にはもう抱き合っていた。
濡れた服を脱がす隙間もなく、背中を押し付け、唇を噛み、首筋に跡を落とす。
「……っ、は、ぁ……先生……」
「……元貴……お前、濡れてるのに、熱い……」
「……先生も……」
水で濡れたシャツが絡まる。
滴る雫がキスの合間に落ち、床を濡らす。
それすら淫靡に感じた。
息が荒い。
喉が鳴る。
口内が熱い。
欲望が、もう止められなかった。
「……来い」
若井が腕を強く回し、元貴を引き寄せる。
囁きが溶けるたび、2人の身体は濃密に絡みついた。
——その夜が、どれだけ長くなるか、もう分かっていたから。