20××年 ︎︎某日
︎︎一つの国で大規模な内戦が開始された。
︎︎古い考えを持つ帝国軍
新しい考えを持つ反政府軍
お互いがお互いを憎み合い殺し合った。
︎︎帝国軍は言う。
掟とは成り立ち守られてこそ平和が生まれるのだと。
︎︎反政府軍は言う。
掟ゆえにどれだけの人間が苦しんだのだと。
そんな言い争いをする大人達の話をどこか他人事のように聞いていた。
︎︎戦争をすれば傷つくのはお前たちじゃなくて国民だろうが。
そう呟いても、岩泉一の言葉に耳を貸す大人など一人もいない。
聞いてくれるのは、唯一の幼なじみである及川徹だけだった。
気づいた時にはもう両親は死んでいて、唯一そばに居てくれた幼なじみ。
︎︎内戦が行われる辺境の地で、2人手を繋いで支え合った。
徹は泣き虫だし、怖がりだし、俺が支えるべきだ。
そんな考えを持ちつつも、岩泉も及川のことを心の支えにして生きていた。
「はじめちゃんは強くて優しいから軍人になってたくさんの人を支えられるんだろうなぁ」
キラキラとした瞳で岩泉を見つめる及川はどこか寂しげだった。
「俺は血が怖いから軍人は無理かもしれない。」
「軍人は戦うだけが軍人じゃねぇよ、参謀、っているだろ?オマエ頭いいんだから参謀になれよ。」
「誰も俺の指示なんか聞いてくれないよ〜」
「俺がいるじゃねぇか。」
「はじめちゃん1人が聞いたって他の人が聞いてくれなきゃ意味ないじゃん」
「だから、俺が他の奴らまとめればいいんだろ?大将でも隊長でもなんでもなってやるよ。」
パチパチとその大きな目を輝かせながら驚く。
それは考えてなかった、と言いたげな瞳。
「なんだよ、俺じゃ無理だってか?」
「無理じゃないよ!はじめちゃんなら絶対できる!俺、参謀になってはじめちゃんと一緒に国を守るから!」
「おう、約束な!」
そんな約束を交わした時、俺たちは8歳だった。
たかがそんな子供の約束なんて、と誰もが思う。
だけど、岩泉も及川も本気だった。
この腐った時代を変えるべく、立ち上がろうと必死だった
そんな子供の本気を叶えられるほど戦争は甘くないのだと岩泉は身をもって知っていた。
林檎のような赤々とした徹の頬が真紅に染まる。
俺はその色を知っている。
人間の深い部分から出る血は、濃い。
「徹_」
人はいつか死ぬ
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「岩泉隊長!本部より司令!至急、特殊部隊前衛班は本部前衛部隊の補佐を務めろとのことです!」
無線機から流れる司令に舌打ちが出る。
なんたって今頃本部の前衛が出てくるんだ。
前線にいるのは俺たち特殊部隊だぞ。
後衛部隊はどうなる。
なんで言葉を吐いたってアイツら本部は聞きやしない。
所詮使い捨ての駒である特殊部隊のことなんか見えてないのだろう。
“補佐”なのではなく、本部の代わりを務めろと言われてるのはわかっていた。
「了解。後衛班、聞こえるか 」
「はい。聞こえています」
特殊部隊後衛班、隊長である赤葦が返事をする。
「前衛班は本部の補佐をする。スナイパーはクリアリングの後、自身の狙撃場所確保と後衛班の指導。くれぐれも敵に見つからないように言っておけ」
「了解。」
プツ、という音と共に無線が切れる。
「前衛班!直ちに帝国軍本部前衛部隊の補佐をする!後衛班が前に出たと同時に後ろへ回れ!」
そう指揮すれば動く前衛班。
︎︎岩泉のいる帝国軍は軍の中でふたつに分かれている。
澤村大地率いる帝国軍。
岩泉一率いる特殊部隊。
︎︎特殊部隊、とは名ばかり。反政府軍からすれば岩泉率いる特殊部隊はただの“傭兵”ということになっていた。
︎︎傭兵は本部が金で雇い入れた人間。
本部では無い故に捕まっても情報を一切持っていない、という先入観から反政府軍は特殊部隊を捕まえようとはしなかった。
︎︎だが、それは本部の作戦である。
特殊部隊は身寄りのない子供を引き入れ厳しい訓練をさせた後に本軍の代わりに戦争へと引っ張り出す。
敵国に捕まることもせず、死ぬまで駒として動かせる。
万一にも、本軍だと勘違いされ捕まったとすれば、それは特殊部隊員にとって死も当然だった。
「情報を明け渡す前に死ね」
それが本軍に言い渡される言葉。
ドッグタグすらつけることを許さないと言われた時にはさすがの岩泉も反抗した。
ドッグタグは身分を証明するためのもの。
ドッグタグすらもつけないというのは
死してなお野たれ死んでおけ、という言葉と同等だった。
︎︎岩泉同様、特殊部隊には身寄りの子供しかいない。
死んでも引き取ってくれる人間はいない。
だからドッグタグをつけても意味が無いと言われる意味はわかる。
だが、岩泉は死んだ仲間を放置するなど冷淡な人間では無い。
結局、今の本軍の大将、澤村が話のわかる人間でドッグタグの所持を認められたが。
特殊部隊を盾に安全なところで高みの見物をしているクソジジイどもの為にここまでする必要が、岩泉にはあった。
︎︎あの日、反政府軍の攻撃を受けて岩泉と及川の手は離れた。
及川は撃たれて倒れていた。
岩泉はそれを助けようとした時、大人に諦めろと言われ強制的に連れていかれた。
必死に及川を呼び、抵抗する岩泉を大人は殴って気絶された。
気づけば軍の特殊部隊の中。
身寄りがない岩泉はそこで訓練を受け続ける毎日。
岩泉は及川が生きて、軍に入るということを信じて疑わなかった。
24になった今でも、それを信じて待ち続けている。
「・・・さん!岩泉さん!」
ハッとして無線機に耳を傾ける。
赤葦が必死に叫んでいた。
「なんだ、赤葦」
「岩泉さん!反政府軍が、陸空特攻隊が来ています!後衛班じゃ持ちません!」
「はぁ!?」
陸空特攻隊。それは、岩泉達に入ってくる反政府軍の情報の中でも一番最悪な部隊。
“化け物”と恐れられてる木兎光太郎が率いる軍だった。
「赤葦さん!聞こえますか!」
そこに遠距離狙撃手である月島蛍の声が入ってくる。
「防衛線が張られています!今までと張り方が格段に違います!これじゃあ長距離戦はダメです!」
「なっ・・・!」
違う防衛線となると、指揮者が変わったのか。
今までの防衛線に慣れている月島達じゃ対処しきれない。
「松川ぁ!」
大声を出し、隊長補佐官である松川を呼び寄せる。
「今すぐ後衛班にいって月島の補佐と指示!定期連絡を無線でしろ!俺は今から木葉に本軍に行って前衛班を後衛班に着けるように頼んで来いって言うから。」
「分かった。」
そう言って走り出した松川を後目に、岩泉は木葉に連絡を取る。
「木葉、本軍に行って前衛班を後衛班に着けるように言え。それが無理なら本軍の前衛部隊連れてこいってな」
「あぁ!?アイツらが動くわけねぇだろ!今頃酒飲んでんぞ!」
「死にたくなきゃ動けっていえ!特攻部隊来てんだぞ!相手は木兎だ!その上に頭がキレるって噂の司令官がいるんだ!あの突っ切るしかねぇ木兎を動かしてんなら俺ら壊滅すんぞ!」
「あ”ーっ!わかったよ!!」
ブチ切れながらも話す岩泉を周りの隊員が窘める。
︎︎木兎光太郎は突っ走るタイプだ。
大佐という地位にいながら最前線を駆け巡る猛禽類。
作戦も何もかもめちゃくちゃなのに後についてくるヤツら。
そんな木兎に司令官が知恵を植え付けてここにこさせてるとしたら厄介この上ない。
本軍からの命令がでて、特殊部隊は最前線で特攻部隊を迎え撃つことになった。
︎︎死んでも捕まっても、本軍は俺たちをいなかったことにするだろうな。
なんて苦笑いがでる。
「木兎光太郎を囲い込め!あいつがほんまるだ!」
特殊部隊全体にそう告げる。
これが間違いだった。
「・・・っ!?」
特攻部隊を取り仕切っているのが、木兎光太郎じゃない。
誰だ、アレ。
木兎が最前に出てこない訳が無い。
じゃあ、どこに・・・
「岩泉さん!後ろから!後ろから木兎光太郎が来ています! 」
「おい岩泉!松川がっ!松川が寝返りやがった!」
「岩泉さん!防衛線張ってた奴らの人数が足りません!多分そっちの前衛に足された可能性が・・・っあ”!」
赤葦、木葉の叫び声。
月島が何かを言おうとして消えた。
予想外のことがありすぎてついていけない。
どうなってんだ。
反政府軍の司令官は何を指示した。
なんで、こうなっている 。
「日向!影山!本軍に応援要請しろ!」
このままじゃ潰れる・・・!
「もう遅いんじゃねぇの?」
ヒュッと息を飲んだ岩泉が、後ろを振り返ること無く。
ガッ!という音と共に岩泉の意識は無くなった。
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コメント
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待 っ て 待 て 待 て … ハ マ る ん だ が 。 一 緒 に 頑 張 ろ ~👍🏻