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休日の朝。すちは目覚めた瞬間から、体が妙に重かった。
喉の奥が焼けるように熱く、視界も少しだけ霞んでいる。
身体を起こそうとするも、思うように力が入らず、ベッドに沈み込んだ。
「……すち? 起きてる?」
声がして、扉がそっと開く。
寝巻き姿のみことが顔を覗かせた。
「うわ、顔真っ赤……熱あるよ。なんで無理して起きようとしてんの……!」
慌てた様子で駆け寄り、手の甲でおでこを撫でる。
その手はすちの火照った額にひんやりと優しく、心地よかった。
「うん……ちょっとだけ、だるいだけ……」
「いや、ちょっとじゃないよ。体温計……あ、38.9度って。完全アウト」
そう言いながら、みことはタオルと水と氷枕を持ってきて、 不器用ながらも手際よく世話を始める。
「おかゆ、作ってくる。ちゃんと食べられるようになるまで寝てて。俺、やるから」
そう言ってキッチンへ向かう背中は、いつになく頼もしかった。
数時間後。
熱の波に揺れながら浅い眠りを繰り返していたすちは、
ふと気配を感じて目を開けた。
「すち……起きてる? おかゆ、できたよ」
手には湯気の立つお椀を持ち、みことがベッドの脇に座る。
目の下にうっすらとクマができていて、心配しすぎなのが伝わってくる。
「無理させて……ごめんな……」
すちがかすれた声でそう言うと、みことは首を振った。
「謝らないで。俺、今すちのこと世話できてるのが、ちょっと嬉しいんだ」
「……嬉しい?」
「いつも守ってもらってばっかりだったから。 こうやって、すちのために何かできるのが、すごく、あったかい」
みことの声は静かで、どこか少し照れていた。
けれど、しっかりと目を見て話すその姿に、すちは胸がきゅっと締め付けられる。
「……ありがとね、みこちゃん」
「うん。……全部食べて、元気になって。そしたらまた、ぎゅってして」
「……今でも、ぎゅってしたいくらい……」
笑いながら、みことはスプーンをすちの口元に持っていく。
ほんの少し塩気の効いたおかゆ。
それは優しい味で、胸にまでしみてくるようだった。
その夜。熱が少し引いたすちは、ベッドの端でうとうとしていたみことの肩にそっと手を伸ばした。
「みこと。隣、来て」
みことは一瞬だけ戸惑ったように見えたが、静かに頷き、毛布の中に滑り込んできた。
ふたりは何も言わずに、ただ手を繋いで目を閉じる。
体はまだ本調子じゃない。
だけど――こんなに心が満たされているのは、
みことがそばにいてくれるからだ。
「……俺が元気になったら、今度はたくさん甘えてね」
「……うん。いっぱい甘えさせて?」
その囁きに、小さな笑みがこぼれた。
数日後。
熱がすっかり引き、日常が戻ってきたころ。
すちはソファに深く沈みながら、ずっとみことの姿を目で追っていた。
洗濯物をたたんで、キッチンに水を取りにいって、戻ってきたみことがふと気付く。
「……ずっと見てるけど、どうかした?」
「ううん。……なんか、こうして元気になったら、改めて思った」
「なにを?」
「みことが隣にいるの、ほんとに幸せ」
そう言うと、すちはすくい寄せるようにみことを自分の膝に座らせた。
軽くバランスを崩したみことが、少し驚いたように振り向く。
「ちょ、すち!? いきなり……」
「だって……熱出てるとき、いっぱい我慢してたんだよ?」
「我慢……って?」
「抱きしめたいのも、触れたいのも、声聞きたいのも……
ぜんぶ我慢して、ひとりで寝てたんだから」
「……言い方……なんかえっち……」
「事実だもん」
みことの耳がじんわりと赤くなるのを、すちはすぐに気づいた。
そのままそっと首元に頬を寄せ、少し甘えた声で囁く。
「……いっぱいくっつきたい」
「……ん、いいよ。今日は俺も、すちに甘やかされたい気分だった」
「ほんと?」
「ほんと」
言いながら、みことはゆっくりすちの胸に身体を預けた。
大きな手が、みことの背を優しく撫でる。
その動きはどこか寂しさの残る安心の動作で、まるで「ここにいてくれてありがとう」と言っているようだった。
「……ずっとこうしててもいい?」
「いいよ。……ずっと、ここにいるよ」
ふたりの言葉は、囁きにも満たないほどの優しさで交わされた。
そしてその夜は、どちらが甘えるとか、どちらが支えるとか、そんな境界さえなくて。
ただお互いのぬくもりだけを確かめながら、寄り添う夜を静かに過ごしたのだった。
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