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この間会ったとき、別れ際に勇斗がぽろっと言った。
「〇〇日の朝9時にさ、モーニングコールしてくんね?」
「え、何で?」
「ガチで起きれないとやばい日だから」
朝が激弱で有名な佐野勇斗さん。あの有名俳優が恋人にモーニングコールを頼んでいるところなんて、恋人の俺しか知らないんだろうな、という優越感に浸る。
これは、楽しみだ。
「いいよ」
即答する仁人。
「ガチでちゃんとおこせよ?!」
「頼まれた分はやり切りますよ。」
「まじ頼んだかんな?」
了承した時の仁人の顔はずっとニヤニヤしていた。
__________
当日の朝9時きっかり。
仁人はウキウキした気持ちで自宅のソファに座りながら、勇斗に電話をかける。
本当に全然繋がらない。
留守電になってしまって、一回切ってもう一度かけ直す。
すると今度は2コール目で繋がった。
『……ん……』
「お、出た」
『ん〜〜〜……』
完全に寝起き。
乾燥からか声がガラガラで低かった。
「おはよ、勇斗」
『……ぅん、おはよ、……』
「起きてる?」
『……うーん……』
起きてないなぁ。
仁人は笑いを噛み殺しながら、モーニングコールを頼まれた時からずっと計画を立てていた意地悪をしてやろうと口を開く。
「ねえ勇斗?」
『…ん〜?……』
「今日さ」
「はやとんち、行っていい?」
電話の向こうは沈黙だ。
『……うーん……』
「いいの?」
『……ん……』
「え、いいの?」
『……うん……』
うわ、ガチじゃん。
仁人は一瞬固まってから、テンションが跳ね上がる。
「ほんとに!?!?」
『……ん……』
「やばーい」
「じゃあ勇斗が仕事終わる頃俺勇斗んち行くね」
『……?』
「あーてか、ちゃんと起きるんだよ!遅刻しないで!仕事頑張ってこいよ!」
『…うん……』
言うだけ言って、仁人は電話を切った。
「……ふふ」
勝った…。
仁人の心の中は寝起きの勇斗を利用して勇斗の家にいけることが楽しみで仕方ない気持ちでいっぱいだった。
__________
その日の夜。
約束通り勇斗が仕事から家に帰ってきそうな時間帯に勇斗の家へと向かった仁人。
まだ帰ってきていなかったのか鍵がかかっていた。仁人は何の疑いもなく合鍵で勇斗の家に入る。
電気をつけて、ソファに座って、積雪片付けて、領収書も整理して、どんな顔で「おかえり」って言おうか考え終わったところだ。
そして少しして玄関から扉が開く音がする。
「ふ〜……あ?」
疲れた声の勇斗だ。
何か見覚えのある靴があることが疑問だったのだろうか、不思議そうな声も聞こえる。
勇斗がリビングに足を踏み入れた瞬間。
「おかえり」
仁人は先ほどまで考えていた一番可愛くて勇斗が好きな顔で出迎える。
「……」
「……え?」
「ちょ、ちょっと待って、は?」
完全にフリーズしている勇斗。
ガチで意味がわかっていなさそうで面白い。
「……え???」
「おかえり!勇斗!」
「えちょ、おまえさ、なんでいるの?」
「え、だって朝いいって言ってくれたじゃない」
「……は?」
「モーニングコールのとき」
「行っていい?っつったらうんって言ってましたけど。」
勇斗は記憶を必死に探る。
朝、モーニングコール、仁人が家に……。
そもそもモーニングコールとか頼んだっけ?なんか朝仁人から不在着信の通知が来ていたのは覚えているけど、何ともねえだろ、みたいな気持ちで無視してしまっていたことは覚えている。
「……俺、そんなこと言った?」
「はい」
「記憶ないんだけど?!」
「だってあなた超寝ぼけてたもん」
勇斗は頭を抱える。
「え…やば……」
「本当だよ」
「いや、いやいやでも、あの状態の俺はノーカンじゃない?!」
「いやいや、それは無しですよ〜〜」
仁人がいそいそと歩いて勇斗の前に来る。
「ちゃんと確認したよ?」
「勇斗んちで行っていいよねー?っつったら」
「うーん、っていってたよ?」
「二回くらい」
「それイエスのうんじゃねえって…」
「だから、合法です!」
「おま、2回目やんけ」
勇斗はため息をつきつつ、嬉しそうな顔をして仁人を見る。
「……で、もう来ちゃったでしょ?」
「うん」
「……帰すにしても遅いし…」
「うん」
「……泊まる?」
「うん」
「遠慮しろよ」
仁人は意地悪が成功して嬉しそうだ。
「いや〜、佐野さんも疲れてるときに愛しの恋人と一緒に寝れたら嬉しいでしょ?」
「俺の寝ぼけ許可を悪用するな!」
「した覚えはないです」
「こいつ〜!!」
そう言いながらも、勇斗は仁人の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「……でも」
「お前ちゃんと電話してくれてたんだな」
「ちゃんと起きれたし」
「まあ頼まれたんでね」
「次からは」
「うん」
「お前にだけはモーニングコール頼まねえわ」
「は?!だめ!」
寝起きの勇斗は何でもおっけーしちゃうから誰とも話してほしくない仁人だった。