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私たちはエドワードさんに連れられて、クレントスの中心地にあるお屋敷に案内された。
道すがら、街の様子をよく見ることができたが――以前に比べると、やはり雰囲気がまるで違っていた。
ヴェルダクレス王国の批判やアルデンヌ伯爵の批判、あとは怪しげな宗教を説く人がやたらと目に付いた気がする。
私が滞在していたときよりも、何だか混沌としている……というか。
でも、それ以外にはあまり大きな違いは無いかな?
「――アイナさん!!」
お屋敷の広い部屋に通されると、凛とした女性の声が聞こえてきた。
……一瞬誰か分からなかったけど、声の主を見てみれば、それはアイーシャさんだった。
「アイーシャさん! お久し振りです!!」
私が挨拶を返すと、アイーシャさんは近くに駆け寄ってきて、私の手をぎゅっと握りしめた。
「ええ、お久し振りね! いつ来たの?」
「つい先ほどです。エドワードさんに街に入れてもらって、そのままお邪魔しました」
「そうだったのね! エドワード、ご苦労様。
……って、あら! アイナさんの騎士様も一緒じゃないの!!」
そう言うと、アイーシャさんは嬉しそうにルークに声を掛けた。
「アイーシャおばちゃん、久し振り! ……何か、若返った?」
「嫌ね、こんなお婆ちゃんを捕まえて!
……でも最近は調子が良いのよ。本当に若返ったのかしら♪」
実際、私が以前会ったときよりも背筋がびしっとしている気がする。
何だか本当に若返っているみたいだ……。
「――あ、先に紹介しておきますね。
こちらは私の仲間のエミリアさんです。危ないところをたくさん助けてもらったんですよ」
「初めまして、エミリア・リデル・エインズワースです。
アイーシャさんのことは、アイナさんからたくさん伺っています!」
「エミリアさん、よろしくお願いしますね。
私はアイーシャ・ルクス・アドリエンヌ。気軽にアイーシャって呼んでくださいな」
「はい! とても素敵な方で、お会いできて光栄です。
アイナさんが惚れこんでいるのも分かる気がします!」
「あらあら、アイナさんったらどんな話をしていたのかしら。
そうそう、私の仲間も紹介させて頂ける?」
そう言うとアイーシャさんは、彼女の後ろに控えていた三人に私を紹介してくれた。
「皆さん、こちらの方がアイナさんです。
『世界の声』で有名になってしまったけれど、とても凄い錬金術師なんですよ」
「初めまして、アイナ・バートランド・クリスティアです。
アイーシャさんには以前、とてもお世話になりました。どうぞ、よろしくお願いします」
私が自己紹介をすると、三人も続けて自己紹介をした。
「お噂はかねがね。
私は作戦立案、軍事参謀を担当しているオリヴァー・ニック・ヘイウッドです。
今は、この街の騎士たちもまとめて統括しております」
「私は街の中の問題を主に担当している、カトリナ・レーネ・フレーベルと申します。
……錬金術と光魔法は少しだけかじっていますが、アイナさんとエミリアさんの足元には及ばないと思いますわ」
「俺はフルヴィオ・グイド・セルラオだ。主に情報戦を担当している。
あまり暇ではないが、相談事があれば気軽に話し掛けてくれ」
「……とまぁ、とっても頼りになる方々なの。
王国軍と渡り合えているのは、この三人がいるからなのよ」
アイーシャさんがそうまとめると、三人は満更でもない表情を浮かべた。
私に仲間がいるように、アイーシャさんにも頼りになる仲間がいるのだ。
ちなみに私の仲間で当てはめると、そのままルーク、エミリアさん、ジェラード……といった感じになるのかな?
イメージがしやすいというか、何だかとても親近感が湧いてくる。
「ところでアイナさんたちは、私たちと一緒に戦ってくれるんですか?」
そう切り出したのは、騎士団長のような雰囲気を醸し出すオリヴァーさんだった。
エドワードさんから戦力が足りないと聞いていたけど……やはりここは、私たちの参戦を期待しているのだろう。
「はい、もちろんです。
戦力であれば、ルークがお役に立つと思いますよ」
「あら? そういえばルークも、ずいぶん逞しくなったわねぇ」
私の言葉に、アイーシャさんはルークをまじまじと眺めた。そして、しきりに感心している。
確かにクレントスを発つ前に比べれば、その成長は目を見張るものがあるからね。
「ルークは、英雄ディートヘルムと互角に渡り合ったんですよ。
だから、今回の戦いでも活躍してくれると思います」
「あの英雄ディートヘルムと……!?
……そうだ! そう言えばディートヘルムの神器、神剣カルタペズラは――」
「えぇっと……。
多分ご存知の通りで、彼を倒したときに消してしまいましたが……」
「……なんてこった。
幻聴かと思い込もうとしていましたが、やはり本当のことでしたか……」
オリヴァーさんはそう言うと、肩を落として深くため息をついた。
「……まずかったですかね?」
「いや……まぁ、複雑な気持ちではありますけど――
でもきっと、アイナさんにも理由があったのでしょう……?」
「あはは……。
その代わり――ということも無いのですが、私も1つは作りましたから」
私がそう言うと、ルークは空気を察して鞘から神剣アゼルラディアを引き抜いた。
「――神剣アゼルラディア。
これが私の作った神器です。今はルークに使ってもらっています」
「おぉ……!! 本当に神器を作ったんですか……。
あれも幻聴ではなかったんですね……!!」
「アイナさん。オリヴァーさんはね、子供のころから英雄に憧れていたの。
だから、自他共に認める神器マニアなのよ」
「マ、マニアというのはさすがに無いでしょう!?」
アイーシャさんの言葉に、オリヴァーさんは慌てふためいた。
しかしそう言わせしめるほど神器が好きなら、神剣カルタペズラが無くなってしまったのは、本当に残念に思っているのだろう。
「でも、残りの2つの神器が剣だから、まだ良いではありませんか。
まったく、1つくらいは杖であるべきだとは思いませんか? ねぇ、アイナさん」
そう言ったのは、聖職者と学者を足して2で割ったような服装のカトリナさんだった。
彼女は現存する神器の偏りに、どうやら不満があるようだ。
「あはは……。確かに剣ばっかりなんですよね。
……すいません、私も剣を作ってしまいました」
「前例に倣えば、そうなってしまいますよね。
それなら次は、杖なんていかがでしょう。神杖……世の中の聖職者や魔法使いたちにも、希望を見せてください」
「確かにそうですね。しっかり考えておきます!」
……仮に杖を作るとすれば、それはきっとエミリアさん用になるだろう。
私用でも良いんだけど、今はエミリアさんにパワーアップしてもらいたいというか――
どちらにしても、カトリナさんまではまわることはない。
……とりあえずそこは、ごめんなさいかな。
「しかし神剣カルタペズラを消したって聞いたときは、背筋がぞくっとしちまったぜ。
世界に3つしか無いものの1つが消えるだなんて……ああいや、今は1つ増えているのか。
……うーん? プラスマイナス、ゼロになるのか」
そう言ったのは、いかにも情報屋といった風貌のフルヴィオさんだった。
「はい、神器は結局3つのままですね。
……そういえば以前、クレントスを訪れた英雄シルヴェスターはどうしたんでしょう。
神剣デルトフィングを持っていたと思いますが――」
「シルヴェスターは今、……行方不明になっているな」
「……え?」
「以前、クレントスを訪れてから……そのあと、この街を出てそれっきりなんだ。
近くの街や村で情報収集もしたが、目撃情報は無し……だな」
「行方不明って……。
……そもそも何でクレントスに来たんでしょうね?」
ぶっちゃけ、クレントスは辺境だ。
まぁ『辺境都市』って公称しちゃってるから、辺境と言っても悪口にはならないだろうけど。
「それが諸説あるんだが、確実なことは誰も知らないんだ。
誰かの依頼ということでもなくて、シルヴェスター自身が決めて、ここまで来たらしいからな」
「はぁ……」
うーん。結局未だに、彼の目的が分からないなぁ……。
やっぱり本命は『神託の迷宮』だろうけど、きっとそれくらいなら誰かが調べているよね……?
……私たちもいずれ訪れる予定だし、そのときはシルヴェスターのことも思い出してあげることにしよう。
「まぁまぁ、難しい話はここまでにしましょう♪
今晩はアイナさんたちの歓迎会をするから、楽しみにしていてくださいね!」
話の切れ間に、アイーシャさんが明るくまとめた。
本当なら歓迎会なんてやってる場合じゃ無いだろうけど、一日くらいなら良いよね?
「ありがとうございます。
明日から頑張りますので、今日はご厚意に甘えることにします!」
「うふふ、よろしくね。
それでは引き続き、オリヴァーさんたちは作戦会議を続けてくれるかしら。
アイナさんたちは、別の部屋で私ともう少しお話をしましょう」
「はい! 積もる話もたくさんありますし!」
「ええ、たくさんお話を聞かせてね♪」
――もちろんそれは、世間話だけではない。
これからはお互いが助け合い、きっと利用し合うのだろう。
だからこそ、きちんと根っこの部分を話しておかないと……ね。