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暗い部屋の中。閉めたドアの向こうではまだ雨音が続いていた。
髪から滴る水が頬を伝い、スーツは肌に張り付いて冷たかった。
でも、目が合った瞬間、その冷たさが嘘みたいに熱を孕んだ。
荒く吐息を交わしながら、若井は元貴を抱きしめ、唇を奪った。
「……っ、ん……」
水に濡れた唇が滑り、舌先が絡むたびに水音と甘い音が混じり合う。
雨で濡れた前髪が額に張り付いて視界を邪魔するのに、互いを見つめる瞳は離せない。
若井の指が元貴のスーツのボタンを外すたび、シャツが重く落ちて水音を立てた。
冷たい布が離れるたび、熱い素肌が空気に晒され、火照りが一層増していく。
「……っ、せん、せい……」
元貴の声は震えていた。
濡れた手がぎこちなく若井のシャツを掴み、引き寄せる。
雨水が滴り落ちる音さえ、淫らに思えた。
ぶつかるような唇。
舌先を強引に絡め、濡れた音が暗い部屋に響いた。
水滴混じりのキスは甘くて苦しくて、息が絡むたびに喉が鳴った。
だが、その熱を一瞬だけ止める声が落ちた。
「……っ、待って、先生……。
僕、初めてなんで……どうしたらいいか、わかんなくて……」
肩を上下させながら、真っ赤な頬で、濡れた睫毛が揺れる。
潤んだ瞳が不安げに彷徨い、雨水と涙の境界が曖昧だった。
若井はその顔を見て、呼吸を止めた。
冷たい水が伝う頬に、自分の指を這わせる。
濡れた髪を耳にかけ、額をそっと合わせた。
「……大丈夫だ」
雨で冷えたはずの唇が、近づくほどに熱を持つ。
「……もし痛かったら、言って」
息が混ざる距離で囁いた声は、低く優しかった。
元貴は目を閉じ、唇を震わせた。
その言葉を落とした瞬間、さっきまで貪るようだったキスが変わった。
雨水を拭うように、唇をそっと重ねた。
啄むように、何度も何度も。
舌先が触れるたびに、甘い吐息が零れた。
「……っ、は……せんせ……」
「……元貴」
頬に滴る水を親指で拭いながら、若井は囁いた。
「……俺が全部、教えるから」
その声に、元貴の身体が小さく震えた。
雨に濡れて冷たかったはずの背中が、若井の掌で熱を帯びていく。
吐息が、また交わった。
ずぶ濡れのシャツが擦れる音。
雨水と汗と涙が溶け合って、肌に貼り付く感触。
2人はそのすべてを飲み込むように、愛おしく唇を重ね続けた。