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タイトル名は、まだない
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◇ワンクッション◇
キャプション必読。
こちらはとある戦/争.屋実況者様のキャラをお借りした二次創作です。
ご本人様とは一切関係ございません。
・作品内に登場するすべては誹謗中傷/政治的プロパガンダの目的で作られたものではありません。
・R15(微エロ)のシーンがあります。
・若干の花子くん要素(作者が重度の花子くんファン)
・
・公共機関では読まないようにご配慮下さい。
・あくまで一つの読み物としての世界観をお楽しみください。
・作品/注意書きを読んだ上での内容や解釈違いなどといった誹謗中傷は受け付けません。
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u t 視点
『ロボロが失踪した』
その一言だけで何かが壊れた音がした。
きっかけはどうとか、何とか、覚えてはいない。
ただ、僕の脳裏に浮かんだは探さなくちゃって思いだけだった。
ロボロとは会って数年の仲だが、いつもこのシーンとした音のない空間では隣に居るだけで心強い人。
僕がハッキングするにあたりガバった時だって、アイツは「しゃぁねえな」って言ってくれる。
心が無いとか比喩される彼だが、気を許した相手には甘く、優しい。
そんな彼のために時間を割きパソコンやらハッキングやらを用いて居場所を調べてからはや一ヶ月。
遂にとある目撃情報を見付ける。
その情報を元にしてゾム、コネシマ、僕でその場所へと向かった。
今から、とんでもない物語が始まるんだと何処からかそんな予感がした。
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u t 視点
阿雨山村。
足を踏み込むは雨が降り続く村。
辺り一面快晴と言うが相応しい青空が続くに、その村へと一歩身体を入れた瞬間、たちまち透明と言う雫が天から落ちる。
西暦◼️◼️◼️年からずっと降り続くんだそう。
その村では、農作物が今年も豊作でありますように、とか健康願主とか、その他諸々を叶えてもらうば神に召し物を捧げればその願いはたちまち叶うだろう、と唱えられていたんだだって。
その召し物が少女だったのだ。
齢十四になる女を供物として捧げる……されば必ず良うものとする。
その供物として捧げられる少女の事を” 御饗”と呼ばるらしい。
その捧げられた少女の数は、およそ数十人以上。
もしかすると正確に数えていないのか百人にも及ぶのかもしれない。
ザッ、ザッ
三人の足音が止まる。
「ここが……阿雨山村……」
「い、行くか……」
「せーの」
ポチャン。
水たまりに足が入る感覚。
そこに広がるは、雨がザーザーと降り続き辺りは血と古びた骨が忽然と置かれていた。
血が流れ、水たまりへと入り、その水が赤に染まり、たちまちドス黒い赤へと変貌を成す。
「ここ……」
そう僕が状況を把握する為に発した言葉の後に、一つ声が重なる。
「あら?誰か来たのかしら」
透明な女物の声がする。
コツッコツッ、と草履の音を鳴らしながらこちらへと近づいてくる。
「何もんや」
「私はねぇ、ただの村人ですわ」
「それより、何か御用がありまして?」
その女は琥珀色の羽織に、黄色の赤い小さな花の柄が刺繍された着物を着ていた。
その格好に傘を差しており、その傘は黄色と白がグラデーションになっていて、先の方には薄い蝶を模した模様を宿す。
髪は長く腰まであり、髪色は甘栗の様な色。
そんな色に二つ三つ編みをしており、目の色は羽織と同じ琥珀で目にはハイライトが無い。
顔はすごく整っていて、そこら辺の女優を軽く凌駕するだろう。
唇には紅のリップが塗られており控えめな色気をさらけ出し、その首筋は恐ろしく細く、白い。
それに、手には白のレースが付けられた手袋をしている。
何処か儚げなと言うか、神秘的な姿があるともここに記しておこう。
「…………先に応えろ」
「お前は何者や」
「あら、先程も言ったでしょう?」
「私はただの村人だと」
ゾム、シッマがそれぞれ専用の武器を構える。
かく言う僕も懐に拳銃を添えている。
「ただの村人な訳ないやんけ」
「ここは◼️◼️◼️年前に廃村しとる」
「それをきっかけにこの雨も止んでないってな」
「私も知りませんわよ?」
「気づいたらここにいたんですもの」
「私も好きでここに居る訳ではないですし」
「それに、私にはとある人を待っていますので」
「ホンマか?」
「ホントですわよ?」
「私だってこんなに辛気臭いところごめんですわ」
「…………ですが、ここに居ないとあの方とももう一度会う事が出来ませんもの」
「…………そう」
多分、嘘は言っていないだろう。
彼女が話している間視線が地面へと向き、悲しそうな、辛そうな、そんな表情を浮かべたから。
伊達に”詐欺師”と謳われた僕がそんな嘘、見抜けない訳がない。
まあその後は後輩君にその異名を盗られちゃったけど……。
たまにマンちゃんの代わりに外交へも運ぶし。
僕が一つ首を振ると、コネシマ、ゾムは武器を下ろし警戒の手を緩める。
「わかって貰えたようで嬉しいですわ」
「で?なんで君はここにおるの?」
「さっき”待ってる人がおる”って言ってたけど」
「僕らも人を探しにこの村へ来たんよね」
「なにか知ってる事があったら教えて欲しい」
「承知しました」
「それで、なんですの?その探し人さんは」
「これやねんけど……」
拳銃を添えたスーツの内ポケットからロボロって事がわかりやすい写真を一つ見せる。
「あら!なんですの?これ!」
「綺麗に人が写っておりますわ……」
「え、これ”写真”って言うんやけど……」
「知らんの?」
「知りませんわ」
「へぇ〜現在にはこのような魔法みたいな紙がありますのね……」
「…………ん?”現在”?」
今の年を現在と表記するのはおかしいだろう。
普通なら”現在”ではなく”現代”(もしくは今の時代)と言う。
「んん?今何年でございますの?」
「西暦◼️◼️◼️◼️年やけど……」
「もうそんなに時間が経ちましたのね……」
「あの方を待ち続けて◼️◼️◼️年……」
「え、?」
「……いや、◼️◼️◼️年はおかしいやろ」
「そんな経っとったら人間は死んどるやん」
「君何歳なん?」
「ふふふ、女性に年齢を訊ねるのは不躾ですわよ?」
「…………そう」
教える気は無いって事か。まさか◼️◼️◼️年も待ち続けているとは。
一体コイツは何者なのだろうか。
まぁ、ただ一つ言える事と言えば、人間ではないという事だろう。
「で?この写真に写っている人物に見覚えは?」
「見覚えもなにも、私はその方をずっと待っていますのよ?」
「はぁ?」
「嘘こけや」
「コイツは人間やぞ」
「そんな昔からおる訳がない」
「はい?あなた方こそ何をおっしゃっていますの?」
「この方は人間ではありませんわ」
「古くから私の家系に使える”鬼”ですわよ」
「いや、そんな訳……」
”鬼”
その一言を聞き、人々は何を思い浮かべるだろうか。
ある人は呪鬼、またある人は人喰い鬼を連想するだろう。
この世界では”鬼”と聞けば人喰い鬼を連想させる。
はるか昔、鬼はたくさん存在していた。
その大昔、人間を襲い、貪り喰い、骨すら残らぬよう食荒らす化け物だと恐れられていたのだ。
その鬼とは人間とは違い寿命が長く、その生きられる刻限は永遠に近いと言う。
鬼は並外れた身体能力に、鋭い爪、大きい牙、強い筋力、その他諸々をその身に宿す。
それから百数十年とその時を鬼がその時代を支配してきた。
そして、その時代に終止符を打ったのが”源頼光”であった。
源頼光が鬼を退治し始めた辺りから鬼は絶滅へと追いやられ、今ではもう居ない存在とされている。
そんな伝説が今もなお他の地方や国でもその伝承が語り継がれており、それは昔の幻想としてこの歴史に残り続けていた。
「そんな歴史から消えた存在が今も居るわけが…………」
「なにを言っておりますの?」
「鬼は確かに存在しますわよ?」
「まぁ、今ではとても少なく居ても一体か二体くらいしかいないでしょうけど」
「え………?」
そんな話の困惑を出す沈黙と共に、未だずっと雨が降り続けている。
そう、ずっと。
その雨は止む道は無く、ただ無心に無慈悲に僕たちの体温を蝕む様に奪っていく。
風も吹き、更に雨は留まることを知らない。
雨が降り続く中、彼女の方が先に沈黙を破った。
「あらあら、お話はここまででしてよ」
「雨が更に強くなりそうですもの」
「では、ごきげんよう」
「あ!?ちょっ待て!」
その麗しい女性はこの雨が強くなると一緒に姿を眩ませた。
その姿は幽霊を突沸とさせ、音もなく消え去る。
見えていないのに存在する……そんな幽霊さんのように。
「どっか行ってもうたな」
「せやね」
「どうする?」
「あの女が言うには”雨が強なったから帰る”て……」
「って事は雨が弱まったらもっかい来るんとちゃう?」
「そうかもな」
「なら、俺たちはこの村の探索を………」
刹那、桃色に光る世にも奇妙な美しい光が見えた。
その光は、鏡が光を反射するようなその光を全て飲み込んでしまうような……
そんな光。
その光は、僕らがよく知る彼の瞳に酷似していた。
「っっっロボロ!!!」
紙がかさばって落ちるような草履をする音。
大急ぎで走り、その人物の腕を掴む。
くるっ、と歯車が逆回転するようにゆっくりと振り向く。
「うつ、せんせい………?」
顔にはいつも着けている”天”と書かれた布面をつけておらず、顔が少しやつれていた。
彼の着ている深い橙色の着物は汚れ、口からは小さめの牙を生やしている。
着物越しに触れる彼はとても冷えきっており、目にはハイライトが無い。
先に話したあの麗しい彼女と似た光の無い瞳。
「どしたん……?ロボロ……?」
「鬱先生には関係ないやろ」
「関係あるっ!!」
「お前を探しにここまで来たんやぞこっちは……!」
「ごめん鬱先生、俺にはやらなアカン事がある」
「…………それってさ、あの琥珀色の瞳をした女の事か?」
俺たちが喋っている合間にコネシマが入る。
「シャオの事を見たんか!?どこや!どこにおった!!?!?」
「……お前、あの女の事知っとるんやな」
「っ…………」
「……おん、知っとるよ」
「アイツとはどういう関係なんや?」
「シャオとは……」
「俺がずっと一緒に居たいと思う存在、かな」
「でもその夢は叶うことがなかった」
「なんで?」
「シャオはこの村の為に生贄てして捧げられた」
「でも俺は止められなかった、いや……止めなかった」
「昔になにがあったんやアイツと」
「せやなぁ……」
「あん時は空が綺麗で、快晴だった」
ロボロは慈しむように彼女との思い出を話し出した。
そんな彼の横顔は、嬉しさと悲しさと後悔と、ぐちゃぐちゃ巡る複雑な感情を浮かべていた。
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r b r 視点
現在、西暦◼️◼️◼️年。
◼️月◼️日。
その日は、雲が一つもなく綺麗な冬空となった寒い冬の日だった。
ここ数ヶ月、雨が全然降らない。
地球温暖化のせいもあってなのか、はたまた地球変動のせいか、この地域では雨雲が上手く生成されないみたいだ。
当然の様に雨が降らないせいで農作物は育てられないため、農作物が枯れてしまいこの村では食糧不足の危機へと陥っていた。
だが、不幸中の幸いかこの村は元々食料が多く蓄えていたので、なんとか生命線を繋いでいる状態である。
もう食料が尽きそうだ。では、この村にのみ存在する”とある儀式”を行いこの状況を抜け出そうと村の者は目論見た。
そのとある儀式とは読者の皆さんご存知の”生贄を神聖なる神へと捧げる儀式”のことである。
齢十四になる女を供物として神へと捧げるのだ。
神は我々この高貴なる人類の願いを、供物と共に添えることによってその願いは叶えられると。
そうとち狂った宗教的思考が根強く次世代へと紡がれていったせいか今やこの村は百数十年と絶えることなく続いている。
その齢十四になるまで女を育てるのが俺の役目。
昔、俺と同じ同族は源頼光によってほとんどが討ち取られた。
だが、俺はソイツに何故か気に入られてしまい今では”代々生贄を生み出してきた家系の召使い?”といった役職に着いている。
その役職は儀式へと捧げる少女たちを年齢が十四になるまで育てること。
年齢が十四間近になると『死にたくない』、『どうして私が死ななければならないんだ』、と逃げ出そうとする。
そうやって逃げ出そうとする女達を監視する役職かな。
一つ逃げ出せば両足を折り、二つ逃げ出せば両の目玉をほじくり抉る。
最後に供物として捧げられる衣装……まぁ今で言う巫女装束みたいな感じの服を着せられ、崖の上から突き落とされる。
崖の下は断崖絶壁で、大きい湖のような水溜まりが出来たその場所へと後ろから突き落とされ殺されるのだ。
その崖の手前にある鳥居を潜り身体を清めてからな。
それで、今回俺が見る”御饗”はこの女だった。
「どうも、この度はお世話になります咷・小龍と申します。」
行儀正しく正座をし綺麗に座礼をする。
華奢な身体つきをしており、その体は恐ろしい程に細い。
軽く握れば折れてしまいそうである。
その手には白のレースが付けられた手袋をしている。
髪色は甘い栗色の髪で、髪型は緩く結われた二つの三つ編みだ。
輪郭が丸く、目はクリクリとしており大きい。
宝石がその目からこぼれ落ちそうな程である。
前髪はぱっつんに整えられており清潔感が溢れている。
「くっふふ!これからよろしくお願いしますわ!」
「おん、よろしくね」
「一応言うておくけど、君が逃げ出せば俺は君の両足折らんといけんくなるから逃げんといてね」
「もちろんそのつもりはありませんわ」
「と、言いつつ逃げ出すんよね」
「むっ……なんですの!その言い草は!」
「もう!レディをそんなふうに扱うなんて酷いですわ!」
「……めんどくさいな…」
「めんどくさいってなんですの!?」
もうこれ以上は話す事などないと言いたげな雰囲気を出し、俺は天のお面を着けその場を後にした。
「ちょっと待ってくださいませー!」
それでも彼女は俺の背を追いカタカタと小走りに草履の音を軽快に鳴らす。
その時に香る甘い爽やかな香水の匂いが俺の鼻を擽らせた。
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r b r 視点
そんな彼女と出会ってから四年の月日が経った。
そして気づいたのだが、彼女はとてつもない料理下手だ。
米を炊こうとすると、白色の濁ったドロドロの何かが出来上がり、味噌汁を作ろうとすると何故か墨を入れたような真っ黒な汁物が出来上がる。(結局俺は三日寝込んだ。)
それからは俺が飯を作るようにしていた。
だが、本当に、本当に不可解なのが、彼女は料理以外の家事はとても上手だった。
洗濯をすれば綺麗な布へと見違えり、洗濯物を干せばシワ一つ無い真っ白な着物へ、掃除をさせれば埃一つ無き清潔な空間へと変化を遂げる。
料理スキルを母体の子宮にでも置いてきたのか?と言う程には。
更に付け加えると、彼女は思ったよりも強い。
何がって、そりゃあ精神面でも物理的にも。
ある日、俺が晩飯の獣を狩りから帰ってきた時だった。
どこからか言い争いの声が聞こえた。その声には聞き覚えがあったので、ちらりと壁から覗き見た。
すると、彼女は男の子から石を一つ投げられたのだ。
次の瞬間、彼女が物凄い勢いで右足のかかとを男の子の頭の上に落とし、地面へとめり込ませていた。
他にも数人男の子がいたのだが、いつも着けている白のレースの手袋を外し、右手で拳を作り顔面へと凹ませる。
他の男の子にはなんと、左足で股間の中心にある男の性器を思いっきり蹴り上げたのだ。
どれほど痛いのかは想像するだけで震える。
俺がそんな思考をしていると、彼女はそのまま男の子達の襟元を掴み、地面を引きづりながらどこかへ行く。
その後を追って見れば、彼女は男の子達を馬の糞を貯めておく倉(?)に突き落としたのだ。
「うふふ、どうです?」
「馬の糞と一緒になる気分は」
クスクスと彼女は悪女を思わす笑みを深め目をじっくりと細めた。
流石にこれ以上は可哀想だったので、俺が男の子達を助けに入った。
「……やりすぎちゃうか?」
「あら!ロボロ様!」
「今おかえりになされたの?」
俺が出てくるや否や、彼女は主人を見つけた子犬の様に俺の下へと駆けて来た。
その顔は、先程浮かべていたのとはほど遠い歳相応の無邪気な笑みであった。
「うん……でも、これはやりすぎちゃう?」
「……二回も言うことあります???」
「いやあるやろ……てかいっつもやりすぎんようになって言ってたやんな?」
「…………そんなの聞いてませんわ」
彼女はぷいっ、と顔を横に背けてしまう。まるでそんな事は本当に聞いてませんとでも言いたげに。
「こっちを見ろ」
「ん〜〜!」
ムニムニと彼女の頬を俺の両の手で掴み、こちらへと無理やり向かせる。
ちょっとは男の子らの気持ちも考えぇや……。
「いひゃいれす!」
「すまん」
「全く誠意が篭ってませんわ!」
「それよりこの子ら助けたり」
「可哀想」
「えぇ……こんな汚らしい物私触りたくありませんわ」
「君がやったやんな???」
「はい、そうですが?」
「……はぁ、しゃあないなぁ」
結局俺が折れてしまった。
・
・
・
・
本当に今日は散々な日だった。
あの後は長い丈夫な紐を持ってきて、しっかりと根を張った木に括り付け強めにし縛る。
そのまま紐を牛糞貯蓄の中へ放り込み男の子達を助けてやった。
めっちゃ泣いてた。汚いからこっちへ来ないでほしい。
「ほら、やり過ぎやで」
「謝ってき」
「?なぜ私が謝る必要が?」
「先に手を出したのはあちらの方でしてよ?」
「でも、ここまでやる必要なかったやんな?」
「ここん中放り込む必要なかったし、一発殴って終わりやろ……普通は」
「君力強いんやから一発で充分」
「でも……」
「やから、謝り」
「それでおあいこやんね」
「……そうですわね」
「少しやり過ぎたかも知れませんわ」
「ごめんなさいね」
「うっ、ぁ」
グズグズと糞塗れの着物を揺らし男の子達は零れる涙を手で拭っている。
鼻水が出ているせいか鼻が赤みを帯びている。
「許したってや?」
「この子も悪意はない……は言い過ぎやけど少なくとも悪気なかったんよ」
「うっ、ゔん……!」
そこに、カタッコトッ、と足早に草履の地を蹴る音がした。
「覡!誰よ!こんなに覡ちゃんが汚れて……!」
少し老けた女が、糞に塗れた男の子へと駆け寄り、背中を優しくさする。
「いくら御饗様だからって許される事ではないわ!!」
「このっ!」
すると、少し老けた顔の女は近くにある小石を手に取り彼女へと投げつけた。
その女と彼女の間に割り込み、小石を叩く。
「……君さ、当代の御饗に手ぇ出してタダで済むと思っとるん?」
「この村では御饗に手を出したらおも〜い罰が下される事くらい知っとるやんな?」
「その上でやるんやったら……」
コツッコツッ、と威圧を含む足音が鳴り響く。
この沈黙に包まれた空間にはよく聞こえる音であった。
その重い足音を地に鳴らし、女の元へと近づき、顔を覗き込む。
「俺は容赦せえへんで?」
そのまま俺は女の耳元にふぅ、と声と言う二酸化炭素を吹きかけた。
その音に女は気圧されたせいか顔を真っ青にし、悪役が吐いていくような言葉を紡いだ。
「っ、お、覚えてなさいよ!」
「こちらこそ」
にっこりとでも効果音が着きそうな薄っぺらい笑みを俺は浮かべ手を振った。
女は男の子の手を無理やり引っ張りどこかへ逃げ出していった。
「ふぅ、」
「ロボロ様っ!」
「ん?なに?どしっ……」
彼女が勢いよくこちらへ向かってきて、俺の体へと飛びついた。
その際に俺の腰へと腕を回す。
急に飛びつかれたせいでその勢いを殺しきれずドサッと後ろへと地面に倒れる。
その時に垣間見る彼女の細い華奢な腕が着物の隙間から視界をチラつかせた。
「ふふふっ!ありがとうございますっ!」
俺の腰へと押し付けていた顔を上げたその顔は柔らかい笑みを浮かべていた。
……。何故かはわからないが、俺の心が自然と何か暖かいものに満たされてくのを感じた。
「……ふ、別に」
華のような彼女の笑みが一瞬、驚きを出す様に目を少し見開いていたが、瞬きをする間に元に戻っていた。
「ってか、そろそろ離して貰えると助かるんやけど」
彼女は力が強いせいか腰が痛い。いや、一体どこからそんな力が出ているだろうかと考えてしまうほどに。
「あら、申し訳ないですわ」
「そう思うんやったら離して?」
「それは無理なお願いですわね」
「私はもう少し、このままが良いのです」
「だめ……でしょうか?」
キラキラ、と願望の眼差しで俺の顔を見上げる彼女。
そんな彼女の眼差しには俺は弱いんだが。わかっててそれをやるこの子は充分狡いと思う。
「はあ……しゃあないなぁ……」
「ふふっ、そう言ってくれると思いましたわ」
クスクス、と柔和な天使の微笑みを顔に貼る彼女には敵わないと思った。
もう少しこの時間を堪能してもバチは当たらないかなぁ、そう心の中で思考が過ぎった。
──────────────────
r b r 視点
更にその出来事が起きてから二年。
彼女は十四というもうすぐ生贄として捧げられる年齢になった。
今日は、その儀式が行われる前夜。
彼女はいつも通りの微笑を浮かべて淡々と眠る用意をしていた。
用意するその部屋では、部屋を明るく保つ為の蝋燭が静かに揺れ、畳の匂いが部屋を満たしている。
「……あのさ」
「んんっ?なんですの?ロボロ様」
ふと、疑問を口にしていた。
「君はさ死ぬの、怖ないん?」
「いっつも俺が見てた御饗はみんな”死ぬ”事が怖くて逃げ出すんに」
「なんでなん?」
「……?なんだと思えば、そんな事ですの」
「そんなこと……?」
彼女は布団をパンパンとシワを伸ばしながら会話を続ける。
俺から顔を背けているせいか表情が窺えない。
「もちろん、”死ぬ”事は怖いですわよ?」
「だって、この世からもう二度と同じ”生”を受ける事が出来なくなる事ですもの」
「なら……」
「でも、ロボロ様は私の事を愛してくださっているから大丈夫ですわ」
「……?僕は君の事全く好きちゃうよ?」
「ふふふっ、そうかしら?私はそう思いませんけれど」
「まあ、大切な物は喪ってから気付く、と言うやつですわ」
「それは、どういう……」
「んふふ、それは明日になったらわかることですわ」
布団のシワを伸ばす手を止め、こちらへ振り向いた彼女は、クスクスっ、と可笑しそうに笑っていた。
もうこれから先、その笑い顔を見れなくなると思うと、なにか俺にはわからない感情が心を蝕んだ。
「そうですねぇ……私のやって貰いたい事はありますけれど」
「やりたいこと?」
「俺にできる範囲やったら叶えたってもええけど」
「ロボロ様ならそう言ってくれると思ってましたわ」
「それで、やってもらいたいことなのですけど……」
「最後くらい、夫婦としての営みをやってみたいのです………」
いつも着けている白いレースの手袋を外した細い手で、照れくさそうに彼女は顔を隠しながらそう言った。
よくわからない加虐心?みたいな感情が俺を擽る。
そこに一つ、ドサッと布団の上に何かが落ちる音がした。
「へっ……?」
「なら、ほんまに君の事、襲ったろか」
「っっ〜〜〜〜!?」
彼女の顔が朱色で染まっており、凄く恥ずかしそうにしている。
「へっぁ、」
そのまま、かぶりつく様なキスをした。
彼女の下唇を思いっきり噛むと、血が垂れてきてそれに俺は嬉しさを覚えた。
舌をゆっくりとねじ込み、上顎を舌で撫で、舌と舌を絡み合わせる。
でも、このまま大人の俺が未成年に手を出すのは頂けないのでそこらで止めておいた。
「んっ、ふぁ、ぁっ」
「ふはっロボロ、さま………?」
「はい、これでおしまいね」
押し倒して彼女の上に俺が股がっていたのをどき、彼女の華奢な手首を掴み起こした。
少し不満げなのか彼女は口をへの字に変えていた。
「むぅ……」
「俺が君に手ぇ出したら俺が捕まってまうわ」
「ロボロ様のケチ」
「君さ、俺に捕まってこいと?」
「捕まったら私が助けてあげますわ」
「いや無理やろ……君はもう明日には死んでまうんやで?」
「えぇ、知っていますわ」
「ねぇ……ロボロ様?」
「なに?」
彼女が俺の首裏へと手を回し、抱きつく。
普通の人よりも温かい体温が心地よい。
「私は明日、捧げられるのでしょう?」
「おん、せやね?」
「ふふふふっ、ホントに正直ですわね」
「……でね?もし、私の事が記憶の隅にでもあるのなら……」
彼女が俺の耳元でなにかをか細く呟いた。
その声が、あらぬ方向へと足を向ける様にと呪いを掛けるように。
「私は貴方に泣いて欲しいですわ」
「え、俺に?」
「ええ、そうですよ?」
「ふふふ、逆にあなた以外誰がいると思うんですか?」
ケラケラと可笑しそうに彼女はお腹を抱え盛大に笑い出す。
この五月蝿い声も、今日で終わりだと思うと何処か寂しかった。
「貴方はずっとずっと、私に対して無表情で、なんの感情も抱いていないように見えてましたから……」
「せめて最後の最後に、あなたの顔が歪むところを見てみたくて」
彼女は、右手に手を当ててゆっくりと目をし、ゆるりと口端を上げた。
「……へー」
「あら、でも……」
「ロボロ様は……そうはならない自信がお在りなのでしょう?」
伏せられていた琥珀色の瞳を開け、口端を控えめに下げる。
「まぁ、せやね」
「なら、大丈夫ですわよ」
ふふふっ、と柔らかく彼女が微笑んだ。
その柔和な笑みは、そこらの男を簡単に落とせるだろうな。
彼女は顔だけは良いから。
「では、もうそろそろ寝ましょうか」
「もうこんな時間ですわ」
「……せやね」
「えぇ、おやすみなさいロボロ様」
彼女が蝋燭の日を消すと、手探りで布団を引き寄せ、微睡みの中に沈んだ。
丁度その時、俺の心は複雑などす黒い感情に沈み始めていた。
__________________________________
r b r 視点
翌日。
結局、彼女は儀式に臨んだ。
これから人が一人いなくなるのに、憎らしいくらいに晴れやかな青空日和であった。
彼女は、白色の着物に、白色の帯、髪飾りは白色の彼岸花を模したものを着用している。
いつも二つに分けて三つ編みを編んでいるが、今日は一つに束ね横に降ろしていた。
清めた水を一つ浴び、鳥居の中へと括りゆっくりと歩み進める。
ピタ、と止まると、目の前には青緑色に輝く美しい小さな湖が広がっている。
彼女は最後、後ろを振り向き右手を挙げこう一言残してこの世を去った。
「日次には、この世に生きるもの達の望むものがあの世なり降り注ぐだろう」
「だが、其の者があの世へと橋を渡る時よりも、遥か遠くまで降り注ぐ厄介者へと変化を遂げる」
「其の地獄から解放される度などこの先絶対になき」
「あると為さるのものならば、吾を解放した時となる」
「天の申し子が、やっと天災へと導きかしこみかしこみ申すことことなかれ」
そのまま強風に煽られ彼女は崖から落ち、湖へと落ちていった。
はらりはらりと彼女の髪を束ねる琥珀の紐が解け、彼女の艶やかな甘栗が空を舞う。
人が今、あの世へと向かっているのに、何処か神秘的なオーラまで放つ。
今までこの光景を何回も見てきたはずなのに、彼女の時だけ美しい、そう初めて思えた。
湖が、彼女が落ちたショックで、ドボンっ、と鈍い音が鳴る。
青空を映す鏡が、真っ赤な色に染まっていく。
この命を失いたくないな、そう喪ってから気付いたなんて、遅いな。
彼女の言っていた通りになるなんて、彼女は本当、俺のことをよくわかっていたんだと思い知らされる。
最期に遺した彼女の言葉を聞き、村人達は不審に思った。ただそれだけだった。
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更に翌日の朝。
村人達念願の雨が降った。
村人達は全員歓喜した。
これでやっと、この飢餓から解放されると。
でも、それは違った。
其の時から、ゆっくりと狂い歯車が動き出した。
その歯車はもう、誰にも止められない。
引き返す事は、もう出来ない。
__________________________________
「だれヵ助ケてェ」
この雨は、止むことを知らない。
彼女が死んだ其の時から、もう止まらない。
止まる事が出来ない。
そして、
鬼の子も、動き出す。
桃色より彼の着物が紅の液体へ、染まる。
染まる。
染まる。
染まる.
染まr
染m
s
染まった。
「あっはははハハはははハハHAHハハ」
村人達は、彼の手によって殺された。
村人たちによって、捧げられた者たちの怒りを買ったのだ。
更に彼女という大切な存在を奪った村人たちもまた、鬼の子の怒りを買った。
其の者たちの怒りを買った時点でもう死んだと同義であるのだ。
其れから◼️◼️年。
どこかでまた、新しい生命が誕生していた。
この村の跡地にて、桃色の着物を着た鬼の子が、漂い彷徨うその土地に。
現代で言う所詮、空を見上げる形で女の子座りをして、長く腰まである髪に甘栗色を揺らして。
ツー、と一粒の涙が頬を伝った。
「ろぼろ様……」
鬼の子の望む彼女の容姿に似た女が。
でも、髪は凄くボサボサであの艶やかな甘栗の髪色が傷んでいる。
この雲に塗れた空を眺めて。
「あめ……とてもよいものですわね……」
「このなみだも……このしずくがうばってくれるから……」
左手を自身の前へと出し、天からずっと降り注ぐその雫を掬う。
「ろぼロさま二あいタいデスわ」
狂った様に笑みを彼女は深めていた。
其の次、地獄が始まった。
──────────────────
r b r 視点
西暦◼️◼️◼️年。
俺が村人たちを殺してから◼️◼️年。
未だこの村には雨が降り続いている。
恐ろしいことに、俺が村人たちを殺したままの惨状をずっと保っている。
村人たちの遺体はもう白骨化しているが、血とか建物の状態とか、あの事件が起きた時のまんまになっていた。
作物とかの状態もそのまんまだったから、今も俺はこの村に住み続けている。
今日も今日とて生きていると、なにか懐かしい気配を感じた。
その気配をたどりに探っていると、俺が望む存在が目に入った。
髪はいつも通りの甘栗色で、緩く結われた二つ三つ編み。
そこら辺の女優を軽く凌駕する程に整った顔つき。
唇には赤っぽいオレンジ色の薄い口紅を着けていて、目はクリクリとしていた顔が丸い。
華奢な身体つきをしており、その体は恐ろしい程に細い。
軽く握れば折れてしまいそうである。
その手には黒のレースが付けられた手袋をしている。
くるり、と後ろを彼女は振り向いた。
「ろぼろ……さま…………?」
すぐさま俺を見つければ、酷く彼女が驚いていた。
俺は彼女の生きている姿をもう一度見れるだなんて夢にも思わなかった。
ポロリポロリと涙が出てくるのも気にせずに走る。
彼女の近くまでやってくると、その勢いのみ俺は彼女へと抱きついた。
「ロボロ様……ふふ、私の事なんてどうでもいいのかと思っておりました……」
「でも、ホントに……会いたかったですわ……」
その奇跡を噛み締める様に彼女は優しく俺の背中へと細い腕を回す。
「っ……せやね……」
「俺も……会いたかった……」
少し小さい彼女の背に左手を回し、右手で彼女の頭を撫でる。
もう離さないという意志を込めて。
「あの夜話した会話を覚えていらっしゃいますか……?」
「もちろんっ……!」
次々に溢れ出てくる塩っぽい何かが頬を伝い、顎からポタリと地面へ落ちる。
その雫を土が吸い、湿る。
「あの時に……”捕まったら私が助けてあげますわ”と言ったことを……」
「ゔんっ、言ってたね……」
涙で声が掠れる。
「こうやって……奇跡が起きているのです……」
「あ”んどきの言葉……信じとったら良かったなぁ……」
「ふふふ、」
あの天女の様な笑みを彼女は浮かべ抱き着く俺の胸から顔を上げ俺の顔を見た。
彼女も頬が濡れていた。
この雨の中で……。
雨の……中?
ふと何かに気が付くと、これは空を見上げた。
すると、雲が俺と彼女の周りだけ晴れていて、村の外ではいつも通りの雨が降っていた。
「ふふふっ、私たちが再会出来たのを天が喜んでいるみたいですわね」
心底嬉しそうに彼女は笑う。
その笑顔に釣られて、人生の中で初めてするかもしれない笑みをした。
「ロボロ様ったら、普段表情筋が無いのかしらと思うくらいの無表情なのだから、」
「笑うのが下手くそですわ」
ケラケラと心底可笑しそうに笑う彼女。
以前までは 鬱陶しいとまで感じていたのに、今だけは、心地好いくらいに感じた。
こんなにも凄い奇跡が起きて居たのに……
何故だろう?
俺は、これは違うという本能の警告を無視しているのは。
──────────────────
r b r 視点
それからというもの、彼女との二人での生活が始まった。
やっぱり彼女は料理が下手くそだった。
それでも、”生を実感できる”その喜びを感じたが為に彼女お手製のご飯を食べた。
また一日厠とお友達みたくなってしまったが。
誰にも邪魔はされないこの空間で、二人っきりの時間を過ごした。それは、言い表せないような幸福感に包まれていた。
一緒に歩いたり、一緒に寝たり、ご飯を食べたり、凄く充実した日々を送っていた。
とても不思議な事があるのだが、彼女といる時間だけは、彼女を中心とした村の周りでは雨が降っているのに、村の中では雨が降らない。
その事を彼女に聞くと、
「もしかしたら……私たちがこうして一緒に居ることを祝福しているのかもしれませんね」
いつも通りの笑みを浮かべてそう答えた。
何か底知れぬ恐怖を感じたのは俺だけなのだろうか。
・
・
・
あれから◼️年の月日が経つ。
とある日の冬空での出来事だった。
とある観光客の一人がこの村を訪ねてきたのだ。
とある一人の若い男だった。
大きな茶色いバッグに、くすんだ暗い青色の着物に、羽織は黒色を着ている。
腕は太く筋肉質である。
顔は可もなく不可もなく、まあ凡人の顔で、髪型は茶毛みたいな色の癖毛だった。
「ここになにか御用で?」
俺がそう要件を聞く。すると、、
「いやぁ、僕ね?色んな村をみて回ってるんですよ〜」
「それでね?ここらの地域ではとある日を境に雨が降り続いているとかなんとか……」
「その噂を確かめに来たんどすわ〜」
「なにか知ってることがありまったら聞かせてもろてもぇぇですか?」
とある日を境に……か。
それはもちろん彼女が死んだあの日から、だろうな。
だが、それを話す気は無い。
「すまんなぁ、俺はその事について知らへんわ」
「役に立てんくてすまへんな」
「本当になにも知らないんですか?」
鋭い視線で疑ってくるこの男。
好奇心は猫をも殺すという言葉を知らないのだろうか……?
「おう、せやで」
「なんも知らへんよ」
「……そうですか」
「では、他の村人に聞きますね」
「他の村人?」
一瞬、嘲笑を含めた笑いを飛ばす。
オウム返しに不審を思った男は俺に尋ねる。
「いないんですか?」
「あぁ、せやで?」
「俺以外みーんな死んでもうた」
「それは何故?」
「さぁ、なんでかわからんけど急にみんな死んでもうてん」
「理由はわからへんなぁ」
「あ、でもこんな事なら聞いた事があんで?」
「なんですか?」
「天の申し子がお怒りになられた、とか」
「天の申し子?それは一体……」
「さあなぁ、俺が言えるんはそこまでやな」
「ほな、もうかえ……」
「どなたですの?」
凛とした冷たい声。その男へ侮蔑の目を向けている。
そんな目線を向けられても、男は彼女を見るとポッ、と顔が赤くなった。
彼女は顔だけは良いから。
「ロボロ様、その方はどちら様でして?」
「あぁ、コイツはねぇ、」
「この村を調べに来たんやて」
「それでいまこの村の事について教えとった」
「ふーん……」
そこに左腕をとんとん、と小突く感覚がした。
男が右腕でちょいちょい、と手で招くと俺は男へと耳を近づけた。
そのまま、男は小声で俺に話しかける。
「他の村人さん居たじゃないですか!」
「しかも、こんな別嬪さん!」
「うへへ〜めっちゃ美人ですね!」
「……内緒話は嫌いです。」
彼女が右手をシュッ、と勢いよく手を振り降ろすと、後ろから大きい刀のようなものが男の体を貫いた。
その瞬間、男の胸からは赤い液体が飛びてて、前から臓器の破片が飛びてているようだった。
赤か黒いフニャフニャとした何かがそこら中に飛び散る。
男の前にいた俺の顔面や着物、草履にその破片と血が着いて、どうにもならない不快感が俺を襲う。
「っ、カハッ、」
「は、ぁ、はっ、」
よくその刀を見てみると、彼女がよく使う愛刀・紅桜の姿があった。
その刀がグリグリと男の背から臓器を押し、その度に血がぶしゃぶしゃと吹き出る。
肺か、心臓か、或いは両方か、確実にやられているであろう臓器のせいでハクハク、と餌を求める鯉のような口の動きをしてみせた。
「ぇ、」
そのか細い声にもならない掠れた息を吐いたのは誰だったか。
ここにいる血を吐く男か?否、それとも顔のいい御饗の女か?否。
呆然と立ちすくむ牙の生えた、顔に”天”と書かれた布面を付ける男か。
そうだ。いつもつけているその布出てきた面が男の血で染まり、はらりとつけている紐が解ける。
その布が落ちた先にあるは、驚きに目を見開き、ポカンと口を開けた表情をしている。
「ねぇ、ね、しゃっしゃお……?」
「なに、しとるん……?」
酷く悲しげな顔をした鬼の子は掠れた音しか出ない喉をから絞り出して声を這い出た。
「言ったでしょう?ロボロ様。」
「内緒話は嫌いだと。」
「もしロボロ様が私の事をお好きなのでしたら……」
コツコツ、とこの場にはあまり相応しくない軽快な草履の音を立てて俺の元へとやってくる。
目線が下へと腑いており、その顔は如何なものか、窺う事は出来ない。
俺の前へと立ち止まると、ゆっくりと顔を上げた。
その顔は、心底愉しそうに、愉快そうに、悠々と狂気まで感じる笑いを浮かべている。
「私とまだ、一緒にいてくれますわよね?」
右手を顔の元へ添え、耳元で悪魔のような囁きをする。
人を地獄へと誘う甘い蕩けるような声。
その声には何処か慣れていて、どれだけの人をそうさせたのか分かるような声色だった。
瞬間に気付く。
そう、この女は別人だと。
にぎにぎ、と手を黒のレースが着いた両の手で、噛み締めるように握った。
握られた手は、酷く冷たかった。
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確実なる違和感。
彼女は、どれだけ腹が立っても、馬鹿にされても、命を狙われても、決して人を殺すような人間ではなかった。
した事がなかった。
なのに、この日だけはただ”内緒話は嫌いだから”というちっぽけな理由で人を殺めた。
それがどれだけの出来事か皆さんお解りだろうか。
人として犯してはならない禁忌を犯したのである。
人としての禁忌を犯した御饗は、”村のためではなく”、”罪を償うために”自らの命を絶つのだ。
そうなれば、”御饗として”ではなく”人として”死ぬことに書き換えられたのだ。
──────────────────
r b r 視点
「……ここまでが今までに起こった出来ごと」
「あれから俺はシャオの身に何が起こったんか色々調べ尽くしたんや」
「結果、わかったことやねんけど……」
「あらあら、皆さんで何を話してらっしゃるの?」
ぶん、と振り向くと、俺は呆気に取られたような情けない顔をしてしまう。
鬱先生やコネシマ、ゾムはコイツ、気配が全く無かったがどうやって俺たちの背後を取ったのか、というふうに考えているようだった。
空を見上げて見ると、雨はまだ振り続けている。
「んふふふ、こんなにも晴れて良いお天気ですのに、コソコソなにをしているのかしら……?」
「私、内緒話は嫌いですの」
「なので、死んでくださらない?」
彼女は、黒のレースの手袋を脱ぎ、片手で着物の袖を抑えながら、思い切り上から下に腕を振り下ろした。
上から彼女の愛刀が飛んできて、俺はすかさず避けて拳を振るおうとする。
が、その前にゾムが先に彼女の元へ行き、ナイフを振りかざす。
彼女に確実に当たった、と思わせたが、彼女の身体が透けてナイフが当たらない。
彼女は、細長く白い脚をゾムの腹に蹴りを入れた。
ゾムからの攻撃は当たらなかったのに彼女からの攻撃は当たったこれはどういうことなのだ、という風に彼は俺に視線を配る。
「ゾム、コネシマ、鬱先生!一旦ここは逃げるで!!俺はともかく、お前らの攻撃はシャオには当たらん!!」
そう呼びかけた三人は、困惑しながらも俺の言う通りに撤退の体制を取る。
私が逃がすとお思いで?、と彼女は嘲笑い、刀を振り下ろす。
ああ、こんなにも意地の汚い笑いを彼女はする人ではなかったのに。
どうしてこんな事になってしまったのか。
「んふふっ、ちょこまかとお逃げになるのがお上手ですのね?」
「まるで、猫に睨まれたネズミの様ですわ」
手で口を隠し笑いながら刀を振り回し、このままでは追いつかれる、そう思い俺は拳銃を打った。
ドーン、と振動が震える。
彼女の右肩に当たり、ブシュッ、と血が吹き出て彼女の手から刀が落ちた。
そのまま体勢を崩し、彼女は土の上に座り込み、恨めしそうにこちらを睨んでいた。
その隙に俺はゾムの腕を引っ張り、全速力で駆け抜ける。
「私から逃げられると思わないでくださいね……?」
そんな声は聞かなかった事にして、村を出て森を走る。
村を囲むようにしてできたこの森は、長いこと続いていたらしい。
深緑の葉っぱが、キラキラと雨粒に光が当たり、輝いている。
光に包まれた美しい森として評判があった。
まあ最も、今、鑑賞に浸る余裕は全くないが。
森の再奥地、彼女が死んでしまった崖の手前にある洞窟のような場所にたどり着く。
まだ幼かった彼女が、俺に遊んで遊んでとせがんだ時に、偶然遊び場として見つけた場所だ。
この場所は、俺にとって一番趣深い場所でもある。
その洞窟の中に入り、ちょっとした椅子のような岩に座ると、彼らは俺に質問を被せた。
「なんでロボロの攻撃は当たったん?」
至極真っ当な質問。
「まずは、俺らのおる場所から説明せなアカン」
「場所?」
「そう、俺らのおる場所は阿雨山村、やけど、本物の阿雨山村やない」
「どういうことかというと、この世界はシャオの作り出した幻の世界で、俺らはそん中の住人なん」
「意味わからんやろ?」
「つまり、今俺らが見てる世界は幻で、現実では俺らは雨ん中気絶してるみたいな感じ」
「夢ん中、ってこと」
「さっき晴れてたやろ?けど、実際には一切晴れてなくて、なんならザーザー降り続けてる」
「雨は絶対に止むことはない」
「じゃあなんでその事に気付いたか?」
俺はひとつ息を飲む。
そして息を吐き、もう一度酸素を取り込んで、声を出す。
「俺はこの村から逃げられたから」
「シャオの作り出したこの幻も、ずっと続くわけやない」
「いつかは終わりが来る」
「その終わりが、この村から出ること」
「この村の範囲しか幻は作れない」
「村から出たら現実に戻る」
「現実の方で村に入った瞬間に幻の世界に飛ばされる、そんで村の外に知らん間に弾かれんねん」
「今おるとこもまだ村の範囲ではある」
「この先にある断崖の真下にある湖を超えた先までが村の範囲やねん」
「なるほど?」
「でも、まだここは村の範囲なんやろ?それと俺らの攻撃が効かへんのはなにが関係あるん?」
「せやな」
「まず、さっきも言うたけど、ここは幻の世界」
「村の範囲の中なら幻になる」
「そう、俺らがすること全部幻やねん」
「あっ!そういうことか」
「そう。しかも、これはシャオが作った幻、言い換えればシャオにとっての俺らは操り人形みたいなもんやねん」
「やから俺らの攻撃は効かんってことか……」
「俺らが見てんのは夢やねんから」
「それに、その夢はアイツ…シャオ?が作り出した夢っちゅーことでもある」
なるほどなるほどふむふむ……とゾムは顎に手を当て考えている。
某石像の様なポーズ(立っている)で。
コネシマ、大先生はすぐさま理解したようで、気になっていた事について質問した。
「あれさ、ここが偽モンの世界やったとして、なんでロボロはアイツに攻撃出来たん?」
「やってここはあの可愛ええ子が作り出した幻で、自分にとって都合のええようにできるハズなんやろ?」
「それはな、ある一定の期間が過ぎるとシャオの操ってる幻がだんだんと現実と混じって最終的に現実になんねん」
「簡単に言えば、この幻の世界に居すぎると、現実になる、っていう意味やな」
「俺は長くこの幻の世界におったから現実に戻れてん」
「ふーん……この幻から抜け出すには、この世界に長くおる、もしくは村から逃げ切ること、この二つが条件やねんな?」
「せや。で、シャオの正体になるんやけど、正直に言うわ。シャオはもう死んどる」
「は?」
「シャオはこの村の御饗……まあ言うと生贄みたいなもんになって、最終的に村人らに殺されたん」
「この奥にある鳥居をくぐった湖に突き落とされて、な」
「でも、今まで御饗にされた少女たちはもっと生きたかった、恋をしてみたかった、そんな普通で当たり前の事すら叶わずに死んで行った。その怨念たちがシャオの身体に取り憑いたんやろうな……結果、表はシャオをしてるけど、シャオじゃない別のバケモンが産まれてしまった」
「ここまでは着いてけるな?」
「おん」
俺は大丈夫、というふうに大先生、コネシマはゆっくりと咀嚼するように頷く。
ゾムは頭から湯気が出ているようだったが、すまんが待っては居られないので先に進む。
「やから、怨念たちはシャオの身体を使って復讐をし始めた」
俺はゆっくりと目を伏せ、やがて目を開け、彼らの目を見る。
「この村は全く雨が降らんくてな、作物がよう育たんくて、雨を降らしてもらおうと神様に生贄を捧げ始めたんよ」
「最初のうちは生贄を捧げることで雨は降った。けど、そんな長くは続かんかった」
「そのうちだんだんと生贄を捧げても雨は降らんくて、なら、生贄の数を増やせばええ、っていうとち狂った発想になってん」
「でも、生贄を捧げれば雨が降る、っていうのはただの偶然やねんから、捧げても意味ないのにな」
「で、生贄を捧げすぎて村におる若い女がシャオ一人だけになってしまった」
「シャオとは何年か過ごしたあと、シャオは死んだ」
「シャオが死んだその翌日、何十年も降らなかった雨が降った」
「それも、えっぐいくらいの豪雨でな」
そう言うと、彼らは驚いた反応を見せた。
「でなぁ、そのあと俺はシャオが死んだショックで暫くの間動けんかった」
「でな、思ってん。シャオが死んだのは村人らのせいやって」
「やから、シャオを生贄に指名した村人の偉いさんらを殺し回ったんよ」
「その事もあってか村人らは半分にまで減った」
「でその後は色んなとこ回ってたんよ」
「いろんなとこ回って彷徨ってた間、ずっと雨は降ってたんやけど、シャオに会った瞬間、晴れてん」
「今思えば、あの瞬間にシャオの幻に引き込まれたんやなって思うわ」
「雨はシャオが死んでから、晴れる事はなかった」
俺はここで息を止め、ゆっくりと吸い、吐く。
「村が滅んだのは、俺が半分村人さんら減らしたのもあるけど、大体は雨が降ったせいやねん」
「シャオが死んでからずっと雨が降って、一回も止むことがなかったから農作物が腐ってもうてな、飢餓で全員死んだわ」
「ずっと望んでた恵みの雨に殺されるなんて、皮肉なもんやけどな」
「話は戻るけど、俺はシャオに取り憑いた怨念たちが復讐として村人たちの望んだ雨で殺してやろうって思ったからシャオが死んでから一度も晴れんかったんちゃうか、って考えとる」
「やけど、今までされた仕打ちに、これだけの復讐では怨念らはまだ恨みを晴らせんかった」
「やから、怨念らは村が滅んだ謎を餌にして記者や研究者たちを殺しまくった」
「それで恨みが晴れたら良かったんやけど……そうそう晴らせんかった」
俺は空を見上げる。
灰色の暗い雲が、この廃れた村に恵みの雨を降らせている。
雨が頬に当たって、冷たい。
「これが大体のあらましや」
「シャオに攻撃出来るんは俺だけ……やから、俺がシャオを仕留めたら、お前らは帰れる」
「……ええんか?」
「お前にとっては、めっちゃ大事なやつなんやろ?」
「せやで」
「でも、シャオは人を殺しすぎた」
「その罪は償わなアカン」
「これ以上罪を重ねる前に眠らせたるのも、ひとつの優しさやと思わんか?」
「せやけど……」と何か言いたそうにコネシマはしていたが、首を横に振り、シャオを具体的にどうやって仕留めるかを考え始めた。
大先生やゾムもなにか言いたそうだったが、お前がいいんなら、と言うふうな顔をして、話を進めた。
「シャオを殺すには、シャオが死んだ場所で眠らせなアカンねん」
「これも試したんやけど、俺がシャオを止めようとして刀で心臓を貫いたんやけど、何分か経ったら見る見るうちに再生していって復活してん」
「そこで考えてん」
「シャオが死んだ場所で怨念らに取り憑かれたんやったら、怨念らが死んだ場所で殺さな怨念らもシャオも死なんからちゃうんか、ってな」
「シャオはもう死んどるけど、死んだ身体を無理やり怨念らが動かしとる状態で、俺がシャオを刺した時、シャオの肉体はやられたけど、怨念らは死んでへんから復活した」
「あの可愛ええ子はロボロのさっきの話から聞いたとこによると、あの奥にある鳥居をくぐったところから突き落とせばええねんな?」
「せやな」
「でも、そう簡単にいけるわけないよな〜」
大先生は腕を組み直すと、ゾムは俺に視線を向け、口を開いた。
「あれさ、俺が囮なろか?」
「俺らん中で一番早いん多分俺やろ?」
「ええんか?」
「おう」
「俺を誰やと思っとんの?」
「味方最大の脅威やで?」
そこに、軽快な草履の音。
ゾムはいつもの不敵な笑みを浮かべて、ナイフをホルダーから抜き出した。
大先生は拳銃を懐から取り出し、コネシマは背負っていたダイヤの剣を取り出す。
「言ってたら、早速お出ましや」
「ふふふ、よくもやってくれましたわね?」
「やられた分のお返しはしっかりと返して差し上げますわ♡」
「こんなべっぴんさんと喋れるんやったら嬉しいけどなぁ、今はお断り、やな!」
バン、と大先生は拳銃を撃ち、さり気なく鳥居の方に誘導する。
ゾムは鳥居の方に走り出す。
それに釣られてシャオも走り出す。
この中で一番戦闘に優れているゾムを見失うのはシャオにとってマズイと思ったからだろう。
俺はゾムについて行き、大先生は拳銃でバンバン撃ちまくり、コネシマはシャオが道から外れることのないようゾムの進む方向に誘導。
「もうそろそろ、追いかけっこは飽きましたわ」
「いつまで、私を追いかけさせるのかしら?」
シャオは持っていた刀を振りかぶり、ゾムの背中を狙う。
ゾムは素早く振り返りナイフで受け止めるが、勢いを殺しきれずに、数メートル吹き飛んで木にぶつかった。
だが、ここまで来れた。
「ゾム!!!」
コネシマが吼える。
「んふふ……ゆっくり、痛めつけて殺して差し上げますわ」
ゾムのおかげでここまで来れた。
あとは鳥居をくぐって崖に突き落とすだけ。
「シャオ!!!」
「お前はどんだけやれば気が済むんや!!」
唯一シャオに攻撃出来る俺が短刀でシャオに振りかぶる。
避けられたせいで、ブォンという風音が耳に届く。
「どれだけ?」
「さあ?どれだけでしょうね?」
シャオは刀で俺を斬ろうとするが、その瞬間に俺は足で手首を蹴り、刀を落とす。
シャオは驚いた顔をしてから、唇を噛む。
俺は短刀を投げ捨て、シャオに抱きつく。
華奢な細い身体。
未発達で背の低い彼女。
まだ小さな背中で、御饗としての使命を果たした。
と言っても、その使命は果たさなくても良い使命だったのだが。
「何をっ……!!!」
「ごめんな」
「ちゃんと寂しないように俺もそっちいったるから」
俺は崖の方に半ば引きずるようにしてシャオに抱きついたまま進んでいく。
このまま崖に突き落とされると思ったしゃおはより一層抵抗を強くした。
俺の首に巻きついていた両手を、片方離し片手で羽織に閉まっていた小さな刃物を取り出し、俺の背中に勢いよく振り下ろす。
生暖かい液体が服の中を伝い、背中が熱を帯びたように痛い。
背中を刺したにも関わらず、俺がまだ諦めるつもりはないとわかると、彼女はもう一度俺の背中に刺そうとした。
が、途中でピタリと止まった。
『ロボロ様をこれ以上傷付けたら、私が許さなくてよ!!!』
そんな幻聴が鼓膜に優しく震わす。
だが、その音色が聞こえた頃には、既に崖へと到着していた。
綺麗な底の見えない水色が広がる。
彼女は、この光景を死ぬ前に見たのか。
これだけ良い景色を死ぬ前に彼女と見れたのなら、未練は無い。
ゾムやコネシマ大先生に突き落とすと言ったが、端からそんなつもりはない。
彼女ほど人を殺していないとは言え、俺も少なくない数の村人を殺した。
罪は償わなければならない。
「貴方っ……!!!とっとと離しなさい!!!」
彼女は俺の頬を叩く。
叩かれた表情に紐が切れたのか、”天”と書かれた布面が地面に落ちる。
俺は彼女の顔を覗き込むと、いつも穏やかな笑みを浮かべる彼女とは似つかない険しい表情を見てやっと確信できた。
「やっぱり君は……いや、お前はシャオやない」
「偽物や」
そう言うと、目を見開く彼女。
そのまま、湖へと落ちた。
冷たい空気が頬を鋭く撫でていく。
彼女の髪を結ぶ紐が解けて長く絹のような髪がハラリハラリと舞う。
ドボン、と鈍い音がする直前、頭になにか暖かいものに包まれる感覚がした。
その感覚は、どこか懐かしいものだった。
──────────────────
多分まだ続く