テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#二次創作
ふゅう@不定期
20,958
71
#ご本人様には関係ありません
ふゅう@不定期
19,563
404
コメント
1件
うわ、これは...読んでて胸がギュッと締め付けられたわ。 冒頭の「一緒に朝を迎えたい」って台詞がもうすでに皮肉にしか聞こえなくなっちゃうの辛すぎる。 婚約者に「できそこない」呼ばわりされるって、ソフィアの幸せな気持ちが一瞬で粉々に砕けるこの落差、反則だよ。 ヴィニーが連れて行った先で真実を知るって構成、猫ちゃんの無邪気さが逆に残酷でグッとくるな。続きが気になる🔥
「早くあなたと一緒に朝を迎えたい」
別れ際、耳元で囁かれたパトリオット殿下の声に、ソフィア・ベアトリアス・カリントンは頬を真っ赤にした。
「気をつけて帰れよ、ソフィー」
名残惜しそうにパトリオット殿下の手が離れ、ソフィアは夢見心地で宮殿を出る。
庭園にさしかかった時、ソフィアはふと我に返った。
一緒に来ている愛猫の姿が見当たらない。
――いつの間にいなくなったのかしら。
じりじりと地面を焦がすような陽光に、ソフィアの白い肌が汗ばむ。
ここエトール王国にも夏が近づいてきているようだ。
日傘を少し傾けて、ソフィアは辺りを見回した。
今日は、パトリオット殿下と結婚式の衣装や結婚後の暮らしについて話せて嬉しかった。笑顔もたくさん見られて、胸は甘い気持ちで満たされている。
幸せな気持ちが消えないうちに、一刻も早く王宮を去りたいのに――
「ヴィニーったら、どこへ行ったのかしら」
人の笑い声が近づいてくる。若い女性だ。王妃主催のサロンに招かれたのだろうか。
ソフィアは、木陰に身を潜め、日傘を閉じた。王宮の庭師が剪定した庭木は、何も言わずにソフィアを日差しと笑い声から匿ってくれる。
「……カリントン伯爵令嬢でしょう? 結婚式の衣装を仕立てにきたそうよ」
「癪な話よね。ソフィアがパトリオット殿下の婚約者だなんて」
「魔法の使えない彼女に、何の価値があるというのかしら」
本人が聞いているなんて露にも思わないのだろう。二人の令嬢が意地悪く嗤い、羽扇で顔を扇ぎながら庭園の小道を横切っていく。
――ああ、嫌。
ソフィアは胸をおさえて深呼吸すると、庭木の幹に背中を預けた。
――私だって、立派な魔法使いになりたかったわよ。
目の奥がじんと熱くなって、ソフィアは涙がこぼれないように空を見上げた。
結界に守られた空には雲一つない。青色がとてもきれいで、余計に泣きたくなる。
「……殿下」
助けて、と縋るように婚約者を呼ぶ。
パトリオット殿下は、他の貴族たちのようにソフィアを見下したり嗤ったりしない。ありのままのあなたが好きなのだと言ってくれる。できそこないの令嬢には過ぎるほど優しい人だ。
「……早く、ヴィニーを見つけて帰らなくちゃ」
シルクの手袋を着けた手の甲で、喉元の汗を押さえるように拭う。
その時、背後でがさがさと葉の擦れる音がした。
ソフィアは一瞬驚いて、ゆっくりと音のほうへ目を向ける。
「みゃあ」
そこにいたのは、光沢のあるアッシュブルーの毛並みと、エメラルドの瞳が印象的な一匹の猫だった。
「ヴィニー!」
ソフィアの目からすっと涙が引いて、雲間から日が差すように表情が晴れる。
「心配したのよ。だめじゃないの、勝手にいなくなったりしちゃ」
「にゃあお」
まるで、ごめんとでも言っているかのようにヴィニーが鳴く。ヴィニーは、ソフィアのドレスにしなやかな体をすり寄せ、もう一度、甘えるように鳴いた。
「さぁ、ヴィニー。帰りましょう」
ソフィアが微笑むと、ヴィニーはぴょんと飛び跳ねて庭園の小道を歩き出した。
「待って、ヴィニー!」
ソフィアは、慌ててヴィニーを追いかける。
「門はそっちじゃないわ」
ヴィニーが向かう先には、王室の礼拝堂とバラ園がある。王族しか立ち入りを許されていない、特別な場所だ。
「みゃあ」
ソフィアには、ヴィニーが「大丈夫だから」と言っているように聞こえる。
「もしかして、何かあるの?」
ヴィニーを追いかけて辿り着いたのは、バラ園だった。
ソフィアは、ずっと前にパトリオット殿下から、いつでも入っていいと許可をもらっていたのを思い出す。
あなたは俺の妻になる特別な人だからと――
「確か、門番に殿下の名前を伝えたらいいのよね?」
ちらりとヴィニーに目配せして、ソフィアはどきどきしながら衛兵に声をかける。
「カリントン伯爵家のソフィア様ですね。パトリオット殿下よりお話は伺っております」
誰だお前は、なんて言われはしないかとひやひやしたが、衛兵は恭しく門を開けてくれた。
「にゃあ」
ヴィニーが、広大なバラ園の奥を目指して小走りになる。
「そんなに急いで、どうしたというの?」
追いかけるソフィアの息が切れた頃、ヴィニーが突然、植木の茂みに身を潜めた。ソフィアも慌てて茂みに隠れる。
「ねぇ、ヴィニー。ここで何をするつもり?」
胸をおさえて息を整えるソフィアの隣で、ヴィニーが伸びをして前足で顔を掻く。
「もう、呑気なんだから」
ヴィニーのかわいい仕草に、ソフィアは呆れたように笑った。
「……だわ」
人の話し声が聞こえる。
「ジュリア。頼むから、泣かないでくれ」
聞き覚えのある声。
ソフィアは、反射的に茂みから顔を出した。
目に入ったのは、ベンチに並んで座る男女の姿だった。
こちらに背を向けているが、金髪が太陽の光できらきらと輝いている。これほど美しい髪色をした男性を、ソフィアは一人しか知らない。
――まさか。
整った横顔が見えた瞬間、ソフィアの鼓動が止まりそうになった。
――パトリオット殿下?
隣にいるのは、社交界に疎いソフィアには見覚えがない美人だ。
――何を話しているのだろう。
ソフィアは、茂みの中を移動して目を凝らす。
「すべてはお前のためだと何度言えば分かる」
「……本当に? そうは思えないわ」
女性の涙声は、まるでパトリオット殿下を責めているような響きをしている。
――殿下がお前と呼ぶなんて、よっぽど親しい仲なのね。
ソフィアは耳を澄ました。
パトリオット殿下が、女性の涙を拭うような仕草をする。
二人の親密さを物語るようなパトリオット殿下の所作に、ソフィアの胸がざわざわと騒ぎ出す。
そよ風が止んで、花園が静まり返った。
ソフィアは、ただならぬ雰囲気を感じて息を潜める。すると、信じられない言葉が耳に飛び込んできた。
「あのできそこないに、俺が心移りするとでも?」