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出会ってから一日経ち、連絡は来なかった。
期待していたぶん、残念な気持ちが多かった。
「あった、これだ…」
次の日に 久々に埃まみれの物置を探って小学校の卒アルを見つけた。ぽんぽんと叩いて埃をとり、ページを開いて彼を探す。
見つめる、めくる、見つめる。
小学校の頃仲良かった友達、高校まで一緒だった子もいる。見つけた、轟焦凍という名前と紅白頭の少年の写真がそこにある。
本当に同級生だったんだという気持ちと彼がどうして私を覚えているのかという気持ちが交差している。私は全くと言っていいほど彼のことを覚えていない。
しばらく卒アルを見つめて思い出に浸っているとスマホの画面が点く。
連絡遅くなって悪い。時間があったら…
連絡アプリからの通知が少し腹立たしい、なぜ気になるところで文を切るんだ。
すぐに返事すると引かれるかも、と思って少し時間を空けてから返信しようとパスコードを打ってアプリを開く。
連絡遅くなって悪い。時間があったらメコダ喫茶店で話したい、返事待ってる
いきなりデートのお誘い?それとも思い出話か。少々轟さんの人への関わり方に不安を抱いたが返事を何度も書き直し、送信する。
時間あります。いつなら空いてますか?
敬語で返した、相手は小学校の頃の同級生だとしても有名プロヒーローで、敬わないといけないと自然に思った。これは癖だ。
良かった、俺は明日の夕方くらいならすぐ行ける。予定合うか?
「すぐ行ける」その言葉に少し引っかかりながら返信する。合いますと。
四日連続で振り続ける雪、ふかふかのカーペットのようなところもあれば硬く滑る氷の地面もあり危ないが私は好きだ。
暖かいマフラーの生地に鼻どころか目の辺りまで埋めてメコダ喫茶店前で轟さんを待つ。
普段愛用している手袋も今は効果が感じられないくらい、寒い。白い息が空を漂う。
ショーウィンドウの暖かい光が雪を照らす。
しばらくその雪を見ていると誰かがその雪を踏み、膝に手をつけ、荒い息を整えている。
「ミョウジ…! 」
目に映ったのは赤と白の髪がサラッと揺れて白い息が上へと上がっていく轟さんの姿だ、俯いていて顔は見えなかった。
「はぁ、はー…遠くの出張から、直で来たんだ、何分待たせちまったかな…わりぃ…。」
「轟さん、忙しかったんですね…すいません。」
「謝んないでくれ、俺が……はー…ミョウジに会いたくて、急いだだけだ。」
彼は息を切らしながらそう言って顔を上げた。
「寒かったよな、本当に…悪い。」
自然に私の手袋を外し私の両手を握る彼の左手。
片手で私の両手を包める、ということにもびっくりしたが今驚いているのは手を繋がれたことだ。何も言わず、自然に温めてくれた
「轟さん、あの、私寒くないですよ。平気です。」
見ればわかる嘘だと自分でもわかっている。耳は赤いし鼻も頬もほんのり赤い。手先は氷みたいで歯も少し震えていたかも。
「ミョウジが寒くなくても、体冷えてる。早く入ろう。」
轟さんの左手が暖かくてぎゅっと握ると少し目を見開いて口角を上げた彼。
「いっぱい、話してえ事あるんだ。」
そう言われて喫茶店に入った。
飲み物を注文して、轟さんを見つめる。
「メコダ喫茶店、暖かいですね。 」
「そうだな、…あと敬語使わなくていい。」
「あ、すいません」
思わず敬語で返すと轟さんは微笑んだ。
「久しぶりっつっても、同級生だろ。」
轟さんは左手を私の手に伸ばし掴んだ。
暖かい、轟さんは個性を調節して握ってくれている。
「ご、ごめん、やっぱ緊張して…。」
私はそう言って轟さんの手を離す。
「……はは、昔はミョウジの方から手握ってくれたにな。」
私が覚えていない思い出をほんのり笑顔で話し出す轟さん。
私は必死に思い出そうと眉をしかめて目をそらす。目の前にいる有名人、五日前まで興味がなかったのに。
「やっぱ俺の事…覚えてねえか。」
彼は少し眉を下げた悲しそうな顔で呟いた。