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熱帯夜

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熱帯夜

2 - パフェより甘い

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30

2023年12月14日

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寝起きの良い朝、悪い朝は誰にでもあるだろう。不覚にも、女子高生、しかも元受け持ちの生徒が横で眠っている状況が途轍もなく幸せに感じてしまった。

「おはよ」

呟くように真希に言い、きれいな髪の毛に触れてみる。想像していた通り、さらさらだ。

さて、とベッドから下りてカーテンを開ける。すると真希がまぶしそうにするのでカーテンを開けるのはあきらめた。

僕は朝起きてからすることは特にないが、今日は真希がいる。

コーヒーとか飲むかな。

と思ったので久しぶりにコーヒーを淹れてみることにした。

ゆったりとした朝の空気とコーヒーの香りが眠気を誘う。時計を見ると6時半。今日は休日だしゆっくりできる。珍しく任務もないのだ。

昨夜涼しい快適な眠りを提供してあげたのだから、一日中真希と出かけるのもいいな。

1人でにこにこにやにやしていたらぺたぺたと足音が聞こえてきた。

見るとあくびをしながら真希が寝室から出てくる。

「いいにおい」

「うん、コーヒー淹れてんの。飲む?」

「飲む」

ブラック、とちゃっかり注文してくる真希。

恵もそうだが真希もブラックを飲む。僕は長らく甘いコーヒーしか飲んでいないから分からないけれどおいしいのだろうか。

角砂糖をぼとぼと落としていると真希がうえ、と眉間にしわを寄せた。

「真希のはブラックね。はい、どうぞ」

「さんきゅ」

真希がコーヒーをごくりと飲む。

「つーか朝も暑いってもう地球おかしいんじゃねえの?」

「地球温暖化ってやつじゃない?そのうち熱中症で死ぬ術師出てきそう」

縁起でもないが真希と2人して笑ってしまった。

「真希ぃ」

「んだよ」

「今日なんか用事ある?」

「いや、ねえけど」

「僕も今日一日休みなんだよね」

それがどうしたと言わんばかりの目で見つめてくる真希。

「どっか出かけない?」

「‥‥どこ行くんだよ」

「真希の行きたいところでいいよ」

真希はしばらく黙りこくって、そのあとこう言った。

「キュープラザ」

「え?」

「キュープラザ行きたい」


「服似合ってるよ」

「そーかよ」

「照れた?」

「照れてねえよ」

「嘘だ」

「嘘じゃねえ」

「そう?」

僕は大人の余裕というやつを取り繕って、そっぽを向いてしまった子供をじっと見つめる。

山手線に乗ってまだ1分も立っていない。珍しく空いていたので真希を席に座らせ、僕は正面の吊革につかまった。

「キュープラザってどこにあるんだっけ」

新宿?と僕は聞く。

「まあ新宿にもあった気がするんだが‥。私が行きたいのは原宿のキュープラザだ」

「ふぅん」

ごとん、ごとん、と電車に揺られる。

流れる景色を見つめる真希は、少し物憂げに見えた。


山手線に乗って10分くらいして、原宿駅でおりる。

改札を出て人混みの中交差点を通り過ぎていく。

「ここ」

「なんかするの?」

「パフェ食えるんだよ。野薔薇が教えてくれた」

「へぇ。おいしいの?」

「おいしかったらしいぞ。野薔薇が言ってただけだけど」

真希はずいぶんと嬉しそうだ。

「そういえばさっきもキュープラザなかった?」

「あー、あそこもあるけど私はこっちの方がいい」

「なんで?」

「あっちは洋服とかが売ってるからな。私は滅多に行かない」

「後で寄ろうよ、洋服買ってあげるからさ」

「別にいらねえよ」

そう?と僕が返す。

僕の横を通って、真希は中へ入っていく。

「何名様ですか?」

「2人です」

「かしこまりました。あちらの席へどうぞ」

真希は軽く会釈してテーブル席に座った。

「真希はパフェ?」

「ああ」

熱心にメニューを見る真希。時折首をかしげて、これはなんだ、と僕に聞いてくる。

しばらくして真希は店員を呼び、注文をする。

真希が甘いものを食べている印象はあまりないが、それなりに食べるのかもしれない。

「ねえ真希、それ僕も食べてみたい」

僕は飲み物しか頼まなかったけれど、いざ目の前にすると食べたくなるのは仕方ないだろう。

「いいけど」

真希はスプーンにパフェをのせて僕の目の前に差し出す。

スプーンの上のパフェを口に含み、スプーンだけ真希に返した。

真希は何事もなかったかのようにそのスプーンで食べ始めているが、いいのだろうか。

気にしていない、とか。あるいは気づいていないかもしれない。

恋愛や色恋にとんと興味がない真希でも、揶揄ってやればすぐに照れる。

そんな真希が、だ。

「真希ってこういうの気にしないタイプ?」

「こういうのってなんだよ」

「ほら、間接キスとか」

真希の顔がこわばり、みるみる顔が赤くなっていく。真希の視線は僕とスプーンを行き来している。

気づいてなかったパターンかぁ。僕は少しがっかりしながら、飲み物を口にした。

真希はいまだに固まっていて、何をするべきか、何を言えばいいのか迷っているようだった。

「真希、食べないの?」

僕が食べちゃうぞー、と言いながら、真希の肩をつついてみる。

「お前にやるパフェはねえ」

「お、復活した」

「お前、女遊びもほどほどにしとけよ」

「なに急に」

先生びっくりしちゃったよ。

「あ、もしかして嫉妬?大丈夫大丈夫、それくらい弁えてるから」

「お前が弁えてるとか言うな。信憑性がかけらもない」

これ以上からかったらパフェをくれなくなってしまうかもしれない。

僕は近くにあったもう一つのスプーンでパフェに手を伸ばした。

「んー、おいしい」

「お前も頼めばよかったじゃねーか」

「いや、女の子の前でがっつりパフェ食う勇気は僕にはないよ」

「嘘つけ」

「嘘じゃないもん」

「もん、とか言うな、気持ち悪い」

「反抗期続行中?あんまり長いと嫌われちゃうよー」

「頼むから黙ってくれ悟」

それでもパフェを食べる手は止まらないようで、そこに幼さを感じる。

ごちそうさまでした、と手を合わせる真希。僕も残りの水を飲み干す。

「金は悟が払えよ」

「やっぱりそうなるよね」

「悟が出かけようって言ってきたんだからな」

「分かってるって」

会計を済ませて、外へ出てみると雨が降っていた。

それも多少ならいいのだが、多少どころじゃない雨だ。土砂降りで、今にも雷が鳴りそうな空を見て、真希が眉間にしわを寄せる。

「雨降ってるね」

「あ、お前自分だけ無限で守るとかずるいぞ!」

「しょうがないなぁ、真希も入れてあげるよ」

僕は真希の手を僕の手に重ねて、手をつないだ。

「おい悟」

「ん?」

「この手はなんだよ」

「分かってないなぁ、僕が触れてなきゃ無限の意味もなくなっちゃうでしょ?」

「‥‥」

いや、多分触れてなくても近くくらいなら大丈夫なんだろうけど。

「そういえば、洋服買いに行くんだったね」

「雨降ってるし、もういい」

「そう?じゃあまた今度行こうね」

「1人で行けるからいい」

「えー、2人の方が楽しいのになぁ」

「ふざけんな、こっちは疲れるわ」

ふいに横を向くと、耳を赤く染めてふてくされるようにしている真希の横顔が見えた。

思わず頬が緩んでしまうのをどうにかして耐えながら、真希と駅まで歩いていく。

切符を買って山手線に乗る。

「今何時だっけ」

「もう11時回ってる」

「お腹すいてる?」

「いや、パフェ食ったからそんなに」

「じゃあお昼は遅くていいかぁ」

「はぁ?昼もどっか連れまわす気か?」

「え、駄目?」

「もうめんどくさい、出かけたくない」

「‥真希って意外とインドア?」

「かもな」

しばらくして真希がうとうとしはじめたので、僕の肩へ寄りかからせた。

「昼ご飯は寮で一緒に食べようね」

約束を取り付けてから、真希のかわいらしい寝顔をいやというほど目に焼き付けることにした。


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