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「一刻も早く、ラデオンを排斥せねばならん。奴にこれ以上の惑星を蹂躙させるわけにはいかないのだ」
重厚な声の主は、ヴォール。戦乱と激昂を司る、『原初の十三王座』の一柱だ。星の鋼で造られた荘厳な玉座に座す彼の背には、闘争への渇望を象徴する二振りの巨大な斧が交差していた。
「ヴォールの意見に同意しよう。ラデオンを始末すべきだ。奴は宇宙の均衡を乱す特異点。向こう側の宇宙の神々が責任を取らぬというのなら、我々が動くまでのこと」
アルコスが厳格な眼差しで、断固とした口調を添える。
「全てが終わった後、相応の説明を要求する。彼らの宇宙は、我々に回答する義務があるのだからな」
玉座の傍ら、下位の席に座していた若き神ドライゴンが問いかける。
「父上……そのラデオンという者は、神なのですか?」
「いや、半神(デミゴッド)だ」アルコスは即答した。
「ならば、皆様のどなたかが動けば、容易く討てるはずでは」
ドライゴンは確信を持って言った。だが、アルコスは眉をひそめる。
「そう単純な話ではない。奴は魔族の女から産み落とされた。神と魔の混血……その不規則な力は、神族の敵よりも予測不能だ。正確な実力は未知数と言わざるを得ん」
「アルコスよ、今は極めて重要な公務の最中だ。息子の疑問符は後で解消してやれ」
不躾に割り込んだのは、混沌の神ヴェルカーだ。
「貴方に『秩序』の講釈を垂れる資格はないわね」
ドライゴンの母、光と創造の女神エライスが冷ややかに言い放つ。「会議の半分を怒鳴り散らして過ごすような口は、閉じておきなさい」
天界の広間にアルコスの豪快な笑い声が響き、諸神の視線が集まる。
「ははは! 全く、これだからお前と結婚したのだ。その気丈さこそ、私の妻に相応しい」
エライスは鋭くも美しい微笑を返した。
「光栄だわ、貴方。……けれど、格下の神々に同格のような口を利かせないで頂戴」
「何だと? 私がアルコスより格下だと? 侮辱するな、貴様――!」
だが、ヴェルカーの言葉は最後まで続かなかった。
アルコスの視線が、不可視の槍となって彼を貫いたからだ。混沌の化身たる男は、喉を鳴らして凍り付いた。言葉も、動作も必要ない。ただその一瞥だけで、両者の間に横たわる絶望的な力の深淵を見せつけたのだ。
「……いや、今の言葉は忘れてくれ」
ヴェルカーは震える声を押し殺し、視線を逸らした。
アルコスは静かに微笑み、再び諸神へ向き直る。
「さて。ラデオンの現在地を特定し、誰を差し向けるか決めるぞ」
一人の人影が優雅に立ち上がった。
肉体的な威圧感はないが、その存在自体が敬意を強いる。この場にいる誰よりも古く、幾多の時代の誕生と終焉を見届けてきた存在。時の女神、リラである。
「報告によれば、ラデオンは現在、惑星ルミレルに滞在しています」
リラは平穏な声で告げた。「野蛮な民が争い続ける星ですが、その身体能力は侮れません。奴が星を滅ぼすまで数日はかかるでしょう。賢明な判断を下すなら、三柱の『上位神』を派遣すべきかと」
「上位神を三柱も? 大袈裟ではないか」
最後の審判を司るテルゾスが懐疑的に応じる。
「リラの言う通りだ。一人を危険に晒すより、三柱で迅速に確実に仕留めるのが論理的だ。既に二つの惑星が消えた。これ以上、我々の宇宙を土足で踏みにじらせるわけにはいかん」
アルコスが立ち上がり、声を響かせる。
「他宇宙に、我々が弱体化したと悟らせる隙を見せてはならんのだ」
議論の末、軍神ヴォールが真っ先に名乗りを上げた。「私が行こう」
「俺もだ」ヴェルカーも腕を組み、強引に続く。
だが、アルコスはそれを制した。
「戦闘特化の二人を組ませても、相性の悪さで足を引っ張り合うだけだ。……選抜は私が行う。戦闘員としてヴォール。知略と欺瞞のメノス。そして、無限の生命を持つイシュマラ。この布陣こそが最適解だ」
「冗談だろう! 俺に暴れさせろ!」ヴェルカーが激昂する。
「黙れ」
死神ノクテロスの冷徹な一言が、彼を黙らせた。
こうして、討伐隊はヴォール、メノス、イシュマラの三柱に決定した。
父と母以外の「神」の実力を目の当たりにしたドライゴンは、彼らが自分たちの知る存在とは一線を画すものであると理解した。
会議が終わり、神々が去りゆく中、夢と狂気の神ドレズルがドライゴンに近づいてきた。
「やあ、少年。アルコスとエライスの息子に会えて光栄だよ。君の未来には期待している」
彼は隣の少女を示した。「私の娘、シリスだ」
ドライゴンは息を呑んだ。
銀色の髪が神殿の光を反射し、その瞳は決然としていながらも、どこか人を惹きつける美しさを持っていた。
「見かけに騙されるなよ。こいつは強力だが、愛想というものを知らない」
「……初めまして、シリス。仲良くできれば嬉しい」
ドライゴンの挨拶に対し、シリスは興味なさげに小さく頷いただけだった。
「気にしないでくれ、母親似なんだ」ドレズルは苦笑し、アルコスに呼ばれてその場を離れた。
二人きりになり、ドライゴンは微かな気まずさを感じた。
「……私に気圧されているの?」シリスが射抜くような視線を向ける。
「え? いや、そんなことは……」
「嘘ね。貴方、嘘が下手すぎるわ」
シリスは一歩近づき、彼を見つめる。ドライゴンは思わず視線を逸らし、後退した。
「……少し、驚いただけだよ」
シリスは数秒沈黙した後、ぽつりと呟いた。
「貴方、他の神の子供たちとは違うみたい」
「それは、良い意味で?」
「ただ、違うだけ」
そこへ、話を終えたアルコスが戻ってきた。「帰るぞ」
一家は宇宙最速の船へと乗り込み、星々の中を進む。
「会議はどうだった?」アルコスが息子に尋ねる。
「凄かったです。父上と母上が、この宇宙でどれほど重要な存在なのかを知ることができて……誇りに思います」
アルコスは満足げに頷いた。
「いつかお前も、宇宙の均衡を支える不可欠な楔となる。お前の決断が世界の運命を左右し、全コスモスがお前を敬う日が来るだろう」