テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
《ライブラグス砂丘》
「良い魔力量だ、キール」
「……褒めてもらって光栄だ……はぁ……はぁ……」
メイトの力により森の木々は消え、あたり一帯の八割は再び砂漠と化していた。
キールは、蹴られ、斬られ、押し潰され、殴られ、吹き飛ばされ――
締め付けられ……様々な攻撃を受けながらも、いまだ立っていた。
だがその身体は、既に限界を迎えつつある。
「もう、無理をするな。息が上がっているぞ」
「……はぁ……っ、はぁ……っ……」
「チッ、鬱陶しい!」
メイトに向かって遠方から放たれたクリスタルの破片が空を裂き飛ぶ。
だが、魔眼の力がそれを粉砕する。
さらに砂の中から伸びてきた鞭のような木の根も、瞬時に圧壊させた。
「キールが終わったら――お前たちだ。
その力……女神の作り出した『四聖獣』と関係あるか?
ゆっくりと聞かせてもらうから、覚えておけ」
「…………」
キールは、わずかに呼吸を整える。
ルカとユキナの援護によって得た時間は、ほんの数秒。
しかしそのわずかな猶予を、キールは逃さなかった。
魔力回復を高める独自の呼吸法――
その技を用いて、少しでも多くの魔力を回復しようとしていた。
「くだらん悪あがきを……」
「どう……かな。こういう悪足掻きは……弱者の特権だ」
「ほう?」
「俺たちは……【勇者】のように強くはない。勇者なら一撃で倒せるようなドラゴンも、俺たちには何人もの命を犠牲にして、やっと討伐できるかどうか――」
キールはぐらつく膝を堪え、メイトをまっすぐ睨み据えた。
「それでも、みんな……! 命を懸けて足掻いて、もがいて……それでも前に進もうとしてたんだ!」
「……」
「たとえ……結果がダメでも……必死に、諦めずに戦っていた! 弱いなりに、何とかしようとしてた!」
怒鳴る声に混じるように、喉の奥から血が滲む。
それでも、キールの目は決して逸らさなかった。
その瞳だけが、なおも確かに「立って」いた。
メイトはわずかに首を傾げると、冷ややかな声で告げる。
「そうか……人間の代表騎士キールよ。その精神力は、確かに認めよう……だが、勝利は来ぬ」
「……!」
「その理屈では、いずれ尽きる。お前も、そして仲間たちもだ。わかっているのだろう?――ならば、諦めろ」
メイトの声が終わると同時に、魔眼が赤く輝く。
空気が一気に沈むように、砂漠に重力が叩きつけられた。
「くっ……!」
キールの肩が潰れるように沈み、全身が地面へと押さえつけられる。
あまりの重圧に、膝が砂へと沈み込み、腕がわななく。
(クソッ……目撃護が効かない!?魔力が尽きて来て重力が!)
その時、キールの視界がぐらりと揺れる。
魔力が、尽きようとしていた。
(こ、これ以上は……!)
その時――!
【エマンドゴラァッ!!』
「お前は……っ!!」
突如、再び現れた美女が、容赦なくメイトの顔面を殴り飛ばす!
その衝撃は凄まじく、メイトの身体は一直線に砂丘の奥へ吹き飛び、背中からダイブして地面に埋まっていった。
「アオイさん……!」
【あれ?これって二回目かな?さっきもこんな感じだった気がするけど』
砂塵が晴れると、そこに立っていたのは――
金色の髪をたなびかせ、澄んだ青の瞳を持ち、凛とした美貌と最強のボディラインを兼ね備えた“最高の美女”……【アオイ』だった。
「大丈夫なんですか……?」
【うんっ!心配いらないよ!』
キールの問いに、アオイは一切の迷いも見せず、澄んだ声で答えながら――
白く細く、そしてしなやかな腕を差し伸べた。
その手を、キールが掴む――その瞬間だった。
「っ……!?」
【?』
アオイの手から、膨大な魔力が一気にキールの体内に流れ込む。
とてつもない奔流。
その魔力は底が見えず、まるで“人間型の魔力貯蔵庫”かのような異質なエネルギーだった。
「アオイさん、一体……何を……?」
【え? 僕なんかした?』
当の本人は、まるで自覚がない。
ただ、膝をついていた仲間に手を差し伸べただけ――本当に、それだけのつもりだった。
(これが……勇者の力、なのか!?)
「いえ、何でもありません。アオイさんには【目撃護】を発動しました」
【ありがとうっ』
「ですが、メイトは今の一撃だけで倒せたとは思えません。すぐに我々で――」
【ううん、もう大丈夫。ここから先は――あそこにいる“おバカさん”に任せよ?』
アオイが指さしたのは、少し離れたピラミッドの頂上。
その曇天の下、鏡のように鈍く光る日本刀――寡黙なる【勇者】の姿があった。
「!!! ヒロユキ殿!!」
【ミラーワールド、だね』
「……?」
【ヒロユキ君ね、前にアバレーで魔王【ミラ】と【カエデ】を相手に戦ったとき、“鏡の世界”っていうのがあることを知ったの』
「それは報告で聞いていますが……それと、今の復活とどう関係が?」
【それがね……実は僕もヒロユキ君も、自分でも理由はよくわかんないけど、死ぬ直前に“鏡の世界”へ魂を一時的に避難させてたみたいなの。それで……隠されていた本当の身体を近づけたら、ヒロユキ君は元に戻った、ってワケ』
「鏡の世界……しかし、そんなものが……あっ!」
キールの脳裏に、ある記憶がよぎる。
――そうだ。首を落としたはずのメイトの身体。あの胸には、黄金の鎧が――!
【おっと、出てきたみたいですよ、キールさん』
突如__まるで大海から浮上するクジラのように、砂煙を巻き上げながら、魔王が空へと飛び出してきた。
「チッ……一度ならず、二度までも! 一体何者だ……!」
再び現れた魔王メイトが、下を見下ろして自分を打ちのめした相手を探す。
そして、視界に映ったその姿に、メイトの表情が固まった。
「あれは……報告にあった『女が――」
だが、その言葉を最後まで紡ぐことはできなかった。
理由はただひとつ。
《空中にいるにもかかわらず、真横から殺気が走った》からだ。
咄嗟にメイトは、手元に出現させた黄金の長槍を横薙ぎに振るう――が。
「貴様は……!」
「……久しぶりだな、魔王」
黄金の槍は音もなく三つに裂かれた。
刃先は消え、柄だけが残って虚しく砂へと落ちる。
【俺が言えないけど、あんだけみんなに心配かけて、迷惑かけたんだ……。だから、最後くらい――お前が頑張れ、ヒロユキ!』