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<凌太>
土曜日の朝、昨夜ラインで待ち合わせ場所を路線を変えた駅にした。
松本ふみ子が俺の動向を見ていると思うとなるべく行動を変えておきたかった。
アプリを起動して松本ふみ子の現在地を確認するとどうやら家を出て移動をしているようだ。
俺の方がストーカーのようで、気分は悪いが松本ふみ子のストーキングの証拠を集めていくしかない。
コーヒーメーカーにカプセルをセットすると1分ほどで香ばしい香りが広がる。
コーヒーを体に沁み渡せると黒のデニムに白いノーカラーのオックスフォードシャツを着てグレーのチェック柄ジャケットを羽織るともう一度スマホをチェックする。
松本ふみ子の移動先はたぶんココだ。
常に俺の居場所を把握していたどころか、こんな風に近くにいたことを考えると嫌悪感が募る。
駐車場に行き、車のエンジンをかけた後スマホの電源を落とした。
本当はアプリの削除をしてしまいたいが、逆に松本ふみ子の動向を探るためにしばらく入れておいた方がいいという飯島の助言をうけてそのままにしている。というか、こちらからも監視をしている。
だから移動をする時に電源を落とすことにしたがこれもあまり頻繁にすると、松本ふみ子に違和感を感じさせてしまうため使い方も考えながらになる。仕事中や瞳に関係しないときはそのままだが、瞳に会うときは
神経を使う。
瞳の家からアクセスがよく程よく離れて車を寄せやすい駅で待ち合わせをした。
タクシー乗り場手前に車を寄せておく場所があり、改札からも見えやすい場所に停車することが出来た。
改札に意識を向けながらスマホの電源を入れると無数の通知が一度に入りひっきりなしにスマホが震え続ける中、メッセージ等のチェックをしていく。おふくろからの着信があったが、どうせ沼田吉右衛門商店関連だろう。メールとラインを確認した後GPSを確認するとマークは俺のマンションの近くにあった。
異常だ
深く息を吐く
ここまで執着されるほど関わってはいないはずだ。
休みの日まで俺の近くにいる、自分の生活はどうなっているんだろう?
考えたところで執着をする人間の気持ちなどわからない
・・・・
違う
俺も執着している。
家族に
親父に
そして瞳に
諦めようと思うとさらに求めてしまう。求めるという生やさしい感情ではなく、渇望するほどという言葉の方がしっくりとくる。
そんなことを考えながら改札を見ると瞳がきょろきょろと周りを見ている。
車から降り手をあげると気づいた瞳が笑顔で手を振り返してきた。
「おはよう」
「おはよう」そう返してから助手席のドアを開けると流れるように座席につきシートベルトを着けた。
「俺のリベンジだから、あの頃と同じ海岸線で行こうと思う」
「うん。自販機でカップ麺が食べたい」
「了解」
仕事の話になると宇座という男のことにつながりそうで天気の話や街並みの話をする。
「結構長く住んでいて、この辺りも近いと言えば近いけど全く知ることもなかったかも」
「俺もそうだな、住んでいた町でさえよくわかっていなかった。ただ通り過ぎるだけ、人もそうだよな。すれ違う人はたくさんいるけど一緒に過ごす人は関わろうとした人だけ。でも、関わった人でさえよくわからなかったりする」
街並みを抜け海岸線にはいるあたりで正面に江ノ島が見えてきた。
「江の島だぁ。全然来てないな」
「以前は来てた?」
「高校生までは時々友達と来てた。コンビニでチキンとか買って食べているととんびに強奪されるのよね。凌太は?」
「高校までは地元をプラプラって感じだな」
って、瞳はバレてるけど俺の口からは言いたくない。
「江の島水族館だ」
「来たことある?」
「家族で来たよ、ファミレスでご飯食べてすごく混んでいて駐車場に停めるのが大変だった気がする」
うらやましいと思えるほど瞳の両親は娘をとても愛している。たくさんの思い出があるんだろう。
「そういえば川崎の駅前にも水族館があるんだよね」
「駅前?」
「ビルの中。行ってみたいって思うんだけど、いつでも行けそうな距離ってかえって行かないよね」
「じゃあ一緒に行こう」
一拍、間が開いたから行かないと言わるかと思っていたら「うん」と返事が返ってきてホッとしたのも束の間「凌太って両親とはうまくいっていないの?」と聞く声がためらいがちで気を使っていることが伝わってくる。
「別に言いたくなければいいよ、学生のころから両親の話を聞いたことってあんまりないから」
「隠しているつもりはなかったんだ、ただあんまり楽しい家族じゃないし。聞いてくれる?」
目の端で頷いている瞳を見てから、政略結婚の二人は初めから仮面夫婦で甲斐を見下すおふくろと、おやじは愛人が亡くなるまで長いあいだ不倫をして主に土日はもう一つの家に入り浸っていたことを話した。
そしてそれを知ったのは大学に入ってからで、長い間何も知らずに過ごしていたことを話した。
ただどうしても、俺よりも家族の愛を知っている異母弟の事は言えなかった。
「何かあったのかな?って思っていたけど。ずっと寂しかったんだね」
確かに寂しかった。自分がみじめで口に出したくなかったのかもしれない。
「そうだな寂しかったんだな。瞳の家族はとても暖かくてうらやましい」
口に出して言ってみると妙に心にストンと落ちてくる。
「だったら、自分が作ればいいんじゃないの?自分が憧れる理想の家族」
一瞬ブレーキをかけそうになり慌てて気持ちを落ち着かせる。
話をしているうちに西湘パーキングエリアに到着したが記憶とはかけ離れた状況になっていた。
「閉鎖されてるね、というか売店が無くなってる」
「来年の春にリニューアルオープンするようだな」
「カップ麺は食べられないか~」
「うまいかまぼこを買いに行こう」
「そうだね」
小田原城につくまで瞳はスマホを操作しながら、西湘パーキングエリアについて調べていた。
台風の被害を受けての復旧工事だったらしい。
「寂しいけど、昔よりもより安全に生まれ変わるんだもんね。進化は喜ばないとね」
「進化か・・・」
その言葉を心の中でもうちど呟いていると小田原城が見えてきた。
天守閣から相模湾を一望する。
混んでいるためあまりゆったりとはいかないが懐かしい思いが胸をくすぐった。
「茶屋は混んでるかな?うどんが食べたい」
「行ってみよう」
本丸茶屋は賑わっていたが丁度席が空いて二人揃ってかまぼこと梅干しが入った北条うどんを注文した。
瞳はあの時と同じように写真を撮っている。
今回は俺のスマホにメッセージは入らずカメラに意味深なメッセージが映り込むことはない。
「かまぼこおいしいね。梅干しがすっきりしていてまだまだ食べられそう」
「確かに、でもこの梅干しで白いご飯がたべたくなるな。かまぼこも酒の肴にしたい」
「運転手だから、それはダメだから。かまぼこを買って帰って家で飲んでね」
「じゃあ一緒に飲もう」
「そのためにはおいしいかまぼこを買って帰らなくっちゃ」
二人で手を繋いで城内を歩く。
少し照れくさいが、繋いだ手のひらから幸福感が溢れてくる。
「ここ、藤棚があるんだね」
「西湘PAが来年の春にオープンするならその頃に来れば藤が満開かもな。春になったらまた来よう」
「うん」
のんびりと歩いているだけで煩わしい問題から少しの間は解放される。
「ねぇ、二宮金次郎って何をした人か知ってる?」
「急に何?」
瞳が指を指す方角に報徳博物館があった。
報徳は金次郎が晩年名乗った名前だ。
「確かに銅像とかは知ってるけど、あんまり知らないかもな」
「じゃあ入ってみない?」
生い立ちや農村復興などの資料を見学して知らなかった事が多いとか話をしながら博物館をでると報徳二宮神社が見え、二人で歩いて行く。
鳥居の前で二人並んでお辞儀をしてから先に進んでいく。
鳥居をくぐると空気が清浄になった気がする。
瞳はお参りの後、境内や金次郎の銅像の写真を撮っていた。