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「お嬢様! お医者様がお越しに……!」
地下牢の入り口から、フレッドの声が響いた。
私はアレクへ視線を向ける。
「……その男は任せるわ」
「ああ」
私は石階段を一気に駆け上がった。
***
客室の扉を押し開ける。
天蓋付きのベッドの上には、リリアンヌ令嬢が横たわっていた。
その傍らにレオンとフローラが立ち尽くしている。
老医師は、脈を取り、瞳孔を確認し手を離した。そして、重々しく口を開いた。
「……『睡眠草』による中毒ですな」
「本来は鎮痛や不眠の緩和に用いられるものですが」
医師は眉をひそめた。
「意識障害を引き起こすほどの量となると……きわめて悪質ですな」
「ウィステリア領が原産の、有名な薬草だね……」
レオンがぽつりと呟いた。
私は彼に視線を向ける。
「……詳しいのね」
彼は一瞬だけ苦笑した。
「王族は、命を狙われるのが“日常”だからね……」
医師が下がると、フローラが枕元へ進み出た。令嬢の手を、そっと包み込む。
彼女の手のひらから、淡く柔らかな緑色の光が溢れ出した。
「お姉さま……私の治癒魔法では、毒そのものを消すことはできません……」
「でも、“生命の巡り”を早めることはできます。毒が体の外に抜けるのを、助けることなら……」
私は彼女の肩に手を置き、頷いた。
「……それで十分よ、フローラ」
***
執務室。窓から差し込む斜めの陽光が、机の上に長い影を落としている。
私は机の中央に映像魔石を置いた。
手をかざす。魔石が光り、映像が浮かび上がった。そこに映るのは――令嬢のカップに、粉末を忍び込ませる給仕の姿だった。
「……犯人は、レオンが王宮から手配してくれた給仕よ」
私は静かに告げた。
「つまり、この証拠を公に出せば――『王室が公爵家を害そうとした』という話になるわ」
レオンの表情が沈んだ。
「……そうだね」
(レオンの立場は確実に危うくなる……それに)
「それだけじゃないわ」
私は続けた。
「使われたのは私の実家、『ウィステリア領』の毒よ」
「ここアイリス領でそれが使われたとなれば、領主である私も、無関係ではいられない。……公爵家との決定的な争いの火種になるわね」
部屋の空気が、ピンと張り詰めた。
「……つまり」
レオンが苦しげに言った。
「このカードは使えないってことだね」
「ええ、そうよ」
私は頷き、わずかに口元を上げた。
「だからこれは――“武器”じゃなくて、“脅し”に使うのよ」
レオンが目を見開いた。
「……そう来るか」
私は視線をフレッドへ向けた。
「まもなく、招かれざる『お客様』がいらっしゃるわ。フレッド、応接室の準備を」
「かしこまりました」
フレッドは深々と一礼し、部屋を出ていく。
しばらくして、再び扉が開いた。
「お嬢様」
フレッドが告げた。
「おっしゃった通り……馬車が見えましたぞ」
(……やっぱりね)
私はゆっくりと立ち上がった。