テラーノベル
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それから、直哉が甚爾に金を貢ぐ関係は、奇妙な均衡を保ったまま数ヶ月が過ぎていた。連絡などない。甚爾が金を使い果たし、気が向いた時にだけ、直哉の前にふらりと現れる。場所はいつも、薄暗い歓楽街の路地裏や、安っぽいホテルの狭い一室だった。
「ほら、今月の分や。これだけあれば、しばらくは遊べるやろ」
直哉は、テーブルの上に厚みのある封筒を置いた。甚爾はそれを手に取ると、中身を確かめることもせず、ベッドの脇に無造作に投げ出す。
「毎度。お前も物好きだなぁ。こんな落ちこぼれに大金を叩いて、何が楽しいんだよ」
甚爾は煙草に火をつけ、気怠げに紫煙を吐き出した。その横顔は相変わらず端正で、そしてどこまでも冷酷だった。直哉はその隣に腰掛け、男の逞しい腕にそっと自分の手を重ねる。甚爾は拒みもしないが、受け入れもしない。ただ、そこに肉体が存在しているというだけの、冷ややかな沈黙が流れる。
「楽しいわけないやろ。……ただ、あんたが他の誰かの女に養われてると思うと、虫唾が走るだけや」
直哉の言葉に、甚爾はフッと低く笑った。「そりゃ光栄だね。けどな、直哉。勘違いすんなよ。俺はお前を抱いてるわけじゃない。ただ、金を抱いてるだけだ」
その言葉は、直哉の胸に鋭い刃のように突き刺さった。分かっていた。最初から、百も承知だった。どれだけ身体を重ねようとも、どれだけ生活を支えようとも、甚爾の心は一ミリも動いていない。甚爾にとって直哉は、便利な財布であり、退屈しのぎの玩具に過ぎないのだ。
「分かってるわ、そんなこと……。あんたに心を求めたら、こっちの身が持たんわ」
直哉は自嘲気味に微笑み、甚爾の胸に顔を埋めた。聞こえてくるのは、規則正しく力強い心音。しかし、その温かい鼓動の奥には、直哉がどれだけ手を伸ばしても決して届かない、絶対的な孤独の深淵が広がっている。甚爾の目は、いつも直哉の向こう側、自分には見えない「何か」を見つめているようだった。それは、かつて彼が愛し、そして失った誰かなのか。あるいは、自分を縛り付けるこの呪術界そのものへの、底知れない憎悪なのか。直哉には知る術もなかった。
「なぁ、甚爾くん。いつか、あんたが俺のことも、この金のことすらも、全部どうでもようなる日が来るんかな」
直哉の小さな呟きに、甚爾は答えない。ただ、煙草の煙が静かに天井へと昇り、消えていくだけだった。数日後、甚爾は再び姿を消した。今回はいつもより長い。直哉の携帯に連絡が来ることも、いつもの路地裏に姿を現すこともなかった。禪院家の庭のひまわりは、いつの間にかすべて枯れ落ち、黒く変色した首を地面に向けていた。夏が終わる。そして、直哉の胸には、もう二度とあの太陽が昇ることはないのだという、決定的な予感だけが冷たく横たわっていた。
コメント
1件
うわあああ、第3話もエモすぎて胸がギューってなったよ…!😭💔 直哉が「心を求めたら身が持たん」って自嘲しながらも、それでも甚爾のそばにい続けるの、切なすぎる…。金のための関係って分かってても、触れた体温とか鼓動が愛おしくなっちゃうの、分かる気がするよ。 最後の「もう二度とあの太陽が昇ることはない」っていう予感、めっちゃ重い…。ひまわりが枯れた描写と重なってもう、読んでてうるっときたよ。欲。さんの描く感情の機微、繊細で大好きです…!続きが待ちきれないよ〜〜😭🌸
#禪院甚爾
欲 。
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