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「おはよう、ケット」
ムツキが1階へと降りてきて、人族の子どもくらいの大きさがある大きな黒猫をケットと呼んで挨拶をする。
ケットは黒猫でほとんどの毛が黒色で、ただ胸元にだけ白いふさふさの毛を蓄えている。そして、キラキラとする金色の瞳をしており、感情表現が豊かな2本の長い尻尾がある。さらには、2本の後ろ足で器用に二足歩行をしており、2本の前足はまるで人族のように器用に何か物を持っていた。
「ご主人、おはようございますニャ! さっきの音、服が弾け飛んだニャ?」
その黒猫のケットは人語を理解し、さらに人語を話し始めた。彼は猫の姿をしている妖精であり、妖精族を束ねる王様でもあった。なお、エルフも妖精族の1種であるため、エルフは彼の傘下である。
彼はムツキのことをご主人と呼んで慕っていて、何匹かの妖精たちとともに、ムツキとユウの生活をバックアップする生活を続けている。
「うぐっ……すまない。服という貴重な資源を無駄にしてしまった」
「気にすることニャいニャ。物というのはいつか使えニャくニャるものニャ。気にする時間を別のことに使う方が建設的ニャ」
「ありがとう」
爆散した衣類のことを気にするムツキに、ケットは首を横にぶんぶんと振ってから、諭すように彼へとそう伝える。ケットの実年齢は可愛い見た目と裏腹にかなり高く、いろいろな場数と経験を踏んでおり、言葉の1つ1つに説得力があった。
ムツキが礼を言うと、ケットが満面の笑みを見せる。
「よかったニャ。さて、ご飯にするニャ。先に席に着いていてほしいニャ」
「分かった」
ムツキが席に着くと、ナジュミネ、リゥパ、ユウの順番にやってくる。
「おはよう」
ナジュミネは先ほどのドルフィンパンツから白い長ズボンに変わっており、元・炎の魔王らしい凛々しい姿をしている。
「おはようございます」
リゥパはその逆で白いワンピースで女性らしさを出しつつ、エルフの姫の証である腕輪を着けている。彼女は以前、森での生活からオシャレよりも実用性を優先して、長袖に長ズボンが多かった。
その反動からか、この家に来てからというもの、森に入る用事がないときはスカートやホットパンツ、半袖やノースリーブなどの丈の短い衣類のオシャレを楽しんでいた。
「おはよー」
「おはよう」
ユウは先ほどと変わらず寝間着のままだった。ただ、テレポートも自分の足も使わず、碧色の毛並みをした長毛種の犬の背に乗って下に降りてきていた。
その犬は、クーと呼ばれており、ケットと同様に人語を理解できる上位の妖精だ。犬の姿をした妖精たちのリーダーであり、ケットとは旧知の中で親友である。いつも笑っているような表情をしているが、特に何かが面白くて笑っているわけではないようだった。
「ニャジュミネさん、リゥパ、ユウ様、クー、おはようニャ。席に着いてほしいニャ。あ、クーは申し訳ニャいけど、ご飯が後にニャるニャ」
「あぁ、構わない。ソファでひと眠りする」
それぞれが挨拶を交わし、席に着く。クーだけはケットに言われてからゆっくりと頷いて、ソファへとのそのそと歩いていく。
「さてと、それでは、今日もいただく命に感謝ニャー!」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす!」
「にゃー」
「わん」
「ぷぅ」
この家の決まり事として、ケットの挨拶の後に皆が一斉に挨拶をする。
「にゃー」
「あーん」
そして、ユウとムツキの二人は猫や犬たちから、ひと口ひと口を丁寧に食べさせてもらっている。
食事不可の呪い。自分で食べることができない呪い。食べる動作をしようとしても無意識に食べる動作をやめてしまう。飲む動作はできる。
ムツキにはこの呪いがある限り、食べ物は誰かから食べさせてもらうしかない。なお、ユウはただの面倒くさがりであり、神の特権ということで彼と同じように食べさせてもらっているだけである。
「今日も美味しいな。いつもありがとう」
ムツキはケットにそう伝える。ケットは胸を張って、嬉しそうに2本の尻尾をくねらせる。
「ありがとうニャ。みんニャ、喜ぶニャ。必ず伝えるニャ」
「みんなも食べさせてくれてありがとうな」
「にゃー」
「わん」
ムツキは視線を変えて、隣で一生懸命働いてくれている猫や犬の妖精に礼を言う。猫や犬は嬉しそうに反応する。
「旦那様はすごいな」
「急にどうしたのよ」
ナジュミネが小さく呟き、リゥパがそれに気付いて、ナジュミネの言葉を拾い上げる。
「あ、聞こえていたか。すまない。いや、妾は感謝の言葉を伝えることをついつい忘れることがある。でも、旦那様は必ず感謝の言葉を忘れないなと思って」
「たしかに、ムッちゃんって根が優しいというか、感謝とかそういうのを大事にできる人よね」
「だから、皆に好かれるんだろうな」
ナジュミネとリゥパの話を聞いて、急に褒められたムツキは無言で顔を真っ赤にしている。目の前で不意打ちの褒めを受けて、感情を処理しきれなかったようだ。
「あっ、ムツキ、不意に褒められて、顔が真っ赤になってる。かわいいー」
「男にかわいいって言うなよ……恥ずかしいだろ」
ムツキは少しムスッとしているかのように言葉を出すが、実際は彼の言う通り、恥ずかしさのあまりに上手く表現できていないだけである。
やがて、雑談も食事も皆が終えたことを確認して、ムツキが口を開く。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまー!」
「にゃ」
「ばう」
こうして、1日の始まりである朝食は無事に終わった。