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<瞳>
待ち合わせをした駅は、知っているけど降りた事がない駅だったが、改札から駐車中の車がよく見えて車での待ち合わせにはちょうどよい駅だった。
やりなおしの小田原城、里子に話したら青春だねと生暖かい目で見られたみたい。
私だってそう思わないでもないけど、凌太への気持ちを自覚したら、突然途切れてしまったあの先のことを考えてしまった。
ずっと二人で居られると思っていたあの日々の先。
「俺のリベンジだから、あの頃と同じ海岸線で行こう思う」
そんな言葉を聞いて、同じ思いでこの日を過ごすことができることは単純にうれしくて
「うん。自販機でカップ麺が食べたい」と答えていた。
きっと味は変わらない。あの時も部屋で食べても同じものでも凌太と二人で海を見ながら食べるカップ麺はとても特別だった。
車は海岸線に入ると江の島が見えてきて江ノ島水族館の前を通過していく。
これまでの他愛のない話の中で凌太の家族との関係の希薄さが感じられる。
それは学生時代からずっと思っていた。聞いてはいけない気がして聞かなかった。
だから、凌太の母親の言葉を鵜呑みにしてしまった。
凌太の母親のせいだけではないけど、家族について聞いてみれば良かったのかもしれない。
お母さんにも言われたっけ。
「瞳に言っていいのかわからなかったかもしれないし、聞いたら言っていいんだって思って話してくれるかもしれない。」
そうなのかな?
水族館の話をしながらも、ずっと考えていた。
「凌太って両親とはうまいってないの?」
もっとオブラートに包みながら聞こうと思ったのに、直球を放ってしまった。
「隠してるつもりはなかったんだ、ただあんまり楽しい家族じゃないし。聞いてくれる?」
そう言ってから語り始めたのは、政略結婚からの仮面夫婦と父親の不倫。
それを知ったのは学生時代。
家を出たのはそのことがあったからだろう。凌太は父親をとても尊敬していたから、すごく苦しくそして寂しかったんだろう。
思わず「だったら、自分が作ればいいんじゃないの?自分が憧れる理想の家族」と言ってからちょっと微妙な空気になってしまって、まるで私がそうなることをねだったみたいで気まずくなり、違う話をして気をそらそうと思ったときにパーキングエリアについたが、あの日あった売店が無くなっていた。
調べてみたら台風の被害を受けての復旧工事だった。地盤上げなどをして高波や津波に備えたパーキングエリアに生まれ変わるらしい。
壊れてしまったなら、壊れにくく進化させればいい。
あの日と同じく天守閣に登ったあと、茶屋でうどんを食べた。
天守閣の写真や天守閣から一望する相模湾の写真と共に北条うどんの写真をSNSにupする。
普段はほとんど”見る”だけだが、この日の思い出を誰ともなしに見てもらいたかった。
浮かれてるのかも
隣を歩く凌太が顔は前を見ているのにまっすぐに下した腕の先、掌をこちらに向けている。
その掌に触れるとぎゅっと手を握ってきた。
いい年をしてって言われそうだけど、どうせ誰も見ていないし楽しいからいいかって思う。
二人で歩いていると藤棚を見つけた。
来年一緒に来ようと話をしながら歩いていると、報徳二宮神社の横を歩いていくと樹齢のありそうな桜の木がありその向かいには報徳博物館がある。
神社に博物館ってよっぽど有名な人なのかもしれない。
誰だろ?
報徳二宮神社・・・ん?尊徳、報徳・・・二宮金次郎?
私が通っていた小学校も中学校も銅像は無かったけど、背負子を担ぎながら本を読む少年は知ってるけど
「ねぇ、二宮金次郎って何をした人か知ってる?」
ふとした疑問を伝えると凌太もよく知らないらしい。
博物館に入って銅像ではなく人間二宮報徳を知ることができた。
あの時、マオのメッセージを見てそのままかまぼこを買いに行った。
あれがなかったらもっと早く二宮報徳について知ることができたかも。
そんなことを思ってちょっと心の中で笑ってしまった。
せっかく二宮報徳の功績を勉強したから、神社にも行ってみることにした。
銅像をみつけて写真を撮るとこれもSNSにupすると里子から[楽しそうね]とコメントが入っていた。
凌太も私も穏やかにすごせますように
心の中でそう呟いて一礼をする。
「何か願い事をした?」
「ひみつ。かまぼこを買いに行こう」
鳥居が見えてきたところで凌太が立ち止まる。
つないだ手が強く握られ真剣な目で見つめられる。
急に変わった空気に戸惑っていると「憧れる理想の家族になってくれないか」と言われ一瞬固まってしまう。
自分で言った言葉だけど凌太が言うとちょっとキザだなとか関係のないことを考えてしまう。
「返事は今すぐじゃなくてもいい、考えて欲しい。もちろん、いくつか抱えている問題はある。必ず解決する」
握っている凌太の手が少し震えている。
「うん。問題は一緒に解決していこう。私も宇座のことをさっさと終わらせてすっきりさせる」
Ryoさんのことは様子見でいいよね。
「宇座のことは先生にまかせるしかないな。どれくらい取れるかわからないけど」
「本当は宇座からのお金なんていらない。だけどやったことは消えない、訴えない代わりに示談金は払わせたいだけだから」
「そうか」
鳥居をくぐると一緒に振り返りお辞儀をしてから歩き出した。
家には板付きかまぼことあげかまを、里子にはお菓子感覚で食べられそうな一口かまぼこを買った。
凌太も板付きかまぼこと「じいさんが好きなんだ」と言ってだて巻きを購入していた。
「帰りは高速に乗るからそれまでどこか入りたいところがあったら言って」と言われていたので、焼肉と書かれた看板を見つけたときは即声を掛けた。
お昼はうどんだったからご飯をモリモリ食べたい気分だ、付き合うことになったデートでどうなんだ?って気持ちもあるが取り繕ってもしょうがない。
凌太はトングで骨部分をつまんで持ち上げるとハサミで肉をチョキチョキと切っていく。
辛口のたれにちょんとつけてご飯と共に口にほおばると食欲が倍増していく。
「凌太ってよくよく考えると御曹司なのに焼肉奉行なのね。仕切ってくれてありがとう」
「一人暮らしが長いし、学生時代は瞳を手伝ってご飯を作ってたからな。今は外食ばかりだけど」
「そうなんだ。じゃあ、また一緒に作ったりしようね」
「まずは色々と買いそろえないと無理だな。今のマンションには何もないから」
「生活感ないものね、昔は一緒に買いに行って揃えたもんね」
骨付きカルビ、ハラミ、タンなど二人でどんどん消費して大満足で店を出た。
外に出るとあたりは橙と紺のグラデーションができていた。
高速道路は緩やかに流れていた。
「学生時代からずっと悩んでいたことがあって」と、凌太は話を始めた。
「大学一年の時に親父がずっと不倫をしていたこと、その相手が亡くなったことを聞かされた。子供のころから親が参加する行事は忙しいからと来ることはなかったんだが、その理由はもう一つの家庭のことだったんだ。俺が生まれた頃と重なっている期間に愕然として、そのまま家を出た。それから、俺の保護者としての役割はじいさんがやってくれるようになり、じいさんも親父のことが許せなかったんだろう。俺を養子にして早い段階で会社の代表を俺にすると言ってくれているんだ」
テールランプを見つめながらただ話を聞いていた。
「親父やおふくろに俺から絶縁状を叩きつけてやりたいと思いながらも、一歩が踏み出せずいまだにこの状態なんだ。情けないよな」
そんなの、悩むし苦しいし情けなくなんかない。
ただ家族のことで「凌太が傷つかず後悔しないことが大切だね」と凌太の横顔に伝えた。
ゆったりと進む景色の中、何も話をしなくても気にならない。
隣に凌太がいるそれだけでいいと思える。
「来週は水族館にでも行こうか?川崎もいいけど、金沢八景とかどう?」
「八景島!行ったことない」
「じゃあ決まり」
一般道路になり、もうすぐこの時間が終わるという時に次の約束を取り交わす。
家に着いたときはすっかり暗くなっていた。
家のまえについて「キスしたいけど、瞳の両親に見られると色々問題がでそうだから」と言って人差し指をかるく唇にタッチした。
「なんか、この方が照れくさいかも」そう言って笑うと凌太も笑いながら「おやすみ」と言った。
テールランプが見えなくなってから家に入り、かまぼことあげかまを渡すとさっそく酒の肴にすると言って父さんが封を開け始めた。
部屋に戻り里子にお土産を渡したいとラインをしようとしたらRyoさんからのメッセージが入っていた。
[こんばんわ]
[庭に咲いている花が綺麗なのでおすそ分けです]
メッセージのあとに金木犀の写真が送られてきた。
SNSに上がっていた花だがアングルも時間帯も違う。このために写真を撮ったんだろうか?
[可愛らしい花ですよね、きっと香りもいいとおもいます]
[おやすみなさい]
あたりさわりのないように返事をした。