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「わ…ここが雄英高校…!」
丘の上にそびえ立つ、大きすぎる校舎。
さぞ警備は厳しいのだろうと感じられる外壁の作りに、ここは学校なのだろうかと疑ってしまう。
まるでお城のような造りだ。
雄英高校…恐るべし。
幼小中高一貫校で、5年前までは男子校だったらしい。
そのため高等部はほとんど男子生徒で、男女の比は何と8:2とか。
お父さんのお母さんも、心配するのは無理もないのかもしれない。
自分が親でも、入学させるのを躊躇してしまう。でも、僕は普通の男の子ではないから大丈夫だ。
えっと、事前に先生からは正門で待って言えばいいって言われたけど…
「あの…」
背後から声を投げかけられた気がして振り返る。
ふわりっと、風が吹いた気がした。
僕の視界に映ったのは、金髪の、少しチャラそうな顔をしたおとこのひと。
身長は僕より少し高いくらい。でも、只者ではないと、僕の本能が感じた。
彼からは、うっすらと脅威が滲み出ていた。
この人、きっと強い。
一瞬にして分かった。
それほどに、目の前の彼からは常人ではない匂いが漂っていたから。
それにしても…雑誌に出てくるモデルさんみたいに整った容姿をしている…。
美しく、でも明るさがにじみ出る容姿に、一瞬見入ってしまう。
「あんた?こんな時期に編入してくる男子生徒は」
彼が薄い唇を開けて発した。
「は、はい…!!」
編入生とは間違いなく、僕のことだと思う。
でも、こんな時期に、という言葉が気になった。ちょうど後期の始まるキリのいい時期だと思うんだけど…。
不思議に思いじっと彼を見つめていると、目の前の人は残念そうに眉を下げ、大きなため息をついた。
「まったく…せっかく編入生が来るって言うから、どんなかわいい子かと思ったら…どこからどう見ても男じゃねえかよオオオオオオ」
う、うるさい…そんなに女の子がよかったのか…
「もし男でも可愛かったらよかったんだけど…どっからどう見てもガリ勉だな。どうりで編入試験を通ったものだ」
…うっ…否定できない…。
今の自分の姿は嫌というほど見たので、的確な表現でついてきた彼に反論しようにもできなかった。
ボサボサ頭に瓶底メガネだもん…仕方ない仕方ない…。
でも、ガリ勉って言葉は失礼だなっ。
「裏口編入かと思ったら、その見た目なら納得だな」
…え?裏口…?
「付いてきな。理事長室まで案内するぜ」
そう言い捨てると、僕に背を向けて歩き出す彼。
先ほどの言葉がどうしても気になって、僕は後ろから声をかけた。
「あ、あの…さっきの、どういう意味ですか?」
「何が?」
「裏口編入、とか…」
彼の言い方は、僕の容姿を見るまで裏口編入を使ったと思っていた、とでも言うかのような言い方だった。
まるで編入は不可能、という言い方が引っかかる。
「…知らねーの?」
少し驚いたように振り返り、僕の顔を見た彼。
知らないのかって…何がだろう?
表情で知らないと伝えると、再び前を向き、歩みを止めずに話し始めた彼。
「雄英高校が、幼稚舎から一貫校なのは知ってるよな?」
「は、はい…」
「初等部への編入は、それなりの学力があれば合格可能」
それなりの学力…。確かに、雄英高校は暴走族学園と言われながらも、国内トップクラスの進学校だ。
当たり前に、高い学力を求められる。
それは知ってるけど…。
「けど、中等部、高等部への編入はありえない」
そう言い切った彼に、ますます疑問は膨らむばかり。
「いや、あり得なかったんだよ。今までは」
「どうしてですか?」
「高等部への編入は、難関大学の入試レベルなんだ。しかも、その試験で満点を取らなければ合格とはならない」
…え?
そのせりふに、驚いて言葉を失い、思わずぽかんと口を開いた。
「つまり、そんな学力のものは存在しないに等しいから、学校創立以来不可能とされていた」
「そ、そうなんですか…」
そんなに難易度高かったんだ…ここの編入試験。
全ての謎が解決し、納得したように首を2回縦に振る。
すると、彼が再び振り返って僕を見た。物珍しいものを見るような顔で。
「どうして驚くんだよ?お前は合格したんだぜ?」
「あ…そんなに難しい試験だったんだなって…」
…あ、あれ?
僕、今…失礼なこと言っちゃったかなっ…。
弁明しようと頭の中で言い訳を考えていると、彼が突然吹き出した。
「…ははっ、お前、面白いな」
「へ?」
楽しげに笑う彼に驚き、思わず変な声が出る。
お、怒って…ない?
「あの試験、俺も受けさせてもらったけど、散々な結果だったぜ?あの難題に引っかからないなんて、相当頭が切れるんだろうな。素直に尊敬するわ」
プライドが高そうな雰囲気とは裏腹に、あっさりとそんな言葉を口にした彼。
「あんな試験を通るやつが居るとは到底思えないけど、何よりもその見た目が証明だ。見るからに今まで勉強しかしてきませんでしたって感じの容姿だしな。まっとうに試験を助けてきたんだろ?認める」
…ん?
今さらっとけなされたような…。けど、今の見た目が真面目にしか見えないのは事実だから、気にせず流そう。
「俺はこの高等部の2年、上鳴電気だ。生徒会書記もしてる。何か困ったことがあれば、いつでも俺に頼れよ!!」
どうやら気分を害するどころか、なぜか楽しげな彼の姿にホッと胸を撫で下ろす。
…って、生徒会書記さん!?
このマンモス校の生徒会役員ってことは…やっぱり、すごい人らしい。
「ありがとうございます!僕は緑谷出久です!!」
「俺のことはなんて呼んでもいいぜ!」
「じゃ、じゃあ上鳴先輩って呼んでもいいですか…?」
「おお!いいぞ」
さっきよりも物腰柔らかそうな態度で、優しい声色の先輩。
表情も心なしか柔らかくなっており、うっすらと笑みさえ見えた。
良かった…思ってたよりも親しみやすい人だ。
昔から、お父さんに初対面の人には疑心暗鬼なくらいえ接するようにきつく言われていた。
そのせいか、人を疑うクセのようなものがついたんだ。
…というより、鼻が利くようになった。それなりの力のある人は、直感でわかる。
彼も僕の「それ」にあるはまったから、怖い人だったらどうしようと不安になったけど…どうやら、常識のあるいい人そう。
「僕のことはなんて呼んでくれても大丈夫です。これからよろしくお願いします!」
安心からか、自然と笑みがこぼれる。
上鳴先輩はそんな僕を見て、一瞬目を見開いた。
次の瞬間、なぜかほおを赤らめる上鳴先輩。
…あれ?どうしたのかな?
不思議に思い、そのままじっと見つめると、そんな僕に気づいてか、急に顔を背けた。
「…っ、あ、ああ、よろしくな」
それだけ言って、歩く速度を上げる先輩。
どうしたんだろう…?
「…まさか、な…。これがデクに似てるなんて、どうかしてる…」
ぼそっと独り言のように何かつぶやいたけれど、それは、聞き取れないほど小さな声だった。