テラーノベル
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日雇いバイトに行くと、着ぐるみを渡された。
「はい、これ着て。あ、キャラクターのイメージもあるから、喋らないようにね」
「あ、はい」
ちょんまげはじっと着ぐるみを見る。ウォーターサーバーのキャラクターだから、水に関係した生き物だろうか?
着てみると、かなり重い。視界も悪い。ヨタヨタと歩くと引っ張って行かれ、着いた先で首に何か掛けられた。
「子どもとか来るから、風船渡してくれよ。じゃ、休憩時間になったら交代に来るから」
スタッフの男はそう言って、ちょんまげの肩を叩く。よろっとよろけたが何とか留まり、ちょんまげはぼんやりと前を見た。
「わー、へんなのがいるー」
「風船ほしいー」
子どもの声が聞こえる。風船を渡そうと姿を探すと、大人の声が聞こえてきた。
「あれはダメよー。ほら、行くわよ」
「えー、ほしいー」
「ああいうのは押し売りだからっ。風船なら後で買ってあげるから」
子どもは去っていき、ちょんまげは風船を差し出したまま固まる。
『あれはダメよ』
(……ダメだなあ、僕)
自分の事を言われたわけじゃない。なのに、その言葉がちょんまげを刺す。
ちょんまげの近くには人が避けたようなスペースが広がり、風船は減らない。立地が悪いのか、キャラクターが悪いのか、人慣れしていないちょんまげの負のオーラを感じるのか……子どもは足を止めるが、親がその手を引いて行ってしまう。
(こんな仕事も、満足に出来ない……)
踊ればいいだろうか、自分から動くべきか……どれもちょんまげにはハードルが高い。
(暑いなあ……)
水分補給しなくちゃ。でも、まだ交代の人は来てないし。
ぼんやりとそんな事を考えていると、やや足早な足音が近付いてきた。そちらを見ると、狭い視界に飛び込んできた大好きな人の顔。
「みずおくん、風船くれる?」
(ター、ボー)
ターボーは風船を一つ、ちょんまげの手から取る。身綺麗なジャケット姿に、アンバランスなピンクの風船。
「もっと、くれる?」
(うん、うんっ!)
水色、黄色、緑色。次々と風船を渡すと、ちょんまげの手には何もなくなる。ターボーの両手には、いっぱいの風船。なのに、
「もっとくれ」
ターボーの要求に、ちょんまげはパーテーションの裏に用意された予備の風船を取りに行こうとする。しかし、ターボーは風船を片手にまとめてちょんまげの、着ぐるみの手を握る。
「これは、くれねえの?」
(ターボー、もしかしてこのキャラのファンなの?)
着ぐるみの中で目をぱちくりさせるちょんまげに、ターボーは笑う。
周りは遠巻きに立ち去る人ばかり。近づいてきてくれたのは、ターボーだけ。
「おーい、交代……」
スタッフの男が足を止める。それをいい事に、ターボーはちょんまげの手を引いてパーテーションの裏に行く。
「あの、さ」
「みーつけた」
着ぐるみの頭を取り、ターボーはちょんまげの頬に手を置く。汗でしっとりと濡れた肌を拭い、触れるだけのキス。
「で、これくれる?」
「でも、僕、バイト中で……」
「会社に置くから、ウォーターサーバー」
そんな強引な、と思うけど、この笑顔には勝てない。負けてもいい。
「うん、あげる」
着ぐるみを脱ぐと、ターボーはちょんまげを抱き上げる。ターボーの手の風船が、二人の周りから飛んでいく。
「あー、汗の分痩せただろ」
「そんな、まさか」
「食わして増やす。何食べようか」
スタッフに簡単に説明し、ターボーはちょんまげと会場を去る。
「つーか、バイトよりウチに就職しろよ」
「だって、ターボーに迷惑掛けたくない……」
「迷惑じゃねえし、むしろ俺の手の中にいてほしいし」
思わぬセリフに、ちょんまげは顔を赤くする。その想いが嬉しい。でもまだ怖い。
まだ付き合い始めて少し。ちょんまげの心には劣等感と自己否定が根付いている。
それを知っているから、ターボーは全力で愛を伝える。お前は俺の特別だと。伝わるまで、ずっと。
「ターボー、どうして僕があの着ぐるみの中にいるって分かったの?」
ふとちょんまげが訊く。顔は見えない、声も出してない。なのに、どうして?
「そりゃ、俺は宝探しが得意だからさ」
ターボーはそう言って、ちょんまげの手を握る。
「風船より、お前が欲しいんだよ」
「……ごはん、食べに行こ」
顔を伏せたちょんまげの顔は耳まで真っ赤で、ターボーはそれを見て満足気に笑う。
どんなに隠しても、ターボーはちょんまげを見つけるだろう。繋いだ手が離れなくなるまで、ずっと。
コメント
1件
うわあ、胸がじんわりしました……。着ぐるみの中にいるちょんまげくんの自己否定感と、それを一発で見つけ出すターボーの圧倒的な愛情。風船を全部受け取って「これはくれねえの?」って手を握るところが最高に甘くて、設定の小道具(着ぐるみ・風船)がそのまま二人の距離感を象徴してるのが素敵です。不器用なちょんまげを“宝探し”で見つけるって台詞、痺れました。
はるき
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はるき
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