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俺がルナに攻撃力魔法を教え始めてから早くも1ヶ月が経とうとしていた。
ルナは自らの内面にあった恐怖や不安という思いを意識し始めたあの日からというもの、徐々にではあるが確実に成長している。
その証拠として最初の頃よりも無詠唱の初級攻撃魔法が3倍もの威力を出せるようになっており、もう初級の攻撃魔法に関しては十分に実戦で使えるぐらいにはなっていると思う。
そして今では少しずつ中級の攻撃魔法も無詠唱で出来るように練習を進めているところである。
他にもルナの頼みで攻撃魔法の訓練の合間に中級の回復魔法を教えてみたり、先日の依頼で見せた飛行魔法も教えたりもしていたのだが、ルナは俺の想像以上のスピードでそれらの魔法を習得していった。
彼女のポテンシャルの高さには本当に驚かされた。
攻撃魔法も無意識にある苦手意識や恐怖などが無くなるか克服することが出来れば、かなり化ける可能性が彼女にはあるに違いない。
そんな彼女にいろんなことを教えることがここ最近では俺にとって楽しみの一つとなっていた。やはり誰かに教えることが好きなのかもしれない。
そんなある日、俺たちは数日振りに冒険者として依頼を受けることにした。ここ最近はルナの成長度がすごくて波に乗ったように連日魔法を教えていたのだが、俺たちの本業を疎かにするわけにもいかない。
俺たちはギルドで手ごろな依頼をいくつか見繕って街を出発した。
そうして町を出発してからおよそ5時間後、俺たちは受けた全ての依頼を終わらせてオリブの街へと帰って来ていた。
当初の予定では夕方ぐらいに帰って来れるぐらいを考えて依頼を受けたのだが、何と俺の予想以上に早く終わって昼過ぎごろには俺たちは街へと帰って来ることができていた。
何故そんなことになったのかと言うと、それはルナが初級の攻撃魔法を実戦レベルで使えるようになったからである。
そのため難易度:C相当の討伐依頼であれば彼女一人でも対処できると考えた俺は魔法の実戦練習がてら一つ依頼を彼女のみで担当してもらうことにした。そしてその待っている時間が暇だったので俺が別の依頼を達成しておくことにしたのだ。
その結果としてこんなにも早く依頼が終わって帰って来れたという訳である。
ここで勘違いしてはいけないのは、普通は初級の攻撃魔法を無詠唱で実戦レベルに使えるようになったからと言ってCランク冒険者相当の依頼を一人でこなせるわけではない。
ではなぜルナは出来ると判断したのかと言うと彼女には高度な支援魔法の上でもあるからである。
彼女の無詠唱での初級攻撃魔法が実戦レベルの威力に達したということは彼女自身の支援魔法による能力向上効果や魔物に付与する能力低下効果も含めると、事実上彼女は中級相当の威力を持った魔法を無詠唱で発動できているということになっているのだ。
そのおかげで難易度:C相当の魔物に対しても彼女は初級の攻撃魔法だけで討伐出来たという訳である。
だがもし仮にルナが実戦でその力を発揮できずに窮地に立たされたとしても大丈夫なようにこっそりと彼女に護衛用のゴーレムを透明化状態で側に付けていた。万が一の対策もばっちりだったが、幸いにも彼女は危なげなく自身の力のみで依頼を達成してみせた。
「ルナ、初めて自分だけで討伐依頼を達成した感想はどうだ?」
「はい!自分の成長が感じられてとても嬉しいです!!」
「それは良いことだ。成長を実感できるのはモチベーションにも繋がるからな」
ギルドへと向かうルナの足取りはとても軽く、横を歩いているだけでも彼女の嬉しさがひしひしと伝わってきていた。教え子が成長する姿を見るのは俺も嬉しいが、何だか少し寂しい気もする。
「この調子で攻撃魔法がもっと使えるようになっていけば、もうどこのパーティに行っても門前払いされなくなるどころかいろんなパーティからの勧誘が止まないだろうな」
「…!そ、そうですよね…そうなると、いいですね…」
すると突然、ルナの声から元気が薄れていってしまった。な、何か不味いことでも言ってしまっただろうかと俺は激しく動揺する。
何とか挽回しようと明るくなるような話題を探すがなかなか見つからず、だんだん空気が重くなっているように感じ始めた。ルナも少し俯いて何も話さなくなってしまい、かなり気まずくなってしまった。
俺は必死に何か話題がないかと辺りを見回して考える。
だが、こんな時に限っていつも通りの日常がそこには広がっていた。
なんか話題になることないか!と心の中で必死に願って辺りを見回していると、進行方向の先の方で何やら少し人だかりが出来ているのを発見した。
何だと思って目を凝らして見て見るとそこは冒険者ギルドの目の前であった。
「ん…あの人だかりは何だ?」
「えっ?あっ本当ですね、何でしょうか?」
俺たちはギルドに依頼の報告をしないといけないのはもちろんだが、その人だかりの正体も気になるので少し急ぎ足でギルドへと向かうことにした。
そうして人だかりのところまでやってきた俺たちはギルドに入るために人の間を縫って進んでいくと、この人だかりの原因であろうものが視界へと入ってきた。
「こ、これって…貴族様の馬車でしょうか?」
そこには王家の紋章が刻まれた豪華な装飾が施された馬車が3台ほどギルドの前に止まっていた。そしてその周囲には王国騎士団の団員と思われる騎士たちが何人も待機していた。
というか何故ここに王族が来ているのだ?
もしかして僕やお母さまのことがバレた…?
いや第一王子だと決まったわけでもないし、もしそうだとしても俺が目的ならこんな大々的に来るのではなく密偵か暗殺者を寄こすはず。
ということは第一王子ではなく他の王族か?
国王が来るとは思えないし、可能性があるとしたら第一王女か第二王子…
俺は王家の紋章を見た瞬間に頭の中で猛烈に思考が駆け巡った。1秒にも満たない間にあらゆる可能性を考慮し、自らに危険が及ぶかどうかの判断をした。
結果から言えば、おそらくこれは偶然で俺の正体の件とは無関係である可能性が高いだろう。逆にここで妙な行動を取れば無駄に怪しまれてしまう可能性が出てしまうので普通にしているのがベストだろう。
「あの紋章は王族のものだな」
「えっ?!そ、それじゃあ王族の方がいらっしゃっているということですか…?!」
「ああ、そうだろうな。だが何の理由でわざわざ王族が来ているのだろうか」
ルナはこの先に王族がいると知ってかなり緊張している様子だった。とりあえず俺たちは様子を見ながらギルドに入れそうなら入ってみようということにした。
人をかき分けてギルドへと近づいていって入口へと向かおうとしたその時、ギルドの入り口近くで待機していた騎士に呼び止められた。
「君たち、ちょっと待ってくれるか。今、この中に王女様たちがいらっしゃるので怪しい奴を通すわけにはいかないのだ。身分が分かるものなどはあるか?冒険者なら冒険者カードでも構わない」
俺たちは騎士の要求通りに自分たちのギルドカードを素直に渡すことにした。すると俺のギルドカードを見た瞬間、騎士が「なっ?!」と目を見開いて驚いていた。
「あ、あなたがあのSSランク冒険者、漆黒の仮面冒険者様なのですか?!」
「あ、ああ。そうだが…?」
ギルドカードを持つ手がプルプルと震えながらこちらを見つめる騎士。彼の声が思いのほか大きかったせいで、周りの騎士たちの視線が一気にこちらへと集まってきた。
「おい、どうしたのだ?」
「こ、これ見ろよ!」
すると他の騎士たちが何かあったのかと駆けつけてきて、次々と俺のギルドカードを覗き込んでは驚いていた。そして俺は一気に騎士たちから羨望の眼差しを向けられることとなった。
「お噂に聞いております!まさかあの漆黒の仮面冒険者にお会いできるとは…!」
「勇者や賢者しかなれないと言われているSSランクに僅か1年でなったと言われているお方がまさか目の前にいるなんて…!」
「ぜ、ぜひ握手してください!!」
なんかすごいことになってしまった。とりあえず求められた握手を一通りこなして興奮気味の彼らを宥めようとするが、なかなか収拾がつかない。
そういえば俺がSSランクになってから数か月間はギルドでも町でもこんな感じだったな。お金欲しさと素材欲しさに大量に依頼を受けまくっていたらいつの間にかSSランクになっていただけなのに。
当時はこのままだと貴族に目を付けられて不味い…!と思って冒険者辞めようとしてたぐらいだ。
握手を終えると今度は「どうすれば強くなれるか」だの「強さの秘訣を教えてくれ」と質問攻めが始まった。俺は彼らを宥め続けるが人数の圧にかき消されている。
一方、ルナは騎士に囲まれている俺を見てどうしたらいいのか分からずあたふたしていた。俺が逆の立場だったとしても何も出来ないだろう。
そうしていると突然、ギルドの入り口から大きな声が響き渡った。
「一体、何事だ!」
その一言で周りにいた騎士たちが騒ぐのをやめ、一斉に声の主の方へと敬礼をした。すると入口の方から鎧を身に纏った男性が歩いてきた。
「「「だ、団長お疲れ様です!!」」」
騎士全員から団長と呼ばれたその男性は素人目でも分かるほどの存在感があり、彼からにじみ出るオーラは強者のそれだった。
おそらく彼が王国騎士団の団長、アレグ・バーンズ。現バーンズ公爵の次男で王国でも随一の実力の持ち主である。その実力は上位のSランク冒険者にも引けを取らないとされている。
「お前ら、仕事中に一体何をしている?」
「そ、それがですね…」
すると一人の騎士が騎士団長の元へと駆け寄って事情を説明した。すると説明を聞いた騎士団長が周囲にいた騎士に向かって大きな声で説教をする。
「お前たち、大事な任務中にたるんでいるぞ!もっと集中しないか!!」
「「「申し訳ありません!!!」」」
全く…と小声で呟きため息をつく騎士団長。長い間、争いも何もない王国では騎士団もかなり平和ボケが進んでいるのかもしれない。
平和なのは良いことだが、騎士たちの士気も下がっているのかもしれないな。
「アレグ、大声なんか出してどうしたの?」
すると可愛らしい女性の声が騎士団長の奥から聞こえて来た。俺はその声を聞いて体に電流が走ったかのような錯覚を覚える。
何故なら、その声が昔よく聞いていた声だったから…
「王女殿下、申し訳ありません。護衛の騎士たちが少々たるんでおりましたので…」
そう、騎士団長が頭を下げている王立学園の制服を着た赤桃色の髪をした彼女こそこの国の第一王女アイリス・フォン・シャルトルーズ。そして昔、学園にいた時に勉強を教えて欲しいなど言ってとよく俺のところへと来ていた後輩でもある。