テラーノベル
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大学に進学したら、一人暮らしを始めると決めていた。
瞳子さんは、李人くんを育てるために家事全般を完璧にこなしているはずだ。
そんな彼女を幸せにするなら、僕も同じくらい家事ができることが大前提だと思った。
僕に無関心だった母が、僕の独立には強く反対した。
いつも通り濃い化粧を施し、ブランドの服を身につけた母が、僕の部屋へやってくる。
「祐二、勝手に家を出ることは許さないわ」
「母上になんと言われようと、僕は家を出ます」
「祐二は、この家を継ぐ人間だと教えたわよね?」
その言葉に、僕の手がビクッと止まった。
だけど、すぐに緊張は解ける。
「母上がかけた呪いは、とっくの昔に解けています。僕はもう、自分を取り戻しました」
「あら、大口を叩けるまで成長したのね。なら、しばらく自由にしてあげる」
母がコツコツとヒールを鳴らし、僕の正面へ回り込む。
「世間の現実を味わってきなさい。でも、あなたは朝倉家のしがらみからは逃れられない。きっといつか、ここに舞い戻ってくるわ」
母の言葉は、いつも心に痛みを伴って突き刺さる。
故意なのか、不器用なだけなのか。
僕には最後までわからなかった。
僕は久しぶりに、母の顔を正面から見据えた。
(母は、僕を愛してくれていたのだろうか)
でも、すぐに首を振った。
もう、そんなことはどうでもよかった。
「残念ですが、母上の思い通りにはなりません。僕は希望を見つけてしまったので、二度とここには戻りません」
「そんな自由、私は与えない」
母が一歩、また一歩と僕に近づいてくる。
僕は荷物を詰めながら、その距離を見ていた。
もう、母に抱きしめてもらいたいとは思わなかった。
僕の人生を縛りつけようとする母は、やっぱり魔人だったから。
「僕はあなたから自立したんです。もう、邪魔をしないでください」
最後の荷物を抱え、僕は部屋を出た。
横を通り過ぎる瞬間に見た母の表情は、無表情だった。
この人には、本当に親としての感情があるのだろうか。
僕は、ひどく虚しかった。
※
お坊ちゃまの一人暮らしは、皆に心配されたけど、意外にも楽しかった。
#年の差恋愛
湊未来
1,071
#恋愛
水羽凛
301
#そっちと元サヤ?!
専業プウタ
295
夏目莉央
1,537
瞳子さんは、何が好きかな。
「女の子は、素材にこだわったドレッシングが好きなんだ。じゃあ、今日はニンジンドレッシングに挑戦!」
僕はタブレットで料理指南を受けながら、ニンジンをすりおろしていく。
「よし……できた」
完成したドレッシングを味見して、僕は思わず笑った。
「祐二、これ、美味しい!」
瞳子さんが頬に手を当て、目を輝かせている。
そして、僕にニコリと笑ってくれる。
そんな彼女を妄想しながら料理をする時間が、楽しすぎた。
この頃から、僕は瞳子さんとの結婚生活まで夢見るようになった。
それが、僕にとって何より幸福な時間だった。
だから、ほかの女性は目に入らなかった。
進学した大学は共学で、女性から声をかけられる機会も増えた。
けれど、瞳子さんを越える人なんて、一人もいなかった。
下心が見えたり、中身のない会話をする女性には、むしろ嫌悪感すら覚えた。
僕の心は、もう瞳子さんに決まっていた。
そして、資金が貯まった僕は、さらに見聞を広げるため、いよいよ海外留学をすることにした。
家を出る前、黒川と兄に留学の相談をした。
「坊ちゃま! お一人での海外生活は危険でございます」
家を出てからも、黒川にとって僕は、まだ幼いお坊ちゃまだった。
大切に思ってくれているのはありがたい。
でも僕には、一人の女性を守るために、どうしても挑戦したいことがあった。
そんな僕の背中を押してくれたのは、兄だった。
「自分から世界に飛び込む気概があるのは素晴らしいことだよ。祐二、たくさん学んでおいで」
兄は、ある留学団体を教えてくれた。
それが『青年ドリームメイク財団』だった。
「この団体の設立には、父上が関わっていたそうだ」
「父上が……」
「才能と将来性のある青年をバックアップするための財団だ。これに申請してみなさい。祐二に価値があれば、認められるはずだよ」
姿も声も知らない、自分の父。
そんな父との繋がりを感じて、胸の奥が妙に熱くなった。
僕は迷わず申請した。
そして審査を通り、自分の力で留学への切符を手に入れた。
海外では、人見知りなんてしていたら相手にされない。
僕は積極的に人と交流し、自分から人との繋がりを築いていった。
「富士山を見たことがあるかい? 僕は登ったことがあるんだ」
そんな話をきっかけに、知らない国の人とも会話を交わした。
古い歴史から現代の新しい文化まで幅広く学び、世界が何によって動いているのかを必死に考えた。
金融は、世界経済や政治と切り離せない。
だからこそ、広い視野を持つことが必要だった。
すべては、瞳子さんに会うため。
彼女に相応しい男になるため。
僕は着々と、瞳子さんに会うための準備を進めていった。
そして、自信をつけた僕には、もう一つ、具体的な目標があった。
それは──
二十歳になったら、瞳子さんに会いに行くことだった。
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