「こんな素敵なマンションに住んでいるんですね」
「そうかな? 小西さんだって、住所を見る限りそれなりのマンションに住んでるでしょ?」
「夫が見栄っ張りな性格なので……」
「そっか。まあいいや、行こう」
「はい」
車を降りた私たちはエントランスホールへやって来ると、エレベーターが到着するのを待った。
そして、エレベーターに乗り込むと、杉野さんは最上階の二十五階のボタンを押した。
「最上階に住んでいらっしゃるんですね」
「うん。まあ特に拘りは無いんだけど、どうせなら最上階でいいかなって」
「そうなんですね」
格好良くて、優しくて、気遣いも出来て、良い車に乗っていて、高層マンションの最上階に住んでいる杉野さん。
絶対に女性からモテるだろうし、そもそも彼女がいないのか不安になる。
「あの、ここまで来て今更なのですが、杉野さん、彼女はいらっしゃらないんですか?」
最上階に着いて一番端の部屋の前にやって来たタイミングで彼女の有無を尋ねると、
「そんなのいないよ。っていうかいたら流石に小西さんを家には誘えないよ」
「そう、ですよね。それを聞いて安心しました。もしいたら、彼女さんに申し訳無いですから」
いない事が分かってひと安心。
「さ、中に入って」
「お邪魔します」
そして、鍵を開けた杉野さんに促される形で私は部屋へと足を踏み入れた。
「素敵なお部屋ですね」
靴を脱いで廊下を歩いて行くと、ソファー、オーディオ機器、TVだけがレイアウトされ、色は白と黒で纏められたシンプルなコーディネートのリビング。
最上階ともあって窓からの景色も素敵なものだった。
「適当に座ってて。今何か飲み物持っていくから」
「あ、あの、お構い無く……」
「いやいや、お客様に何も出さないとか失礼でしょ。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「あの、コーヒーで」
どちらが良いかと問い掛けられて私が答えたのはコーヒー。
だけど本当は、コーヒーはあまり好きじゃない。飲めない訳じゃないけれど、少し苦手だった。
でもカフェで会う時杉野さんはいつもコーヒーを頼んでいるからきっと彼はコーヒーが好きなのだろうと予想し、わざわざ紅茶を淹れてもらうのは申し訳なく思ったからコーヒーと答えたのだけど……。
「はい、どうぞ」
「え……あの、どうして?」
「小西さん、カフェではいつもコーヒー頼んでたけど、本当は苦手なんじゃない? だから紅茶にしてみたけど、お節介だったかな?」
彼は私がコーヒーが苦手な事を見抜いていたようで、わざわざ紅茶を淹れてくれたのだ。
「すみません、ありがとうございます。杉野さんの言う通り、コーヒーは苦手なんです。カフェでも紅茶を頼もうかなって思うんですけど、つい相手に合わせてコーヒーを選んじゃって……」
「そっか、それなら良かった。ミルクで良かった? レモンティーにも出来るけど」
「ううん、ミルクで大丈夫です! 本当にありがとうございます」
気遣いが嬉しくて、感動した私は向かい側に座った杉野さんに深々と頭を下げて感謝の言葉を述べた。
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