テラーノベル
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レンコン 煮付け
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1時間前に、東淀川の袴工業地帯が立ち入り禁止の緊急事態区域に変わった「緊急レベル4だ」
連日続く大雨の中、宗一郎からの電話に竜馬は青ざめ、固まった、次の言葉は聞きたくなかった
『そこにジェニがいるんだ、工業地帯のドまん中の、ビルのエレベーターに閉じ込められている』
「なんだってっ!!」
竜馬は手に持っているスマホをショックのあまり落しそうになった、履き心地の悪い、フワフワのスリッパを履いているのに、足のつま先から凍り付くように冷たくなっていく
『今、ジェニから俺に電話があった、地下エレベーターに水が浸水してきてるんだ、助けてと叫びながら泣いていたぞ、命にかかわるぐらい危険かもしれん、今住所を送るからすぐ行け』
「わかった」
竜馬は高ぶってくる感情をなんとか押し殺した、そして立ち上がり、やらなければいけないことを考えた、宗一郎から住所が届いた、スマホで照らし合わせると、ジェニのいる場所は災害危険地域レベルマックスだ
どこもかしこも通行止めの為、この悪天候でもメビウスのヘリは飛ばせるかとすぐに宗一郎と文也に連絡しようとした
「竜馬さん」
そこでハッとした、今自分がいる場所は婚約者のアリスさんの家だ、すぐ近くには伊藤会長もいる、でもぐずぐずはしていられない
最悪の事態に陥った時、後に残ったものには後悔しかないと、嫌と言うほど思い知らされている竜馬は、父と母とジャスティンを失った、ジェニまで失ったらもう耐えられない
「竜馬さん?どうされましたか・・・?」
「申し訳ない」
竜馬はその場でアリスに深々と頭を下げた
―頼む僕を行かせてくれ、後で償いでもなんでもする―
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心臓がドキドキする、冷や汗が止まらない、彼女が何か言っているが、これだけはハッキリ聞こえた
「ジェニさんを愛していらっしゃるのね」
「心の底から」
何をわかり切ったことを、なんでもいいから早く行かなくては、もともと彼女はお互いの資産を増やすためだけの政略結婚だと竜馬に言った
金が欲しいのならいくらでもあげるよ、どちみち彼女が気持ちを変えてくれてよかった、とにかく今は行かせてくれ、彼女なら他の結婚候補は腐るほどいるだろう、別に自分でなくても構わないはずだ
でもジェニは・・・竜馬はぐっと目を閉じた
―ジェニには自分しかいないんだ―
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ドアから焦って出ていく瞬間、彼女をチラリを見やる、彼女は窓をじっと見つめていた、彼女の肩が少し震えているような気がした竜馬は思った
―お元気で―
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ハンドルを握る手が震える、文也からメビウスのセコム保安協会が事故現場に向かっていると連絡があった、こんな日は警察も消防隊も何も役には立たんだろう
こっちはわざわざそのために毎月高い警備費を払っているんだ、いざという時はやはり民間だ、くそっ、おざなりのビルの設備会社を訴えてやる
セコムは行動が速かった、竜馬にスマホで通行止めされていない道路を誘導し、なんとかジェニが閉じ込められているビルまでたどり着くと、メビウスの救出部隊はもう到着していた
ありがたい、竜馬が救出チームがいる正面玄関に入っていくと、会う人みんなが竜馬に挨拶した、中には初めてメビウスのCEOを見る者もいた、任務をサポートする中堅のチームリーダーに詳しく話を聞く
「この階から、下のシャフト全部が浸水しています、どっちみちハッチドアを開いて見てみなければなんとも・・・かなり危険です」
竜馬はすべてわかっているとうなずいた、それでもハッチを開けて彼女を救出しにいく
みるみる心臓が痛くなる、今の竜馬は誰が見ても真っ青だった、ジェニを失う恐怖におののいていて、両手足は氷のように冷たく胃はかき乱されている
これは防災訓練なんかじゃないんだ、本当にジェニがエレベーター天井いっぱいまで水に浸かって溺れて死んでいるかもしれない
みんながジェニ救出に走り回り、辺りはハッチを開く緊迫した空気が流れていた、ハッチを開いた瞬間、水が噴出し、なだれ込んでくる危険があるので、ビル辺り一体に、立ち入り禁止のカラーコーンが置かれ始める
辺りは薄暗く、工事用照明ライトがいくつも照らされる、エレベーターはまったく定期検査を受けていなく、修理が必要なのは一目瞭然だった、古ぼけたこのビルのオーナーは、完全に管理に手を抜いていた、あとで覚えておけよ
「ハッチドアを開けますよっ!!」
「さがれっ!!」
「みんなさがれっ!!」
ドクンドクン・・・
―ジェニ無事でいてくれ・・・―
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竜馬は祈るように両目を閉じた
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「竜馬さんとセックスしたかったーーーーーっっ!!」
ハッチの下からジェニの断末魔の叫び声が当たり一面に響いた
「おおっ!!生きているぞ」
「なんだ?今のはっっ!」
「声がしたぞ!!」
救護者が生きているという希望に群集がざわめく、途端にドワハハハハハハッと竜馬はひっくり返って笑った
「社長っ!!笑ろてる場合じゃおまへんで!」
「はよ、お嬢ちゃん助けたらな!!」
「いや~、おっちゃん恥ずかしいわぁ」
救助リーダー達がなんとか笑いをこらえながら、竜馬に言う、ヒーヒー言って竜馬が四つん這いで体を震わせて笑っている
―は・・・腹が痛い・・・―
ボロボロ涙が出る、息が出来ない!!
―殺されるっ!ジェニに笑い殺されるっっ!―
竜馬は生まれて初めてこのまま笑いが止まらなければどうしようと、本気で生命の危機を感じた
さすがジェニだ、彼女はいつも竜馬の予想の斜め上を行く、笑い狂っている竜馬を放って、気を取り直したセコムが救助作業に慌ただしく取り組む
「脱出口のボルトが腐っているぞっ!停止ボタンも手動だ!」
「こんな古いエレベーターは初めて見たぞ!」
「急げっ!半分以上は水に浸かってるぞ」
鉄を切る電動チェーンソーの金切り音が辺り一帯に響く、腐ったボルトを叩き割る作業も続く、やっとハッチに人一人が通れる穴をこじ開けたら、なんとか正気を取り戻した竜馬が、ライトを照らして中を除く
「竜馬さんっ!竜馬さんっ!」
子供のように泣きじゃくっているジェニを見た時に、竜馬は生き返った心地がした、彼女は無事だ、全身ビショビショで上着も着ていなく、ほっそりとした首があらわになっているビジネスシャツ姿だ
―なんて可愛そうに・・・寒かっただろうに―
竜馬は自分の暖かい体で彼女を包んであげたかっ、よし、今すぐそうしよう、いつだって彼女に魅了される、喉が詰まっている息すらほとんどできなかった、二人は照らされる照明の中、しっかり見つめあった
「よし、そっちに行くぞ、ジェニ」
ひっく・・・「竜馬さん!竜馬さん!!」
竜馬は微笑んで言った、少し前までは彼女を失ったら今度は自分は死ぬかもしれないと思っていた、次につかまえたらもう二度と離さない、死ぬまで一緒だ
竜馬は運命の女神を抱きしめに、飛び込んだ
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ジャスティンを失ってから、これまでの人生であれほど大切な人は現れないと思っていた、しかし今、竜馬は新たに愛しい家族と、守るべき人達を見つけたかもしれないと強く思っていた
初めての二人の愛の交わりを邪魔されたのが、まさか豊だとは思わなかった、でも竜馬は生きて無事で豊に再会できて素直に嬉しかった
ジェニの兄の豊は変わっていなかった、相変わらずポチャッとしているが、面影はバッチリ残っていた、このままでは流血沙汰の兄妹喧嘩が勃発すると判断した竜馬は、一旦豊を自分の家に連れて帰ることにした
ジェニは幼いころと変わらず、豊に対して面白いぐらい喧嘩っ早いし、少しでも竜馬が悪く言われたら庇うのに必死だが、それが竜馬は嬉しかった、豊が竜馬の車の助手席から怪訝な顔で言った
「おい!ジェニにはああ言ったけど、本当に一晩だけお前の家に泊まるだけだからな」
「豊!」
「だから何で貴様は俺をさっきから呼び捨てにするんだっ!!」
「豊、僕だよ!竜馬だ」
そこで豊は竜馬の顔を見てハッとした、ハハッと竜馬は笑った、やっぱり豊は名前ですぐわかってくれた
「竜馬・・・お前か・・・」
みるみる豊の顔が怒りで赤くなっていく
「いったい今まで何していたんだっ!!父さんがどれほどお前を心配していたか」
豊の言葉が爆発する、今にも殴りかかってきそうな勢いだ、怒るのも、もっともだ
「これだけの時間がたった後で、何をしに来たんだ、ジェニも俺も、お前を心配して、心配して・・・心配してっ!!」
竜馬は豊の膝に手を当てて静かな口調で言った
「うん・・・悪かった」
豊は竜馬を見ていなかった彼は首を振った
「おっ・・・俺は悪くない!あの役員連中をクビにしようとしたんだ、父さんの会社の売り上げをアイツらは遊びに使っているのを知っていた、だからクビにすると言った、そしたらあいつらはグルになって、不当解雇で俺を訴えると言ったんだ!書類を見せられたんだ!おっ・・・俺はそれでもっ!」
「お前は正しかった」
竜馬がそう言ってヒステリックになりかけた、豊の言葉の流れを止めた
「よくやった」
きっぱりと竜馬が言うと、優しく豊の頭を撫でた、自分を褒める人間がこの世にいるなんて信じられないとばかりに、豊の目が涙で滲む
「一郎さんの代わりを頑張って務めてくれた・・・僕にはわかる」
途端に豊はうつむいて肩を震わせて泣いた・・・声を立てずに、竜馬は優しく本当の兄のように豊の頭を軽く叩いた
「僕も連絡できない状態だったんだ・・・日本にも帰れないぐらいにね、そんな僕がお前を責めると思うかい?」
まるで一郎さんがここにいるかのように感じた・・・やっと豊がグスグスと照れくさそうに言った
「り・・・竜馬も・・・大変なのかなとは思ってたけど・・・」
「うん・・・大変だった、色々あったけど、僕は力をつけて帰って来た、もしお前が許してくれるなら、どうしてもお前とジェニの傍にいたい・・・これからは僕が一郎さんの代わりになって、お前達を助けるよ、そのために戻って来たんだ」
豊は袖で涙を拭った、竜馬は豊にティッシュを一枚渡した、豊の顔を自分の方に向けさせ、真剣なまなざしを受け止めた
豊・・・お前はもう逃げ回らなくてもいい、すべて僕に任せろ、お前はこれからは好きなことをしたらいいよ、僕が全面的にサポートする、何も心配しなくていいんだ」
豊は一言も答えられなかった、責めたい気持ち、全面的に頼りたい気持ち、相反する感情に揺れているのが手に取るように竜馬にはわかった、怒り・・・疑い・・・そして狂おしいほどの希望・・・竜馬が微笑んで言った
「ほら・・・ハグさせてくれよ」
豊は再び目にいっぱい涙を溜めて、下を向いた
グス・・・「たいした自信だぜ・・・」
ハハッ「ただいま、会いたかったよ、豊」
竜馬は片手で豊の頭を引き寄せた、豊はそっと竜馬の背中に手を回した
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「わぁ!でけぇ!」
ハハッ「実は、まだこれで子供なんだ」
竜馬のペントハウスに入るなり、テニスボールを咥えて突進してくるハナを見て豊が笑った、ハナは豊の足元にボールを落とし、駆けだした、豊が自分と遊んでくれる人かどうか確かめているのだ
豊がボールを掴み、彼女の頭上に放る、彼女は躍り上がってボールをキャッチし、誇らしげにポーズをとって豊を見た、誉め言葉を待っているのだ
「いい子だな!」
豊が言い拍手した
「見事なキャッチだ!」
尻尾をブンブン振って、豊にぴたりと体を引っ付ける、これでハナと豊は友達になった
「日中はトレーナーの田宮さんが来てくれるんだけど、最近は僕が仕事で夜遅くなる時もあってね、ハナには少し寂しい思いをさせてるんだ」
竜馬がビールを取りにキッチンに行くと、ハナが飛び跳ねながら伴走する
「俺がいるよ」
豊が言った
「俺がハナの世話をするよ、お前忙しいだろ?コイツ人懐こいし、可愛いな」
そういう豊にハナがせわしなく尻尾を振って、豊の匂い嗅ぎ、捜査をはじめる、豊はハナの耳の後ろを優しく掻いてやる、かまってくれる人が増えてハナは上機嫌だ
「ほんとか?助かるよ!鍵はそこにあるから好きなだけ居てくれ」
竜馬はビールを二つ手に持って、ハナと豊のいるリビングに入って来た
「なぁ、本当にジェニに言わなくていいのか?アイツすっかり忘れているぞ」
豊が心配そうに言った
「そんなの構わないよ、自然に思い出してくれれば」
顔をあげた竜馬の顔はニヤついていた
「ある意味すごくないか?忘れているのに、人生でもう一度僕に恋してくれているんだぜ」
豊が宙を仰いで言った
「アイツは本能で生きてるからな、記憶は忘れていても、本能でお前を嗅ぎつけたんだろう」
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218話、一気に引き込まれました!緊迫した救助シーンから、ジェニの「♡♡♡したかったー!!」であの空気が一転!笑いと安堵が一緒に来て、竜馬が笑い転げる気持ち、すごく分かります。そして豊との再会と和解…「ただいま、会いたかったよ」のシーン、じんわり来ましたね。ジェニが記憶を失っていても本能で竜馬を好きになる、という設定もロマンチックで素敵です。