すちは湯船から上がり、髪を軽く拭きながら浴室の扉を開けた。
その瞬間――
「…っ! いたぁ……」
小さな声がして、目の前で何かがよろける気配。
扉のすぐ前にいたみことが、ちょうど開いた扉の縁におでこをぶつけて、ぺたんと尻もちをついてしまっていた。
「みことっ!?」
すちは驚きの声を上げ、すぐにタオルを放り出してしゃがみ込む。
みことは目を潤ませながら唇をぎゅっと噛み、泣き出すのを必死でこらえていた。
「だ、大丈夫!? ケガは?痛くなかった?」
すちは慌ててその小さな身体を抱き上げ、おでこにそっと手を当てる。
「……ちょっと……いたい……」
小さな声で答えたみことの額は、うっすらと赤く染まっていた。
「ごめん、ごめん、まさか扉の前にいるなんて思わなくて……!」
すちは焦ったように眉を寄せ、温かい掌でおでこをやさしく撫でる。
「ここ、痛い? 冷やそうか?」
その掌の温もりがあまりにも優しくて、みことの目に再び涙が溜まる。
泣かないように、とさっき自分に言い聞かせたばかりなのに――。
「……すち……」
震える声で名前を呼んだ瞬間、涙が頬を伝ってぽろりと落ちた。
「みこと……がまんしなくて良いよ」
すちは苦笑いを浮かべ、泣き出したみことの背中を撫でながら、胸の中に抱き寄せる。
「大丈夫、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだよ。偉かったね、ちゃんと我慢してたんだ」
「……ん、すち……ごめんなさい……」
「みことは悪くないよ、ごめんね」
すちはみことの頭に唇を落とし、やさしくおでこを撫でる。
その温もりに安心したのか、みことは小さな声で「すち、あったかい……」と呟き、腕の中でさらに小さく丸まった。
「痛くなくなるまで、ぎゅってするからね」
「……ぅん……」
「ほんとに、我慢強いね……。偉いよ、みこと」
すちはみことを抱き上げたまま、そっとリビングのソファへ向かう。
みことの小さな手はすちの胸に絡まり、まだ少し震えている。
「……待っててくれて、ありがとうね」
すちは小さな声で囁き、額に軽く唇を寄せた。
そのまま、みことの小さな唇にやさしくキスをする。
「…んっ、……えらい?」
みことはまだ涙目のまま、かすかに震える声で尋ねた。
「えらいよ、みこと」
すちは微笑みながら答え、髪を撫でる手に力を込める。
その瞬間、みことはこらえていた感情が一気に溢れ出す。
ぽろぽろと涙が頬を伝い、胸の中ですちにぎゅっとしがみつきながら、声を上げて泣き出した。
「ふぇっ……すちぃ……っ」
小さな声で泣きながらも、みことはすちの胸に顔を押し付け、安心と甘えを全身で表現する。
「偉かったね。頑張ったね」
みことはすすり泣きながらも、すちの温かい胸の中で少しずつ落ち着きを取り戻す。
小さな手で胸を押さえ、涙混じりの笑顔をちらりと見せた。
「……すち……だいすき……」
「俺も、みことが大好きだよ」
抱き合ったまま、リビングには柔らかな静寂と二人だけの温かさが広がった。
泣いてしまったけれど、それさえも、すちにとっては愛おしいみことの姿だった。
コメント
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みこちゃんよお頑張ったね!偉い(^-^)