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「アリスインスタンフォード」
《プロローグ》 『ようこそ、アリス』
夢は好きだ。
現実じゃありえないことも、そこでなら当たり前だから。 そこでなら、僕は何でもできる。不自由なんてなくて、起きてしまえば何もなかったことになる。
…そうならいいのに 夢のくせに僕の夢は意地悪で。僕は空を飛べるはずなのに、飛び方が分からなくなっている。 最後には、自分は飛べるのだと”勘違い”したまま、惨めな思いをして終わるんだ。
(…夢でくらい、夢見せてくれたっていいだろ)
『都合のいい、夢が見たい?』
(そりゃあ、好きに見ていたいよ)
『意地の悪い現実と、オサラバしたい?』
(夢が現実に成ればどれほどいいことか)
『キミなら出来るよ』
(出来るわけがない 夢は夢だから夢なんだ)
『思いどおりになる夢ならば、それが現実でないならなんだと言うんだろう』
(夢は夢だよ 例えどんなことが出来たって、全部、”夢だから”で終わる話でしょ)
『やっぱりキミにピッタリだ』
(さっきから意味が分からない また都合の悪い夢なら、早く終わって)
『安心して、もうじき底に着く。』
『穴ぐらの扉の先で、また会おう』
〈暗転〉
…内臓が落ち着かない そんな嫌な感覚で目が覚める
風が吹き上げている また、空を飛ぶ夢?
…違う、私が、
落下(おち)ているの、か……
っ! うわぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
…と叫ぶ準備をしていたが、予想される惨劇は待てどくらせど起きなかった
…遅い 遅すぎる
エレベーターであれば、階段を使った方が幾分も早い、なんなら手だけで這い上がって行ったとしても、往復は出来るくらいの速度で落ちているからだ
底に着くまでどれほどかかるだろうか… そもそも、底はあるのだろうか… そう、暗闇の中で考えあぐねている私の目の前に、1つのランプ 揺らいでいる紐を思わず引くと、そこらに灯りが灯った 上を見ても、下を見ても真っ暗闇 どうやら、道のりはまだ長いらしい
不安定な体勢でいるのも疲れてきた 姿勢を崩してしまいたいが、恐らくスカートが広がっていることにより、私の体はぶちまけたトマトスープのようになっていない(と直感で分かった)ので我慢する
安楽椅子にでも座って、この状況をどうしようかと考えていた矢先、突然現れた天井に頭をぶつけた いや、落ちていたのだから、床に頭を擦り付けた の方が正しいのか?いやいや無理な結論だな と、頭が痛いのを天地上(てんじょう)のせいにする理由を考えていた時、目の端に白い影が見えた
モノクロナツキ
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#オリジナル
「っ! 待て!」
白影が通った(はず)の道を追いかけていくと、扉に遮られた 開く また扉 今度は一回り小さい 開く 扉 開く 扉 開く 開く 開く もうほとんど這いずるような姿勢になりながらも、やっとの思いで中に入った
立ち上がれば、暗闇に慣れた目に光が刺さった思わず閉じかけた視界に写ったそこは…まるで劇場のような場所だった
派手なネオンサイン 甘いポップコーンの匂い 微かに聞こえる映画の音声 頭上にはたくさんのフィルムが、誕生日の幕旗のようにぶら下がっている そういえば、最近あまり映画館に行っていなかったなと思いながら、少し浮ついた気持ちで、一際明るいチケット売り場の方へ足を進めた
「よぉ、嬢ちゃん 冷やかしにきたんなら、早く帰ってパパの自慢でも聞きに行くんだな」
賑やかな窓口に似合わない、暗い雰囲気を漂わせている男は、青い煙と嫌味を吐いて、うざったそうな前髪を垂らしながらそう言った
冷やかしと思われても正直仕方がないのだが、初対面で中々な口の聞き方だな と怪訝な顔で睨み返す
「まぁそう拗ねんなよ それよか嬢ちゃん、 どぉやらココの 礼儀を知らねぇよぉだ」
礼儀? 夢で礼儀を求めるとはおかしな話だな
「ここじゃ、初めましてのご挨拶には名乗りをあげるもんだ あ、知らねぇ奴には教えらんねぇ、とかは無しだぜ」
名前… 自分で想ったモノのくせに、わざわざ言わないと伝わらないなんて… 名乗らずとも周知の事実だろ それに、自己紹介は嫌いだ…
そうやってどう切り抜けようかと思っていたところに、
_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 『お困りか〜い!?』 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
静閑(せいかん)とした館内に、どこからともなくクエスチョン
「うるせぇなぁ んな大声出さねぇでも、俺らに嬢ちゃんしかいねぇだろぉが」
彼は両手の指を耳栓代わりにしながら、今しがた現れたソイツに向かって、忌々しそうに指さした …手が多くないか 随分精度の悪い
「シシッ そ〜うだったなァ〜 いつもはココがハジけるくらい、賑やかな場所にいるもんで にャ〜」
自分の頭をトン、とさしながら 騒がしい男はニヤニヤと笑った よく見れば、耳の代わりに猫耳が、頭の頂点についている ふざけた奴は格好までふざけているんだろうか
「アリス〜キミはなァんてステキなコトを、オレに思ってくれるんだねェ」
こいつ、思考を…?!…いや、そんなことより…
「…アリス?」
「?そうだよアリス キミはアリス アリス・ワンダー あ、アリスちゃんとか呼ンだ方g」 「やめろ」 「ちェ〜」
「なにイチャついてんだぁご両人」
「い、イチャってなんかいない!!!」
「え〜オレとイチャイチャしよ〜よアリスゥ〜」
「しない!なんでお前と?あと、なんで私を、アリスと呼ぶんだって!!」
「?だッて、アリスはアリスでしょ」
「(答えになってない…)」
「なんだ、嬢ちゃんアリスっつーのかい なぁにもったいぶってんだよぉ ほら、鍵は渡したから 早く行きな」
腕の多い男は、私の腰に回されたリボンへ 輪にかかった鍵を通し、残った二対の手で背中を押して、いつの間にか有り開いた、受付隣の扉に促される
「い、行くって どこに」
「そいつが教えてくれる あとは好きにするだけだ ほぉら行った行った」
「え、ちょっ」 「れっつご〜♪」
話の聞かない奴にいつの間に肩に腕を回され、半ば強制的に扉の先へ押され入った
「はぁ…」
「ため息ついちゃッてどうしたのさ、アリス」
「…」
水音の響く、白い白い空間を 彼を先導にしながら歩く
「ア〜リス〜?」
目の前で手を振ったり、頬を引っ張ってきたりつついたり 騒いでいないと死んでしまうのかな コイツ
「…ココでは、初めましての挨拶に 名乗りをあげるんじゃなかったの 私は、まだ君の名前を聞いてないよ」 コイツは名前を知ってた(らしい)し、あっちからすれば、初対面ではないんだろうけど… 私からすれば、こんな変な奴会って覚えていられないわけがない…し
「……………あ」
「(分かりやすく忘れてたな…)」
「アッハ〜 すっかり済んだ気分だッたにゃ〜」
「それなら、自己紹介させてねェ、アリス」
「オレの名前は、”チェシャ猫”」
「あの偏屈は “青ムシ”だ」
「よろしくね、アリス ずうッと会いたかったよ」
私の手を優しく握り、チェシャ猫はそう言った
「改めましてェ〜」
「ようこそ、アリス
キミの国、ワンダーランドへ!」
コメント
1件
読み終えました!夢と現実の境界が曖昧で、でも「夢でくらい夢を見せてくれ」という主人公の諦めにも似た願いが胸に刺さりました。落下シーンの浮遊感や、突然現れる天井に頭をぶつける生々しさが印象的で、一気に引き込まれました。チェシャ猫の距離感の近さと「ずっと会いたかった」という台詞が不気味でいて優しくて、続きが気になります!何度寝さんの丁寧な文体、とても好きです🌷