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「わ、私なんかにそこまで気を遣わなくても大丈夫ですから。常磐さんの優しさに甘えて申し訳ないと思いながらも、ものすごく楽しんじゃいました」
「その笑顔……すごくいい」
「えっ……」
「あの日、君がとてもつらそうで。どうしようもなく胸が傷んだ。初めて出会った君のことを、俺は『この人を笑顔にしたい』って心から思った」
「常磐さん……」
サラッとこぼれ落ちた優しさに、フラっとすがりつきたくなる。
「こんな気持ちになったのは初めてだ。誰かを笑顔にしたいなんて……君が俺の心を変えた」
常磐さん……?
私があなたの気持ちを変えた?
「……私は何も……してません。私なんて何の取り柄もないバカな女だから」
大きく揺れる複雑な心を隠し、言葉を絞り出すように言った。
「どうして君は自分をそこまで卑下する? つらい過去を消すことはできないのか?」
「自分の愚かさであんな目に合って……私は……」
常磐さんは、私の過去を全て話してほしいと言ってくれた。
その優しさにほだされ、まだ会って間もないこの人に、私は消せない過去を話してしまった。両親のこと、おじさんやおばさん、もみじちゃんのこと、朱里やママさんのこと、雅人のことも……何もかも全てを。
「色々大変だったな。つらかっただろう」
その一言は、私の傷口を優しく包み、胸を熱くした。
「それでも、つらい過去は新しい夢や希望で上書きできる。全部消し去って、それ以上幸せになればいい」
「……常磐さんの言葉は有り難いと思います。だけど、そんな簡単じゃないです。夢や希望を持っても、私には幸せになる権利がないように思えて」
「幸せになる権利がないなんて、どうしてそんな風に思う?」
「常磐さんみたいなお金持ちには、きっとお金で苦労する私の気持ちはわかりません。お金だけじゃない、育ってきた環境が常磐さんとはまるで違うんです。裕福で幸せなあなたには……わからないと思います」
これほどまでにお世話になっておきながら、自分の最低な発言に呆れてしまう。
「君の歩んできた人生には、確かにつらいことが多かったのかも知れない。でも、だからこそ、これからはたくさんの幸せを感じてもらいたい」
「私、常磐さんにひどいことを言ったのに。そんなに優しくしないで下さい」
「君は、俺に出会った。だから、俺が変えてやる。双葉のこれからの人生を」
その瞬間、体中を一気に何かが走り抜けた。
何とも表現できない熱い感情が湧き上がる。
人生で初めて感じたこの思いに、自分のコントロールの仕方がわからなくなる。
常磐さんの言葉の意味が、今の私には深く理解できない。だけど、私の中で冷たく閉ざされていた心の扉が、ほんの少しだけ開いた気がして、気づけば瞳から涙の雫がこぼれ落ちていた。