テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ファンタジー
芙月みひろ
94
設楽理沙
1,542
突然現れた彼のことを、私は知らなかった。けれど私は彼を知っているような感じがした。驚きのあまり、腰を抜かしてしまった。
「…大丈夫ですか?」
そう言って優しく微笑む彼は手を差し出してくれたけど、自力で立った。
「綾愛、知り合いなの?」
「ううん、知らない。けど、どこかで会ったことあるような…」
「とりあえず、今夜はうちに泊まってもらって、明日警察に連れて行ってみる」
それからお母さんは、晩御飯を作り始めた。私と姉の綾葉は彼に色々聞いてみたけど、やっぱり記憶がないみたい。
「ねぇ綾愛、この人って日本人なのかな?」
「私も思ってた。目とか髪とか、日本人ではないよね。すごく綺麗な色してる」
「けど、日本語は話せてるよね」
「ハーフなのかな?」
私が彼の顔を覗き込むと、彼は恥ずかしそうに慌てて顔を逸らす。彼の瞳に吸い込まれそうな気がする。青く、輝いたその瞳に。
「ほら、3人とも。ご飯だよ、食べなさい」
お母さんが私たちを微笑ましそうに見ていた。今日の晩御飯は、大きなハンバーグ。何となく、彼の様子を伺ってみると、彼はハンバーグをひと口食べた瞬間綺麗な瞳を更に輝かせた。
「どうしたの?」
「…僕、こんな美味しいもの初めて食べた。なんですか?この食べ物」
「ハンバーグよー?食べたことないの?」
夢中になってご飯を食べているその姿は、可愛らしかった。ご飯を食べた後、彼を単身赴任中の父の部屋に案内した。
「ここ、好きに使っていいからね」
「ありがとうございます」
「私は綾愛っていうの。よろしくね」
彼は頷いて、渡した父のパジャマを着ようとボロボロになった服を脱ぎ始めた。焦って部屋を出ようとしたけど、彼の身体に沢山の傷があることに気がついた。
「どうしたの?その傷」
「なんでもないです。覚えてないので」
苦しそうに、そう言って笑っている彼を見て何処か違和感を覚えた。深く聞くことはできない。
今日は早く寝よう。急いでお風呂を済ませて、布団に入った。泣いてしまったからか、すぐに眠ってしまったみたい。
響くアラーム音で目が覚める。急いで準備をして、キッチンへ行き、お弁当を作る。
「あれ?おはよう、綾愛。今日早いね?」
「ちょっと色々あってさ…」
「お弁当2つ?もしかして、彼氏?」
綾葉はニヤリと笑って、料理の邪魔をしてくる。否定をしても、彼女には通用しない。
「うるさいなー、違うから!」
作り終わったお弁当箱に封をし、いつもより重くなったランチバッグを持って、家を出た。曇った空は私の気持ちを沈ませたけど、学校に行くのはそこまで苦痛じゃなかった。
教室に入ると、昨日の件があったからか冷たい目で見られているけど気にしないことにする。
「おはよう、綾愛」
「茉唯、昨日は__」
「ごめん、綾愛。私全然綾愛のこと分かってなかった…」
そう言って、茉唯は大きな声で泣き出すものだから正直焦った。周りの目もあるし、茉唯をあの屋上に連れて行って、2人で話すことにした。
「私はずっと茉唯が羨ましかった。茉唯の隣にいていいのかなって、ずっと思ってたよ」
「周りが色々言ってるのには気づいてた。けど、何も出来なくてごめん…」
「ううん、いいの。茉唯は何も悪くないよ。これからも仲良くしてくれると嬉しい」
「もちろんだよ、親友だもん」
茉唯は嬉しそうにそう言って、私に抱きついてきた。やっぱり、私の親友は可愛い。少しだけ1人になりたかったから、先に教室に戻ってもらった。
屋上から見える曇った空が徐々に動いていて不思議で、面白い。
「よかった、ちゃんと私らしくいられてる」
「そうだね、ちゃんと言えててよかったわ」
「うん…え?」
振り返ると、蒼眞がいた。この人、存在感消すの本当にうまい。
「いや、急に屋上来るからさ、焦ったわ。仲直り出来てよかったね。それで、お弁当作ってきた?」
「作ってきたけど?」
「今日から一緒に食お。1人で食べんの、結構つまんないんだよね」
そう言って、蒼眞はボサボサの髪の毛を触っている。
「じゃー、昼休みここ集合な」
私は毎日昼休みに蒼眞とお弁当を食べることになった。茉唯には別の子と暫く食べると説明してある。
昼休みになった途端、私は屋上に駆け上がる。七夕祭が終わったら、屋上じゃないところで食べよう。
「…美味い。綾愛、天才だよ。こんな美味い弁当、滅多に出会えない」
「ほんと!ありがとう」
作りがいのある反応だなと思い、私は嬉しい気持ちになる。
「そういえば、短冊返してよ!」
「…ん?あぁ、短冊ね。願い事書き換えないならいいけど?」
「はー?別に書き換えたって私の自由でしょ?」
私は彼がポケットから出した、昨日よりもシワが綺麗になった短冊を奪う。
「じゃ、教室帰るね!」
どうして、昨日よりもシワが減ってるのかな?と思いつつ、私は短冊を眺める。願い事、どうしようかな。席につくと、また私の周りに茉唯と仲良い子たちが集まる。
「あんたさ、茉唯ちゃんに私たちが悪いように言った?」
「え?事実を言っただけだよ私は」
「いやいや、事実?大体昨日の願い事も意味わかんないし。お姫様とか意味わかんないって」
私の机に置いてある、まだ消していない願い事を指さして笑っている。そして私の短冊は、ふたつになってしまった。そう、破られたの。
「ちょっと、何してるの?!」
教室に戻った茉唯は、私の方へ走ってきてそう言う。
「茉唯ちゃん、この子お姫様とか書いてるんだよ?おかし__」
「やめなよ。ばかばかしい」
教室の後ろから聞こえた声で、クラスは静まり返る。振り返ると、学年上位の成績を取り続けている夏目くんだった。
「幼稚すぎない?善悪の区別もつかないの?」
秀才に言われたのが悔しいのか、唇を噛んでいる。何?この状況。凄い迷惑。
「高校生にもなって、陰湿なことして恥ずかしくないの?願い事、性格良くなりますように、にすれば?」
夏目くんがそう言うと、私の席には茉唯と夏目くんだけが残った。
「夏目くん、ありがとう」
「俺は、俺がしたいことをしただけ。大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。茉唯もありがとうね」
2つになった短冊は、悲しそうに見えた。願い事が叶わないって暗示しているみたい。まぁ、そりゃそうか。2つの短冊をゴミ箱に捨てた後、普通に授業を受けた。帰る時、私を今更気にしてる女子たちに話しかけられたけど、なんとか笑顔で交わした。
「羽野さん、良かったら一緒に帰らない?」
下駄箱まで走ってきたみたいで、少し息が切れてる夏目くんはそう言って私の隣を歩き出す。
「あんまり、まともに話したこと無かったよね」
「夏目くん頭良いから、私みたいな馬鹿人間が関わっていいのか…」
「いや、羽野さんは頭良いし優しい人だよ。人の為にわざと笑顔作ってるんだし」
「え…?」
まるで私を分かっているように話している。あまり関わったことないのに、少し驚いた。
「そういえば、最近昼休み教室にいないね」
「あー!実はね、仲良い人がいて、その人と食べてるの」
「それって、羽瀬川でしょ?」
「え、なんで知ってるの?」
夏目くんは急に立ち止まった。頭が良いから、私と世界が違うのだろうか。私には不思議な人に見える。
「羽瀬川とは関わるな」
「…え?」
「羽瀬川とはあんまり関わるな!!!羽野さんが、羽瀬川と仲良くしてもメリットなんてないよ」
声を荒らげる夏目くんに驚いた。周りは皆こっちを見ているし、恥ずかしい。
「ちょっと、夏目くん…!急に何?!」
私がそう言うと、夏目くんは私をコンクリートの壁に押し付ける。腕は掴まれて、その力は強くて痛い。
「…ねえ?ちょっと離してよ」
「…羽瀬川蒼眞は、俺が殺したんだよ」
その一言を聞いた途端、世界が凍った気がした。
私はその言葉の意味が分からないまま、家に帰った。殺したって、どういうこと?生きてるし、今日だって普通に話した。
「綾愛さん、おかえりなさい」
「ただいま」
綺麗な顔をしている謎の彼は私を出迎えてくれた。警察には連れていったものの、彼の身寄りが分からないため、見つかるまでは私たちの家で預かることになった。
「綾愛さん、あの、これ」
彼が持っていたのは、1冊の小さな本だった。開いてみると、”指切り姫”と書いてあった。
「え、なんでこれ…」
「分からないけど、僕はこれを綾愛さんにあげたいんです」
そう言って、彼は私の隣に座る。その時に感じた甘くて優しい匂いは、どこか嗅ぎ覚えのある香りだった。本を開いた時に、嗅いだあの匂い。
「君は、誰なんだろうね」
考えていたことが、咄嗟に口に出てしまった。すると、隣に座る彼はそっと微笑んで私にこう言ったの。
「綾愛さんの心に眠る人」
コメント
1件
うわあ、また一段と気になる展開になってきた…!短冊破られるシーンは胸が痛かったけど、夏目くんが助けてくれたと思ったらまさかの「♡♡♡た」発言!?それに蒼眞くんが生きてるってことは…何か事情がありそうだよね。あと、謎の彼の「綾愛さんの心に眠る人」ってセリフ、すごく詩的でドキッとしたよ。この物語、まだ3話なのにぐいぐい引き込まれる…続きが待ち遠しい!