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空白が多くて長いです
「あ゛つう゛ぅぅぅぅぅい゛ぃぃ…」
『ほとけこっちこないでよ…尻尾暑苦しい』
「じゃあ此処来なくて良いじゃん…なんでこんなあっつい日にもわざわざ来るの…?」
『ほとけとお喋りしたいから』
「意味わかんない…」
桜はすっかり散って、嫌になるほど暑い夏がやってきた
それでもこいつ…りうらは、七日ごとに欠かさず僕の元へやってくる
春の時は一緒にお花見したり花びら飛ばしたりして楽しかったんだけど、夏は別物
崖下の僅かな影にりうらも僕も収まろうとする所為で、尻尾も耳も汗びっちゃになっていた
『ほとけぇ〜…風起こしてぇ〜』
「疲れるからやだぁ…」
『けちーー』
「けちじゃない」
りうらはふーふー息を吐きながら、赤い着物の衿を緩める
…そういえば
「りうらって着物それしか持ってないの?」
僕の記憶が正しければ、りうらは出会った時からずっとその赤い着物を身にまとっている
おまけにその着物は所々ほつれているし、かなり汚れていて赤色…というより赤錆色に見える
『あぁ、 これね…この格好が一番動きやすいからずっとこれ着てるってだけ。他にも着物は持ってるよ』
「ふーん…」
『っていうか、ほとけも 着物それしか持ってないの?』
「そうだけど…なんか不思議な妖術でも掛かってんのか、汚れたりしないんだよね」
『えーーいいなー。便利じゃん』
「まぁ寝る時とかもずっとこの服装だから、暑苦しくもあるんだけどね。冬とかはあったかい」
『じゃあ俺も冬になったらあっためてもらお』
「冬まで此処に通う前提で話さないでよ…」
『ってか暑い…かき氷食べたい…』
「…カキゴオリ?」
『え? ほとけ知らないの?』
聞き慣れない単語に思わず反応してしまい、またりうらがニヤニヤし始める
悪かったね無知で…
『氷を削って、その上に蜜をかけた甘味だよ。冷たくて美味しいんだって』
「へぇー…氷が甘味って…やっぱり人間の世界の食べ物は面白いねぇ。しかもちゃんと美味しいし」
『ほとけ、桜餅とか三色団子気に入ってるもんね』
「やっぱり僕甘いの好きだから」
春にりうらとお花見をした時、りうらが桜餅と三色団子を持ってきてくれたことを思い出す
最初は何なのか分からなくて食べる気が起きなかったんだけど、りうらが無理矢理口に突っ込んできてその美味しさに気づけた
美味しいもの教えてくれたのには感謝してるけど無理矢理口に突っ込んできたのは許せない
盛大にむせて笑われた
『ほとけって子供舌だよね』
「唐突に罵倒しないで貰える???」
『だって事実じゃん』
「いやまぁそうなんだけど…そっそう言うりうらは何が好きなの?」
『….あぁ、俺は…』
うーーんと考え始めるりうら
りうらは年齢に見合わず大人だし、きっと僕が知らないような感じのお菓子が好きなんだろう
『…俺も桜餅好きだな』
「…はぁ!? りうら僕のこと言えないじゃん!!」
『あと饅頭とか』
「饅頭なら知ってるよ。あの、中に餡が入ってるやつ…ってそれも十分甘いじゃん!! やーいりうらの子供舌!!」
『俺はまだ子供だから良いんですー!! でもほとけは百年近く生きてるんだっけ? 百年も生きてまだ子供舌なのー?』
「うるさいわぁ!!」
こんな風にぎゃんぎゃん言い争い出来る位には仲が深まった
…それが良い変化なのかは分からないけれど
一匹ぼっちで暮らしていた時に比べると間違いなく楽しいのは事実だから
じりじりと焼け付く日差しの中
ほんの少しだけ、この関係が続いて欲しいと思う自分が居た
…だから疑いもせずに信じていた
りうらは
ずっと此処に来てくれるんだろうって
じりじりと焼けるような、乾いた暑さは過ぎていって
雨の降り止まない、蒸されるみたいな湿っぽい暑さがやって来た
激しい雨の音で目が覚める
「…んぅ……」
つんと雨の匂いを感じた
最近は空もどんよりとした灰色で、綺麗な空色が見られないのは残念だけれど
それより気になる事があった
「…今日、来るかな」
ぽつりと呟く
丁度、前にりうらが来た時から七日経っていた
だから今日はりうらが来る筈の日
…だけれど
「この雨じゃなぁ…」
まぁりうらなら傘差してでも来そうだし
いつもの崖下で待っていてあげるか
それから二刻ほど経った
「………」
来ない
うん
雨激しいもんね
一日くらい来ない日が有ってもおかしくないよね
「…別にがっかりなんてしてないけど」
誰に言い訳するでもなく、少し呟いてみる
本来なら僕は安心するべきなんだよ
九尾の元に入り浸っている人間が居るなんて危険すぎるんだから…人間に勘付かれる可能性が減ったって喜ぶはずなんだよ
あわよくば、このまま一生来ないでいてくれるかなぁって思うはずなんだよ
なのにさ
「…本当に馬鹿じゃん」
あの赤い瞳を待ち遠しく思ってしまっている自分を嘲笑う言葉が
静かにこだました
七日が経過した
激しかった雨はかなり弱まってる
ぽつぽつと落ちてくる水滴を眺めながらも、胸の高鳴りを感じる
今日は来てくれるだろうか
かなり小雨だし、傘も差さずに崖を駆け下りてくる様が想像出来る
『この前行けなくてごめんね。流石に雨激しすぎて行く気起きなかった』
そう言って、少しだけ申し訳無さそうに笑ってくれるだろうか
そしたら僕は…何て返そうかな
「別に謝んなくて良いよ。待ってないから」とか言ってみせようかな
大嘘…って訳じゃないけど?
まぁいつも来てる人間が急に来なくなったら少し心配するでしょ? 単なる優しさだよ
別に寂しかったとかそんなんじゃなくて…
そんな事を悶々と考えながら、いつもの崖下で座り込んでいたのだけれど
どういう訳か、この日もりうらは来なかった
それから七日が経った今日この頃
七日前のどんよりとした雲空は見る影も無く
綺麗な青空が広がっていたというのに
「なんで来ないのさぁ……!」
大きな声で嘆いてみるも、返事が返ってくることはない
また乾いた暑さが戻ってきて
陰鬱な色彩の雲もなくなって
今日こそは来るだろうと意気揚々に待ち構えていたのに
待ち続けた結果、既に日は西に傾きかけている
誰も来ない
あの赤い瞳も見えない
…どうして来ないんだよ
いつもいつも、まだ日が昇りきってなくて薄暗い内からやってきたのに
『ほとけはお寝坊さんだね』なんて笑いながら、目覚ましにと僕の頬を軽く叩いてきたのに
いくら此方が「来るな」って言っても、必ず最後には「またね」って返してきたのに
それで、初めて出会った時からずっと、此処へ通ってきていたのに
なんで
…もう来れなくなってしまったのかな
僕には理解出来ない事情か何かがあるのかな
それとも…飽きられてしまったのかな
僕と過ごしても良いことなんてないって
ようやく理解したのか
…というかなんで僕はここまで真剣に考えているんだ
喜ぶべきことじゃないか。
また安全に暮らせるようになるって
人間に勘付かれる可能性が減ったって
そうだよ、よく分からない人間の事なんて考える必要ないじゃないか
りうらの事なんて忘れてしまおう
それが一番良い
僕とりうらは
出会うべきじゃなかったんだから
…でもまぁ
夏に此処から見る星空は凄く綺麗なんだよって
教えてあげたら良かったかな
瞼の隙間から光が漏れてくる
酷く頭が痛い
…あれ、僕あのまま寝ちゃったのかな
頭の後ろにごつごつとした岩の感覚があるし
崖下で寝ているのか
そろそろ起きないと…
『…あ、ようやく起きた?』
「………….」
「りうらぁぁぁぁぁぁ!!!???」
『うわうっるさ!! …何そんな驚いてんの。てか、ほとけっていつも此処で寝てんの?めっちゃ寝相悪かったけど大丈夫そ?』
赤い瞳をぱちくりさせながら、りうらはいつも通りの口調で話す
いつも通り、何も変わっていないりうら
「…りうらっ…もう来ないんじゃなかったの?」
『…はぁ? 俺そんな事言ったっけ?』
「来なかったじゃん!!20日くらいずっと!!」
『…あぁ、それはちょっと予定があって行けなかったってだけだよ。心配させたのならごめん 』
けろりとそう返すりうらに、むらむらと怒りが込み上げてくる
「っ…何言ってんのっ…」
『…? ほとけどうし』
「僕がどんだけ待ってたと思ってんのさ!!!!」
思わずりうらの言葉に食い気味でそう言ってしまう
当のりうらはぽかんとしているけど
一度言い始めたらもう止まらなかった
「あのねぇ…! 行けないのなら易々と”またね” とか言わないで貰える!? “次予定あるから行けない” とか言ってよ!!! 心配になるじゃんか!!! 」
『…え?』
本気で怒ったつもりだった
でも 何故か、僕の言葉を聞いたりうらの口角が上がっていく
『…それってつまりさ、俺が来なくて寂しかったって言ってる?』
「…はあぁぁぁぁぁぁ!!?? そんな訳無いでしょ!!! ただ僕はずっと此処に通ってた人間が急に来なくなって心配しただけで、寂しいとか思ってないから!!!! 僕の優しさなんだから!!!」
『でも正味たった20日じゃん。ほとけずっと俺に来んなって言ってたけど、実は俺が来なくて寂しかったんじゃないの? ねぇ』
「そんな訳ないでしょーが!!!」
なんだか腹が立って、りうらの肩を掴む
少し驚くりうらに言ってやった
「いつも来てる奴が来なかったらさ…なんかこう…気持ち悪いじゃん!!! それに僕、まだりうらにすんごい妖術見せられてないんだから!!! それまでに居なくなられたら困るの!!!そんだけだから!!! 寂しかった訳じゃないから!!!」
『すんごい妖術って…春の時のあれは?』
「あれも凄かったけどっ…りっりうらに血反吐ぶちまけさせてないじゃん!!!」
『それ比喩表現じゃなかったんだ』
多分今までで一番喋った
はーはーと息を整える僕に、りうらは悪戯そうに笑って言う
『ふぅん,そっか…ちゃんと俺のこと待っててくれたんだね。ほとけ可愛いじゃん』
「90以上年下の奴に可愛いとか言われる筋合いないんだけど…!!」
『そうかそうか、そんなに俺とお喋りしたかったんだねぇ』
「話を聞け!!!!!」
もう最悪なんだけど…!!
そんな事を言いながらも、りうらが来てくれた事に対して安心してしまっている自分がいる
これじゃあ僕がまるで…
『…でも良かった』
『ほとけ』
『俺のこと待っててくれてありがとう』
先程までの意地悪そうな笑みは消えて、
にへっと、心底嬉しそうにりうらが微笑んだ
「…いやだから待ってないんだって!!!!」
『はいはいもう言い訳はいいから。今日何する?玩具でも持ってくれば良かったかな 』
「おい話を聞けぇ!!!」
叫び声で誤魔化そうとしたけれど
りうらの…あの子供っぽい微笑みを見て
うるさく鳴る胸には
知らない振りをしたい
閲覧ありがとうございました
コメント
1件
今回もとっても読んでいて楽しかったです!♪ 最近見始めたのですが、もう控えめに言って最高です‼︎☺️ 次回の小説も、書くの頑張ってください!🎶