京本とジェシーは、国境と時差に引き裂かれた恋人未満の関係だった。
互いに「好きだ」とは言わない。
言わないままでも、夜ごと届く短い音声と、
朝に残る未読のままの通知が、十分にそれを証明していた。
ジェシーの住む国は、ニュースでしか知らない遠い場所だった。
古い街並みと、港の匂い、雨上がりの石畳。京本は画面越しにそれを見て、
いつか行くと約束する。その約束が、二人の間で唯一、はっきりした未来だった。
ーー爆音は、突然だった。
京本の画面に映ったのは、信号が乱れ、音が潰れたジェシーの顔だった。
背後が白く光り、次の瞬間、通信は途切れた。ニュースが追いつくよりも先に、京本は理解した。
あの街で、爆撃が起きたのだと。
原爆——そう名付けられる前の、言葉にならない破壊。
京本は荷物を掴み、空港へ走った。搭乗口で足止めを食らい、
祈るように時計を見つめ、ようやく乗れた便で、眠らずに海を越えた。
到着した街は、別の惑星のようだった。空は濁り、風は焼けた金属の匂いを持ってくる。
病院の廊下で、京本は名前を叫んだ。ジェシーの名を。
見つけた時、ジェシーはベッドに横たわっていた。顔は穏やかで、胸の上下が浅い。医師は静かに言った。「一時間も、持たないでしょう」。
京本はベッドの縁に崩れ落ち、ジェシーの手を握った。温度は、まだ、あった。
友達から持ってこられたものです ·͜·
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