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孤児院の中庭は、午後の日差しに包まれていた。
そこに、サリーの姿があった。施設の子どもたちに交じりながらも、
どこか探るような視線を向けている。
「サリー!!」
その声に振り向くと、一匹の男の子が満面の笑顔で駆け寄ってくる。
ダニエルだ。彼の嬉しそうな様子に、サリーの表情も自然と柔らかくなった。
「ダニエル!」サリーはしゃがみ込み、両腕を広げて彼を抱きしめる。「大丈夫だった?怖い思いしなかった?」
ダニエルは元気よく頷いた。「うん!エイミーお姉ちゃんがとっても優しかったよ!」
「一緒に遊んでもらったのね。」サリーは微笑みながら、彼の髪を軽く撫でる。
「うん!」
「それでね、ダニエル。預けておいたミニカー、ちゃんと持ってる?」
ダニエルは胸を張って言った。「もちろん!大切に持ってたよ!」
「ありがとう、ダニエル。」サリーは優しく微笑みながら、
小さなポケットから別のミニカーを取り出した。「じゃあ、これを代わりにあげるね。」
「わーい!」と歓声を上げるダニエル。その純粋な喜びをよそに、
サリーは手渡したミニカーをそっと手に取り、静かに「バキッ」と割った。
「えっ?」ダニエルが不思議そうにサリーを見つめる。
ミニカーの中から、一本の鍵が現れた。サリーはそれを慎重に取り出した
「そのミニカー、大切なものじゃないの?」とダニエルが尋ねる。
サリーは鍵を握りしめながら答えた。「ええ、大切なものよ。これはね、私の友達から預かったものなの。」
「そうなんだ!」ダニエルはすぐに興味を失い、新しいミニカーを手に遊び始める。
サリーはそんな彼を横目に、鍵をじっと見つめため息をついた。
サリーは人目を忍ぶように薄暗いロッカー前に足を運んだ
辺りを見回して誰もいないことを確認すると、小さな鍵をポケットから取り出す。
鍵をロッカーの錠前に差し込み、そっと回そうとするが、うまくいかない。
「……どうして?」
焦りを感じたサリーは、何度も鍵を差し込んでは回そうとするが、
錠前はまるで彼女を拒むように動かない。苛立ちと不安が入り混じる中、背後から静かな声が響いた。
「その鍵は、そのロッカーのものではありませんよ、お嬢さん。」
サリーは驚きのあまり飛び上がり、振り向いた。そこには、帽子を深くかぶり直す紳士的な猫が立っていた。
「あ、あなたは……?」
オス猫は落ち着いた動作で帽子を軽く押さえ、微笑を浮かべた。
「探偵のフェリックスと申します。」
「探偵……?」サリーの声が震える。
「ええ。今回、私の親友であるワトリーから、シオンさん殺害の真相について興味深い話を聞きましてね。」
その言葉に、サリーは一瞬息をのむ。自分の胸の内で、鼓動が急速に早まるのを感じた。
「そ、そう……ワトリーくんの友達なのね。」
「はい。そして話を聞いた上で警官のジョセフにも確認しました。どうも、
シオンさんがダニエル君に贈ったと言われていたミニカー、実際にはあなたが渡したものだと伺いました。」
サリーはぎこちない笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「そ、そうよ。ただ、友達の子供にプレゼントしただけよ。それが……何か問題でも?」
フェリックスは一瞬だけ鋭い視線を向けたが、すぐに穏やかな表情を取り戻した。
「もちろん、それ自体には問題はありません。」
「ですが、ダニエルくんが他のミニカーも持っている中で、唯一そのミニカーだけを
大切にしている様子が気になりましてね。あなたが施設に来る前に、ダニエルくんに直接聞いてみたんです。」
フェリックスは施設の中庭で遊ぶダニエルを見つけ、ゆっくりと近づいた。
小さな手でミニカーを丁寧に動かすダニエルの表情には、純粋な喜びがあふれていた。
「やあ、ダニエルくん。」フェリックスが声をかけると、ダニエルは顔を上げ、にっこり笑った。
「こんにちは!おじさんは誰?」
フェリックスは少し笑いながら、帽子を取って軽く頭を下げた。
「私は探偵のフェリックスだよ。ちょっと君に聞きたいことがあってね。」
「探偵?すごい!僕、探偵の話、大好き!」ダニエルの目が輝いた。
フェリックスはダニエルが遊んでいるミニカーをじっと見つめながら、穏やかな声で言った。
「ダニエル君はミニカーが好きなんだね。」
ダニエルはにっこりと笑いながら答えた。「うん。でもね、ボクは昔の車が好きなんだ。かっこいいだろう?」
「そうだね、昔の車は確かにかっこいい。」フェリックスはゆっくり頷いた。
「君の自慢のミニカー、見せてくれないか?」
ダニエルは少し戸惑ったように視線をそらしたが、すぐにポケットから小さなミニカーを取り出し、
フェリックスに差し出した。「これだよ、これは大切なものだから、少しだけだよ。」
フェリックスはそのミニカーを手に取ると、軽く微笑んで言った。
「なるほど、君にとって特別なものなんだね。」そして、
ミニカーの細かいディテールに目を凝らす一方で、カラカラとわずかに音がすることに気づいた。
ダニエルが無邪気に自分のミニカーを眺めている間、フェリックスは一瞬、目をそらし、
ミニカーの底をそっと開けた。中に何かが隠されていることに気づくと、
フェリックスの表情はわずかに引き締まり、再びダニエルに視線を戻した。
サリーの顔が微かに引きつる。「・・・そ、それで?」
「中を…見たの?」サリーがかすれた声で問う。
「ええ、もちろん確認しました。」フェリックスは静かに頷いた。
「そして、ダニエルくんに返す際に、鍵を差し替えました。」
サリーは目を見開く。「そう…」
フェリックスはポケットから鍵を取り出した。
「本物はここにあります。さて、これでロッカーを開けてみましょうか。」
「ちょ、ちょっと待って!」サリーは慌てて声を上げた。「その鍵は…シオンから預かったの!私は何も知らないわ!」
フェリックスはその場に立ち止まり、目を細める。「何も知らない…ですか?では、何も知らないのに、
どうしてこの鍵を子供に預けたんです?シオンさんの家に泥棒が入ったのを知り、
慌ててダニエルくんに送ったったのでは?」
「それは…だって、シオンが大切なものだって言ってたから…」サリーは言い訳がましく呟く。
「大切なもの?」フェリックスの声には容赦がなかった。
「子供の命より大切なものがあるとでも言うんですか?」
「わ、私は何もしらないわ」
「そうですか。シオンさんは、ドラッグのありかを言わなければ、子供にも危害を加えると脅されていました。
しかし彼女は何も知らなかった。ただ、自分の大切なものを守るために必死でした。
でも、結局は命を落とし、その最後に子供を守るようエイミーに託しました。
知らなかったんですよ、この鍵の存在も、そして…あなたが何かを隠していることも」
サリーの顔は蒼白になり、何も言えずに立ち尽くした。
フェリックスの眼差しは、その場の空気を凍らせるほど冷たいものだった。