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ここ最近、マーカスの態度が変だった。


学術院にいる間は、仕事をしていないのか、アンリエッタから離れようともせず、かといって家に帰れば、何処にいるのか、姿を見せなかった。

食事の時間でさえ、呼んでも現れないので、とりあえずテーブルに用意しておくと、いつの間にか空になっていることがざらだった。


事情を聞きたくても、顔を合わせるのが学術院しかないため、聞くにも聞けない。


そのためアンリエッタは、パトリシアに聞くことにした。けれどそれまで、頻繁にお茶に誘ってくれていたパトリシアが、突然パタリと声をかけなくなったばかりか、学術院で会うこともなくなってしまったのだ。


あまりのことで心配になり、具合でも悪くなったのかと、マーカスに聞いたが、そうではなかった。会うことが出来ないのなら、手紙でならと思い、書くことにした。


ご機嫌伺いのような文章から始まり、具合が悪くないとは言っていたが、心配なのでそれも書く。出来れば会いたいような旨も忘れずに。

そして最後に、思い出したかのように、マーカスの態度が変だという話を盛り込んだ手紙を、マーカス本人からパトリシアに渡してもらうように頼んだ。


きちんと手紙を届けたのか、確かめるすべはなかった。が、いつものように学術院で神聖力の授業を終えると、何故か教室の外に、パトリシアの護衛をしているルカがいて、無事届いたことを察した。


まさか、ルカが手紙を届けてくれるとは思わなかったため、緊張してしまった。パトリシア同様、『銀竜の乙女』のメインキャラだ。

今までは、パトリシアの後ろに控えているだけで、接点がなかったため、少し残念に思っていたが、こうして会話まで出来るのは、嬉しかった。


けれど、アンリエッタが浮かれていると、やはりマーカスは面白くないらしい。初めの内は、アンリエッタを待ち伏せしたルカに嫌悪感を示していたが、パトリシアとの手紙のやり取りを繰り返している内に、アンリエッタも慣れたことで、事なきを得たようだった。


そのお陰で、パトリシアが今、ジャネットから調べものを頼まれていることを知った。と同時に、マーカスにも別の件ではあったが、こちらも調べものを頼まれたらしい。


共通しているものは同じ。銀竜のことに関連しているとのこと。


パトリシアの方は、貴族名鑑から生贄の証と同じ模様がある紋章を探すこと。マーカスの方は、本人に直接聞いてほしい、と返事が来て、アンリエッタは頭を抱えた。


すでに話が来たのにも関わらず、私に話してくれないのだから、話す気はないということなんでしょ。だから、聞いたのに! やっぱり、本人に直接聞くしかない。


けれど、そのマーカスがなかなか捕まえられなかった。そのため、いくらマーカスでも夜は部屋に戻るはずだと思い、意を決して向かうことにした。しかし、本人はいなかった。一時間ほど粘っても来る気配がなく、諦めて自分の部屋に戻ることとなった。


そんな状態が、かれこれ三週間ばかり経過していた。


けれど、成果がないわけでもなかった。パトリシアとの手紙のやり取りは、思った以上の収穫を得たのだ。


一つは、ザヴェル侯爵家のこと。マーカスは、アンリエッタが平民だからか、実家の話をなかなかしてはくれなかった。もしくは孤児だから、家族の話がし辛かったのかもしれない。まさか、嫡子のアイザックさんと、不仲だったとは……。


二つ目は、ルカ・カリフのこと。それとなく、出会いを尋ねたら、すんなり教えてくれた。本人が近くにいると気恥ずかしかったりするが、手紙なら書き易かったのかもしれない。お陰で、どうして護衛という立場になったのか、理解できた。


まさか、マーカスの手紙で、パトリシアとルカの出会いに誤差が出来てしまうなんて、思ってもみなかったのだ。

私がイレギュラーであることは間違いない。けど、立場は変わってしまったけど、仲が良さそうで何よりだった。本来結ばれる二人が結ばれないのは、小説の読者として、心苦しい気分になるからね。



***



結局、一回もマーカスを捕まえることは出来なかった。そんな日々が続いたある日、偶然にもマーカスの姿を発見した場所は、裏庭だった。


昼も無事、完売して店を閉めた後、いつものように家の中に戻ると、自然とテーブルに視線がいった。


その上には、今日もいるのかいないのか分からない、マーカスのために作った朝食が置かれていた。


「まだ、手を付けていない……」


悪くなってしまうと困るので、アンリエッタはそれを食べた後、間食できる量の料理を作り、再びテーブルの上に置いた。最近のアンリエッタの食生活は、こんな状態だった。


それでも、用意するのは、マーカスが食べているのか、帰っているのか、それを確かめるためだった。


溜め息を付き、アンリエッタは薬草の様子を見に行こうと、裏庭が見える窓に近づいた。その窓は、逐一外に出なくても、薬草の様子を見える様に、作ったものだった。


それが、こんな形で役に立つとは思わなかった。


学術院には毎日行くわけではないため、マーカスを見るのは数日ぶりだった。後ろ姿しか見えないが、あれは確かにマーカスだった。


そして、その前にいるのは、誰だろう。フードを被っていて、顔が見えなかった。


フード? 確か、フレッドは普段、フードを被っている、とマーカスが言っていた。見た目の体格からしても、男性のように見えるし。細いのは、司祭だったなら、可笑しいことじゃない。


思わず、前のめりになって、窓にかじりついていた。すると、フレッドらしき人物と、目が合った。咄嗟に、人差し指を口元に当てた。向こうは、目を閉じて答えてくれた。やはり、フレッドだった。


そして、しばらくすると、フレッドがいなくなり、マーカスだけになった。すぐにその場から離れるのだろうか、様子を見ていると、マーカスが振り返り、目が合った。


「!」


覗いていたことがバレたのだと、始めは驚いた。けれど、それは短く、別の驚きに上書きされた。


「マーカス!」


裏口を開け、駆け寄った。手を伸ばし、マーカスの頬に触れた。


「食事は? 睡眠だって、ちゃんと取っているの?」

「開口一番に聞くのが、それなのか?」

「だって……」


だって、ひどく疲れたような顔をしているから。聞きたかった言葉よりも、マーカスの体調が気になって仕方がなかった。


マーカスはアンリエッタを安心させるように、頬に触れる手に、自身の手を重ねた。


「アンリエッタが毎日用意してくれた食事は、食べているだろう。睡眠も取っている」

「食事なんて、結局一食分しか食べいないじゃない。睡眠だって、部屋で寝ているの?」

「あぁ、わざわざ俺の部屋で、待っていてくれたのに、悪かった」


茶化して、誤魔化そうとしているのが見え見えだった。


「それもあるけど、廊下で帰ってくるのを待っていたのよ。でも、いつまで経っても来ないから……」

「ごめん」


頬から離れた手を、マーカスは握って引き寄せた。


「とりあえず、聞きたいことは山ほどあるけど、今はご飯を食べて。用意してあるから」


その手をアンリエッタは、逆に引っ張った。が、ビクともしないことに、不審な眼差しを向けた。


「ごめん」

「ダメ。今日は絶対に逃がさないんだから」


アンリエッタは、マーカスの謝罪の言葉など無視して、背伸びをした。空いている方の手を、マーカスの肩に置いて、頬にキスをした。


「アンリエッタ?」


祝福をした。神聖力の鍛錬をしている今なら、頬にキスをしなくても、神聖力を譲渡出来る。けれど、アンリエッタは敢えて、この方法を取った。


「まだ足りない?」

「……っ」

「!」


いつもとは立場が逆転したかのように思ったが、それは一瞬だった。マーカスに抱き着かれたのだ。


やっぱり、まだ足りないみたい。


アンリエッタは、マーカスの背に腕を回し、神聖力を分け与えた。



***



マーカスの手を引いて、椅子に座らせた。


「朝置いてあったのとは、違うようだが」


テーブルに置かれた食事を見るなり、マーカスはそんなことを言った。つまり、見たけど食べなかった、ってこと?


「それは、さっき私が食べちゃったから、今はこれを食べて。嫌でも何でも」

「食欲がなくても?」

「お腹に入れて。疲労の回復は、食事と睡眠が基本なんだから」

「疲れていない」


嘘だ。疲れていないはずはない。先ほど神聖力を分け与えても、超人になるわけじゃない。とすると、本当に食欲がないのかな。なら、先に睡眠……ううん、何かお腹を満たした方が良い。


「た、食べさせてあげるのなら、食べてくれる?」


ここが家じゃなかったら、逃げ出したいくらい、恥ずかしかった。


赤くなった顔で真剣に言うと、マーカスは苦笑した。


言うんじゃなかった、と思ったが、マーカスの爆弾発言で、さらに後悔する羽目になった。


「膝に乗って、食べさせてくれるのなら、食べる」

「なっ、なんで難易度を上げてくるの⁉」

「せっかくだから。それに、聞きたいことがあるんだろう」

「うっ……」


確かに、聞きたいことはあるよ。だけど、ここで負けるわけには……。


「寝る時に、このないだみたいに子守唄、歌ってあげるから。それと、さっきの祝福も含めれば、お釣りが出るくらい、サービスしていると思うけど」

「膝はダメ? なら、添い寝付きなら、譲歩するけど?」

「……ちゃんと私の質問に、答えてくれるならいいけど」


マーカスはしばらく悩んだ末、頷いた。


「うん。いいよ、交渉成立だ。あっ、でも食べさせてはくれるんだろう」

「そうしなきゃ、食べてくれないんでしょう」


そう言うと、マーカスはアンリエッタの顔をじっと見つめた。


「……アンリエッタが食べたい」

「もう一度、可笑しなことを言ったら、先に寝かしつけるからね」


強制的に。


マーカスの通常運転に喜んでいいのか、悲しんでいいのか分からなかった。いや、疲労で頭が可笑しくなっているのだろう。


アンリエッタは、マーカスを一睨みすると、キッチンに向かい、食事の準備をした。


どうして舞台が隣国に!?

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