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地球、北米大陸にある国連本部に加盟国の首脳達が集まり本部周辺は物々しい雰囲気に包まれていた。合衆国は軍まで動員して厳重な警備体制を敷き、さらに各国首脳陣が連れた大勢の護衛達が物々しさに拍車を掛けていた。
フロンティア彗星からティナ達が地球を去って一週間、主に合衆国外交部と異星人対策室の面々が強烈な胃痛、頭痛に耐えながら調整に奔走した成果がこの日示された。急遽開催された国際首脳会議は、加盟国の大半が無事に参加する運びとなったのだ。
ただ、ミサイル事件を引き起こした某国については後ろ楯である中華の圧力により参加は取り止めとなった。
と言うより、各国の強烈な圧力とティリス&アリアがメディア媒体をフルに利用した凄まじい報復により国内が大混乱。市民はもちろん政府幹部すら亡命するものが後を絶たず、国体の維持そのものが非常に困難になっており参加どころではなかった。
下手をすれば星間戦争の引き金にもなりかねなかった事態に、これまで手緩かった各国は某国に対して容赦をしなかった。
下手に手心を加えれば、あの軌道上からの絶望的な攻撃が自分達の頭上に落ちてくる可能性があると考えれば、それはある種正常な反応とも言えた。
ティナが異常に好意的なだけで相手は対話をする必要がないほどに格上の存在なのだ。それこそ片手間で一方的に地球を滅ぼせる力を持つことは、ミサイル事件とフロンティア彗星爆破で証明されてしまったのだから。
さて、今回の緊急国際首脳会議の主題はアードの為政者からのメッセージを共有するためである。地球の首長に宛てた内容と知らされた合衆国政府は、そのメッセージを自分達だけで受けるのは下策と判断。
メッセージの再生を世界中の首脳を集め、世界中に配信する形で行うことに決した。まあつまり、目に見えた地雷を独占せずにみんなで踏み抜こうと言う精神である。流石は合衆国、腹黒いとは何処かの国の首相の言葉だとか。
もっとも、彼女はティナと個人的な深い繋がりがあることが露見しているので別の意味で注目を集めているが。
大会議場にて各国首脳は円形に配置されたテーブル席に座り、その時を待っていた。
そして、現地時間11時。今回の会議の主催国である合衆国のハリソン大統領が席を立ち、居並ぶ首脳達を見渡しながら静かに口を開く。
「先ずはご多忙の中、急な召集にも関わらず今日の会議に参加してくださったことを心から感謝します。
さて、皆さんが多忙であることは重々承知しておりますので前置きは省略させていただきます。早速本題へ移りますが、この度の召集はあるメッセージの内容を各国で共有したいとの目的で為されました。送り主は、パトラウス政務局長殿。惑星アード政府の重鎮であり、地球で言えば大統領等の政府のトップと考えて良い地位の人物です」
ハリソンの宣言に場内はざわめいた。この件は直前まで厳重に秘匿されていたので、ただ一人を除いて皆が初耳の案件であるためだ。まして相手は異星人の政府首脳に値する人物。そんな大物からのメッセージとなれば首脳達が受けた衝撃もある種仕方の無いものである。
唯一平然としているのは日本の椎崎首相であり、彼女はティナから個人的に伝えられていたのだ。
まあティナ自身こんな大事になるとは考えていなかった為でもあるが。
「椎崎首相は御存知の様子、ご主人から伝えられていたのかな?」
そんな彼女を見て、中華の黄卓満主席が日米の関係を揶揄する皮肉を告げるが。
「まさか、合衆国はことの重要性をしっかりと認識されてメッセージの内容はまだ誰も見ていないと聞いていますわ」
「ほう、ではどうやって知ったのかな?」
椎崎首相の返答次第では日米の外交問題となり、そこへ付け入り異星人問題でリードしている両国へ圧力を掛けるため黄卓満は質問を続けた。
だが椎崎首相は皮肉を受け流し、笑みさえ浮かべて返答した。
「ティナちゃんから個人的に教えて貰っただけですわ。あの娘の名誉のために言っておきますが、これは贔屓などではありません。そもそも、こんな大事になるとは考えていなかったみたいですし」
「贔屓ではないと?それは不思議なことだ。アード首脳からのメッセージの内容を個人的に知らされる。はてさて、日本はどんな密約を結んだのかな?まさかとは思うが、自分達以外を売り渡すような約束でもしたのではないかね?」
黄卓満は敢えて大きな声を出して周囲の関心を集める。ハリソンは助け船を出そうとするが、ここで介入しては日米がアードと密約を結んでいるとあらぬ疑いを掛けられるのは明白。内心で椎崎首相に謝りながら事態を静観する。
注目を集めた椎崎首相は、特に臆すること無く笑顔のまま答えを口にした。まるで諭すように。
「黄卓満主席は、いえ。この場に居る大半の方がある勘違いをなさっていることが分かりましたわ」
「勘違いとな?」
「ええ、重大な勘違いです。ティナちゃんは、彼女はアードの外交官でもなければ政府関係者でも無いと言うことです」
「これは異なことを仰有るな。彼女こそ交流の最前線に立つ者ではないか」
「あの娘が最前線に立っているのは事実ですが、アード政府は地球にまるで関心を寄せていません。あくまでも彼女個人の願いでしかないのです。彼女はちょっと正義感が強い、何処にでも居る普通の女の子なのですよ。
今回のメッセージも国書と言うわけではなく、あくまでも政務局長の個人的な私信であると聞いています。そして彼女にとって政務局長は身内に当たる人で、言ってしまえば叔父からの個人的なメッセージを届けた程度の認識なのです」
「なんと!?」
「そんな馬鹿な!?」
椎崎首相の言葉に場のざわめきが増した。明らかに地球の常識ではあり得ない状態だからだ。
「他国との交流は先ず政府関係者や外交官が行い、そして民間へと繋げていく。それが地球の常識です。
ですがアードでは政府が地球に無関心の中、ティナちゃんが命懸けで交流の道を切り開こうと必死に頑張っている。それが現実です。だからこそ、幸運にも彼女と個人的な繋がりを持つ者としてお願いしたいのです。彼女に政治的な思惑を察する能力はありませんし、外交的な駆け引きを仕掛けてはいけません。彼女を利用しようとしてもいけません。ただ彼女を、あの娘のことを応援してあげて欲しいのです。それこそが、アードとの交流の近道なのですから」
椎崎首相の訴えは一部の為政者が認識を改める切っ掛けとなった。だが。
「ふん、そんなことを言ってアードから得られる利を独占するつもりなのだろう。その手には乗らんぞ」
地球と言う閉ざされた惑星内での外交しか知らぬ大半の為政者は懐疑的なままであった。